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【司法試験/予備試験】独学攻略法⑩〜刑法の論文を書けるようにする(後編)

「学ぶって、楽しすぎる。」-弁護士の岩瀬雄飛です。

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今日のテーマは「刑法の論文を書けるようにする(後編)」。

以下の前編では、刑法の論文答案の全体の構成について紹介した。もっとも、実際に書いてみると、「なんかうまく書けない」という壁にぶつかるはずである。今回は、この「なんか」を分析し、うまく書けるようになる勉強法について紹介したいと思う。


(1)総論の論点が書けない場合(故意の錯誤、共犯関係、正当防衛など)

総論の論点でつまずく場合は、「概念の理解不足」が原因であることが多いと思われる。ここでいう理解とは、「本質を理解し、①なぜそれが論点になるのか、②その論点をどう解決するか等を、自分の言葉で表現できる」ということである。

例えば、司法試験で頻出の共謀共同正犯で考えてみよう。自分が使用していた共謀共同正犯の規範を導く論証パターンは以下である。

「計画に参加するだけでも他人を利用することで自己の犯罪を完成させることはできるから、共謀共同正犯も60 条の「共同して犯罪を実行した者」に含まれると考える。
そして、同条が他人の行為まで罪責を負わせる趣旨は、他人の行為を利用して自己の犯罪を完成させるという相互利用補充関係にある。そこで、共謀共同正犯が成立するためには、a 意思の連絡、b正犯意思からなる①共謀及び②共犯者の共謀に基づく実行行為が必要であると考える。」

この論証パターンは、以下の基本書(いわゆる「青本」と言われる『刑法』山口厚著)の内容を自分なりに理解して論証パターン化したものである。

ここでまず重要なのは、共謀の中身がa 意思の連絡とb正犯意思の2つで構成されるということである。この後のあてはめにおいては意思の連絡が認められるか、正犯意思があるかを検討していくことになる。この位置づけが分かっていないと、「共謀があったか」というざっくりとしたあてはめとなり、点数は伸びない。

次に重要なのは、この共謀の概念を正しく理解していると、共謀共同正犯の周辺論点について一貫性のとれた論理を展開できるという点である。

例えば、共同正犯の承継(①Aの実行行為→②A・B共謀→③A・B実行行為で、Bが共謀前の①についても責任を負うかという論点)では、私は以下の論証パターンを使用していた。

「通常、共犯成立前の共犯者の行為には因果を与えないから、当該行為につき責任を負うことはない。しかし、共謀共同正犯の趣旨が相互利用補充関係にある以上、共犯成立前の共犯者の行為を積極的に利用した場合は承継的にその責任を負うと考える。」

また、共謀の解消については以下の論証パターンを使用していた。

共謀共同正犯の処罰根拠が相互利用補充関係にあることからすれば、精神的・物理的に因果を与えていない共犯者の行為については、罪責を負わせることはできない。そこで、 自ら共犯者に与えた因果を除去すれば、共犯関係の解消を認めることができると考える。」

太字にしているように、いずれも共謀共同正犯の趣旨である相互利用補充関係から規範を導いていることが確認できるだろう。

刑法の総論は、個別の論点は少なくないものの、故意責任や共謀等、核となる概念を理解しておけば応用できる論点が多い。そのため、刑法の総論が苦手な人は基本書を使って基本的な概念を正しく理解できているか改めて確認してほしい。

なお、上記は「論点は分かっているけどうまく書けない人」を想定した場合であるが、そもそも論点が特定できないという人は、判例学習に力を入れてほしい。刑法の判例は頭に残りやすいのですぐに成果を実感できるはずである。


(2)各論の論点が書けない場合(横領罪と背任罪の違い、文書偽造罪の成否など)

各論の論点でつまずく場合は、①「構成要件及びその定義を暗記していない」ことと、②どのような論点があるかを把握していないことが原因であると思われる。

①について、例えば文書偽造罪は「文書」「偽造」それぞれの定義を暗記していないと書くことがなくなってしまう(実際にこの定義を答案に書き、あてはめを行う)。それぞれ以下のように定義される。

文書:文字又はこれに代わるべき可視的符号により、一定期間永続すべき状態において物体の上に記載された人の意思・観念の表示

偽造:作成者と名義人の人格の同一性を偽る行為

作成者:意思・観念の帰属主体

名義人:文書の記載内容から理解される意識内容の主体(当該文書に対する信頼を基礎として決する)

これらは条文の文言解釈ということもあり、基本書で網羅的に学習できる。六法を開き、その文言の正確な定義を暗記してほしい。

しかし、基本書を一から読んで定義等を抽出する時間がない人もいるであろう。そのため、自分が使っていた単語帳(定義集。総論の論点、メルクマールや規範等も含む)の内容をそのままエクセルにまとめたので、興味のある人は以下の有料部分からダウンロードして学習に活用いただきたい。90以上収録しており、少なくとも自分はこれだけ記憶しておけば総論・各論ともほとんどの問題に対応できた。


次に、②について、強盗罪を例にする。強盗罪は、「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者」に成立するが、この「暴行又は脅迫」は財物の交付に向けられたものでなければならないし、反抗の抑圧に足るものでなければならない。

これらは条文上明記されていないため、論点を把握しておかないと、その部分のあてはめについてごそっと点数を落とすことになる。論点の把握も、やはり基本書から行うことになる。青本は各罪について条文の文言と結びつけて論点を紹介している良書である。

終わりに

今回は刑法の総論が苦手な人、各論が苦手な人それぞれに分けて効果的な勉強法を紹介した。途中で記載したとおり、以下の有料部分からエクセルにまとめた定義集(メルクマールや規範等を含む。漏洩防止のため有料であることを容赦いただきたい)をダウンロードできるようにしたので、興味のある人はぜひ学習に役立ててほしい。

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