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【司法試験/予備試験】独学攻略法⑨〜刑法の論文を書けるようにする(前編)
「学ぶって、楽しすぎる。」-弁護士の岩瀬雄飛です。
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今日のテーマは「刑法の論文を書けるようにする(前編)」。
以下の記事でも記載しているとおり、刑法は最も取り組みやすい科目であり、論文も書きやすいと思われる。そのため、司法試験の論文学習にあたっては、まずは刑法の論文を書けるようにし、自分でも論文式の問題が解けるという成功体験を作ることをおすすめしている。
なお、前回までの独学攻略法①〜⑧についてマガジンにまとめたので、刑法以外の科目についても合わせて参照いただけると幸いである。
(1)刑法の答案構成(全体)
刑法の答案構成は、一言でいうと、「人ごとに成立する罪を検討し、最後に罪数をまとめる」である。具体的には、以下のとおりとなる。
第一 乙の罪責
第二 甲の罪責
第三 丙の罪責
第四 罪数
ここで、人は重要な行為を行なった順(結果に直結した順)に論述していく。問題文で「甲、乙、丙の罪責について述べよ」と与えられていても、甲、乙、丙の順に記述する必要はない。
より具体的な事例で考えてみよう。
事例①:甲が乙にAを殺害するよう唆したところ、乙はAと間違えてBを殺した
この場合、まず①乙に殺人罪が成立するかを検討した後(論点:Aを殺す故意はあったが、Bを殺す故意はなかった)、②甲に殺人罪の共謀共同正犯が成立するか(論点:共謀共同正犯vs教唆犯。*)を検討することになる。
*この事例は短すぎるので「唆した」との文言から直ちに教唆犯と認定してしまって問題ないが、多くの事例問題では、結果的に教唆犯となる場合でも、共謀共同正犯の成否で論じる方が良い。大きい方から検討し、否定された場合、それでは小さい方は成立するか、という流れが原則になる。
事例②:乙はAの胸を刺してその場を立ち去った。その後、甲が出血で倒れているAを発見し、Aを海に投げ捨てた。Aは溺死した。
この場合、まず①Aの溺死という結果に近い甲に殺人罪が成立するか検討する。その後、②乙に殺人罪が成立することになる(論点:因果関係)。
事例③:乙はAの胸を刺してその場を立ち去った。その後、甲が出血で倒れているAを発見し、財布を持ち去った。
事例③は事例②と異なり、乙では殺人罪が、甲では強盗罪が問題となる。このように成立する罪が全く異なるときは、時系列順又はより重大な罪(*)から検討していく方が納まりがよい。この場合はいずれの順序をとっても乙の殺人罪の成否を検討し、甲の強盗罪(論点:先行行為の利用)を検討することになる。
*実際の事例問題では、事例全体から中心人物を特定し、その者から記載していくことになる。中心人物とは、親分や黒幕ということではなく、(複数の/重大な/結果に直接的な)実行行為を行なった者である。
なお、人ごとではなく、行為ごとに検討するという手法も一応存在する。もっとも、私自身この手法で論述したことは一度もないし、実務では人ごとに検討するため、実務家の採点官からすると行為ごとに検討した起案は違和感を覚えかねない。多少書きにくいと思う問題に直面しても、人ごとに検討する答案の方が万能かつ無難であろう(多少書きにくいと思う問題は、おそらく行為ごとに検討しても書きにくいと思われる。)。
また、最後の「罪数」では、共犯関係(共謀共同正犯、幇助など)や罪数(包括一罪、牽連犯、併合罪など)等、人同士の関係や罪同士の関係をまとめることになる。どの罪の限度で共同正犯となるのか、どの罪とどの罪が併合罪となるのか等、過不足のないように検討してほしい。
罪数処理については、短答で典型的な罪の組み合わせを習得することになるから、基本的な知識が身についていれば、あまり迷うことはないはずである。むしろ重要なのは、罪数まで書き切ることができるよう、全体の時間配分に留意することにある。
(2)刑法の答案構成(「甲の罪責」の中身)
刑法は、客観的構成要件(行為→結果→因果関係)→主観的構成要件(故意)→違法性阻却事由(問題となる場合のみ)→責任能力(問題となる場合のみ)の順で論じていくことになる。
構成要件を満たさなければ犯罪が成立しないので、主観的構成要件までは常に論じる必要があるものの、違法性阻却事由と責任能力は犯罪を否定し得る例外事由であるので、問題となる場合のみ論じればよい。
例えば、上記で挙げた事例①の乙の罪責について論じてみよう(なお、解答例では少し事情を足している)。(1)でIssue、(2)でRule、(3)でApplication、(4)でConclusionとなっていることに着目してほしい。このIRACについては以下の記事で詳述している。
事例①:甲が乙にAを殺害するよう唆したところ、乙はAと間違えてBを殺した
回答例
(1) 乙はBの胸部という人体の急所を刃渡り15cmの鋭利な刃物で刺突しており、殺人罪の実行行為が認められる。また、Bは死亡しており、死亡の原因は胸部からの出血死であるから、乙の実行行為とBの死亡の間に因果関係も認められる。そのため、乙の行為は、殺人罪の客観的構成要件に該当する。もっとも、故意が認められるか。乙はAを殺す意図はあったものの、Bを殺す意図はなかったため問題となる。
(2)故意がない場合に原則として犯罪が成立しない(刑法38条1項)理由は、規範の問題に直面して当該行為を止めることができたにもかかわらず、あえてその行為をしたという非難ができないからである。また、故意とは犯罪行為を行う認識・認容をいう。そして、当該行為が犯罪となるか否かは構成要件の形で示されている。よって、構成要件に該当する行為の認識・認容があれば故意を認めることができる。
(3)本件において、乙は実行行為時に人を殺す認識を有していた。
(4)よって、殺人の故意も認めれる。したがって、乙は殺人罪の罪責を負う。
事例②(乙はAの胸を刺してその場を立ち去った。その後、甲が出血で倒れているAを発見し、Aを海に投げ捨てた。Aは溺死した。)で乙の罪責を論述する場合も、(1)で論点とならない実行行為と結果についてざっと言及し、因果関係について問題となることを記載した上で、(2)で危険の現実化についての論証パターンを吐き出し、(3)であてはめ、(4)で結論(因果関係を肯定or否定+故意が認められることに触れ、全体として殺人(未遂)罪が成立すること)づければよい。
刑法には、間接正犯、不作為犯、加重結果、正当防衛、共謀共同正犯・・・といくつもの論点があるが、大きな流れは変わらない。何が問題となるのかを特定し、それについて(2)で規範を立て、(3)であてはめるという作業を繰り返し行うことで論文が完成する(論点とならない要件についても(1)か(4)で軽く言及する必要がある点にも留意)。
この流れを意識し、採点官に伝わる答案を作成してほしい。ひとつひとつの論点を覚えることももちろん重要であるが、全体の流れを意識することも重要である。学習にあたっては、木を見て森を見ずになってはならない。
(3)補足
人ごとの罪を論述する際、罪となる行為ごとに1、2、・・・とナンバリングしていくと分かりやすい。そして、その罪となる行為について、(1) I(Issue)→(2) R(Rule)→(3) A(Application)→(4) C(Conclusion)となる。そのため、刑法全体をまとめると、
第一 乙の罪責
1(1) (乙のA罪についてのI)
(2) (乙のA罪についてのR)
(3)(乙のA罪についてのA)
(4)(乙のA罪についてのC)
2(1) (乙のB罪についてのI)
(2) (乙のB罪についてのR)
(3)(乙のB罪についてのA)
(4)(乙のB罪についてのC)
第二 甲の罪責
・・・
・・・
第四 罪数
となる。
もちろん、乙について検討すべき罪がひとつしかなければ「1」のナンバリングは不要であるし、乙のB罪について特に論点がなければ(1)から(4)に分けて記載する必要はない(住居侵入罪等はこのパターンも多い。この場合でもなぜその罪が成立するのか簡単にあてはめが必要になることには留意)。
終わりに
刑法の答案構成のイメージができれば、後は論点等をその構成に落とし込んでいくだけである。もっとも、「言うは易し行うは難し」であることは十分承知している。次回の独学攻略法では、刑法の論述について勉強法と紐づけて記事にしたいと思う。この記事にスキ、また、フォローをして次回の後編を待っていただけると幸いある。
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本note投稿日現在、民法以外については解説付きです。
論述の流れや事実評価の学習、合格答案のレベルの確認にお役立ていただければと思います。
・民法以外→415円 ※すべてA評価
・民法→250円 ※民法は評価がBであるため他科目よりも廉価です