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【司法試験・予備試験】論述が書けるようになる判例百選の使い方

「学ぶって、楽しすぎる。」-弁護士の岩瀬雄飛です。

本noteでは学ぶことの面白さや学習のノウハウ等を発信するとともに、自分が学んだことの記録を発信しています。資格試験を目指している方、何か学習をされている方、ぜひフォローをよろしくお願いいたします。

今日のテーマは「効果的な判例百選の使い方」。

法律学習の2本柱は条文と判例である。判例は基本書でも触れられているものの、司法試験を合格する程度に判例を理解するためには判例百選は欠かせない。基本書・判例百選・六法は司法試験受験生にとっての三種の神器である。

昨日の効果的な基本書の使い方に続き、今回は効果的な判例百選の使い方について紹介したい。なお、以下では私が使用していた判例百選を抜粋して掲載しているが、旧版であることには留意されたい(受験生は最新版を購読いただきたい)。



(1) 判例百選を使用する上での前提

① 前提①:判例百選を使用すべき科目

受験生の際、自分は全科目購入して使用していた(読んでいないことで不合格となることを恐れたため)。もっとも、時間的制約等から科目を厳正したいという方に向けて、主観でおすすめTier表を作成した(左右差あり、左がより高ランク)。

⭐︎⭐︎⭐︎ 民事訴訟法 憲法
⭐︎⭐︎  刑事訴訟法 会社法 民法 刑法 行政法
⭐︎   国際私法

民事訴訟法は、判例百選が必須である。司法試験では、判例が直接的に引用されて、その射程や問題点、その問題点を乗り越えるための考え方の記述が求められる。判例百選の解説ではこうした内容が詳述されているので、当該記載を読んで理解すれば、このような出題に対応できるだけの知識・理解が身に付くはずである。


憲法も判例百選が必須と考える。その理由は判例の射程を学ぶ等、民事訴訟法と共通する点もあるが、異なる点もある。

異なる理由のひとつめは、判例の言い回しをストックするためである。詳細は別途憲法の学習法のNoteで紹介したいと思うが、例えば以下のような判例の言い回しを覚えていると、答案が作成しやすいし、採点者にも判例を意識していることが伝わる。こうした言い回しは基本書等では抜粋されていないことも少なくないので判例百選から集めてくるべきである。

職業:人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するもの(最高裁昭和50年4月30日大法廷判決)

大学国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設(であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによって在学する学生を規律する包括的権能を有する)(最高裁昭和49年7月19日第三小法廷判決)

異なる理由のふたつめは、判例百選を読み込むことが、短答の点数に直結するからである。実際に私は予備試験時は短答の憲法が5割程度しかとれなかったが、人権については判例百選を、統治については択一六法を使用して勉強したところ、司法試験時は9割とれた。人権部分は、同じ判例からの出題でも、聞き方を変えたり、判旨の違う部分にフォーカスされたりするため、過去問を解いても本番や模試で繰り返し間違えてしまうという事態がよく生じる。そのため、判例という正しい解を理解してしまった方が、正答率も上がるし、結果的に効率が良いと考える。


⭐︎2つを付した科目についても伝えたいことはいろいろとあるものの、長くなってしまったので、次の前提に移ろうと思う。

(2) 前提②:判例百選は最初から読む必要はない

判例百選には実際には100以上の判例が収録されているため、最初から最後までやみくもに読んでいては途中で挫折してしまう可能性が高い。
そのため、判例百選を読む際は、基本書や短答問題集の解説(初学者向け)や(司法試験・予備試験の過去問を解いた後に読む)出題の趣旨・採点実感(学習が進んでいる人向け)で言及されているものについて、辞書的に使うとよいだろう。

また、「1日で10個ずつ判例を読む」というような目標はおすすめしない。数をこなすことだけが目的となってしまい、十分に吸収できないまま時間だけ無駄にしてしまうからである。筋トレで負荷のかからない間違ったフォームで100回やるよりも、負荷のかかる正しいフォームで10回やる方が効果的であるのと同様である。

前回のNote(基本書の使い方)で紹介したマーカーの引き方やメモ、図等を書き込むなどして、ひとつひとつの判例を、この判例が出題されたらどのように回答するかという視点から「分析」するように学習してほしい。


(2) 判例百選を使用した効果的な学習法

(1) 学習法①:判例の「規範」を覚えるために使う

判例学習において最重要なのは規範を覚えることである。規範は「決定要旨」の部分に書いてある。

規範を覚えるときは、要件を分解して覚えること(要件ごとに①や②等と付しておくとよい)や原則・例外の関係に着目して、正確に覚えたい。

民事訴訟法より「重複する訴え(相殺の抗弁)」の論点のひとつ。「一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合において、その残部について別訴で相殺の抗弁を主張することは、債権の分割行使をすることが訴訟上の権利の濫用に当たるなど特段の事情の存しない限り、許される」は規範であるため「規範として書けるように!」とメモを残している。また、例外(限定)については〈 〉で囲っている。判例ではこのような例外事情はないものの、試験で出題する際は、このような例外事情に該当する事実を織り交ぜてくることがある。

(2) 学習法②:判例の「射程」を理解するために使う

判例学習において次に重要なのは、判例の射程を理解することにある。判例の射程は、「解説」の部分で解説されている。

例えば、刑事訴訟法のある判例で、当該任意処分が適法であったとする。しかし、こういう事情があれば任意処分の限界を超えて違法になった等の解説は、判例が適用できる限界を考える上で有益である。司法試験の採点実感で、「判例と本事例の違いを十分に意識されていない答案が目立った」等との苦言が呈されことが少なくないが、これは判例百選の解説等を使用して判例の理解を深めることで対処できる。

会社法における代理権議決行使の論点のひとつ。判例の射程が取締役会設置会社には及ばないことが示唆されている(もっとも、『株主総会ハンドブック』では反対のことが書かれているとのことであるが、商事法務の『○○ハンドブック』は実務では確度の高い文献として扱われており、この教授の私見が必ずしも正しいとは限らない)。

(3) 学習法③:Issue Spotterの練習として使う

Issue Spotterとは、以下の記事で解説しているとおり、問題(論点)発見能力のことである。司法試験の問題は、例えば刑法であれば「甲の罪責について論じよ」、刑事訴訟法であれば「警察官Aの捜査の適法性について論じよ」等と出題され、具体的にどの行為のどの点について論じる必要があるかは、自分で特定する必要がある。そのため、予めどのような論点があるのか把握しておくことが必要になる。

判例百選に掲載されている判例で実際に問題になった論点の他、解説から周辺論点を把握しておくことで、司法試験において論ずるべき論点が特定しやすくなるだろう。

刑事訴訟法の判例百選より。訴状条件と訴因(親告罪の告訴)の論点で、判例で争われた点のほか、関連論点が紹介・検討されている(緑の下線部分2箇所)

終わりに

判例百選を正しく使って勉強すれば、確実に合格に必要な論述力を身につけることができる。今回紹介した方法等を意識しつつ、効果的に学習していただけることを願っている。

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自分が受験した平成28年年司法試験の全科目の再現答案を公開しています。
本note投稿日現在、民法以外については解説付きです。
論述の流れや事実評価の学習、合格答案のレベルの確認にお役立ていただければと思います。

・民法以外→415円 ※すべてA評価
・民法→250円  ※民法は評価がBであるため他科目よりも廉価です


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