タイム・イズ・ランニング・アウト 〜NRIPS(エヌリプス)特務隊の事件ファイル〜
第一話 リンク
第二話
File.1 初任務 (2)
エリスからの二回目の【強制通信】が届き、自分が左手で目の前の空間にスピンフォーム展開を済ませた1秒後くらいだったッス。
「佐藤はマル捕で、たぶん右手。社長室よ。」との美或センパイからの通信が耳に飛び込んで来たッス。了解です、センパイ。プランAの捕縛段階に移行しまッス!
今回の作戦会議後からバッチリ頭に叩き込んできた、社長室の間取りと全体図との位置関係。そして事前の計画に変更なしとの最終確認。社長室の机を挟んで、センパイと佐藤が対峙している様子がありありと想像出来るッス。
その佐藤の背後、約2メートル。机からの位置で示すならば殆ど壁際と言っても良い地点。社長室という閉ざされた空間内で、マル捕を隼人と江里口の二人で 挟み討ち する人員配置図。
そのポイントを、
ひたすらに、ひたすらに、
鮮明にイメージした後。
自分は次の宣誓語句を発しながら、目の前のスピンフォーム形成ポイントに自分の頭を突っ込んだッス。
「Tattva!(飛べ!)」
その刹那。
殆ど暗闇の中へと飛び込んだ自分は。
直ぐ目の前にある、眩いばかりに輝く光の点へ向かって泳ぐように辿り着き。
あたかも息継ぎを行う為か、とばかりにそこから頭を出したッス。
、、、そこは、 件 の社長室壁際。まさしくマル捕・佐藤の背後2メートルの位置。そのまま、まるで夏のプールで小学生が顔面を強打するのも厭わないといった覚悟で、ウォータースライダーを頭から勢いよく滑り降りていくかのように、自分の体全体をその 約 束 さ れ た 場 所 へと捻り出しまス。
これがスピンフォーム形成能力者のもう一つのチカラ・瞬間移動能力(=空間潜行能力、その能力保有者はダイヴァーと呼ばれているみたいッス。『穿孔と潜行』、ディグ&ダイヴ。)でス。
勿論まだ自分の穿孔時間内なので、佐藤の動きは完全にスローモーション。某RPG風に例えるなら、「完璧なバックアタック」ってやつッス。美或センパイは見当たらないので、恐らく一度外に移動して———
とか思ってたら、まさにこのタイミングで美或センパイがまたヌルリと机の奥に戻って来たのでちょっとビビったッスw
センパイはマル捕の背後を陣取った自分の姿を確認するとニヤリと微笑んで、佐藤の顔面目掛けて口封じ用のマズマズール(超伸縮性能を持つ特殊シリコン製の「猿ぐつわ」の事でス。)を、これまた特注の銃から発射。
ヒュオッ!
10cm程度の横長なゴムの塊なんでスが、射出の勢いとその伸縮性で人間の口元を簡単に封じることが出来るシロモノ。それが佐藤の口元に見事にヒット。
バチン!!
からの、
ヒュルヒュルヒュル、ビシーン!!!
はい、奴の口元がぐるぐる巻きにしばられました。
そこで美或センパイは自身の3.5秒リミットを使い切ったようでした。センパイも佐藤と同じくスローな世界の住人へと一時的に仲間入りし、まだ有効体感秒数が残っている自分の動きをただ見つめる(というか、動きが速すぎて何をしたのかなどよく解らない、という事になるハズw)傍観者へと立場が変わったッス。
さて、空間干渉能力者の拘束方法でスが、大前提として先ずは口封じが最優先となりまス。空間干渉には能力者自身の「開示の宣誓」が必須なので、その源を抑えにかかる訳でス。
、、、もっとも、対象の頭に向かって実弾を一発発砲すれば、問答無用で「口封じ」が可能なんでスが。(任務によってはそうせざるを得ない場合も当然あるみたい、ッス。)
口を封じる事無く、ディガーやダイヴァーの拘束に取り掛かるなんてもってのほかで厳禁行為でス。いつ、何時、相手能力者からの 不意打ち にやられちゃうかわかんないからでスね。(仮に自分の方が有効体感秒数的に上だったとしても、でス。油断大敵、と隊長はいつも 煩 い ッスw )
そしてもしも、万が一。
相手能力者の空間干渉を「自身の体に」喰らってしまった場合。
その時は、喰らった部分が瞬間的に「孔」となる訳なので、そこから派手に大出血。で、次の瞬間にはハイ!元通り〜!やられた側からしてみれば、「なんじゃ、こりゃ〜!!!」となる事は必至でしょうね。。。(そしてそんな手品みたいな芸当のオチは、非能力者がやられっぱなしだとすればほぼ間違いなく死に至る、という事になりまス。)
、、、先の 被害者 は、果たして身体に何回、孔を開けられたんでしょうかね、、、
(罪の無い一般市民の命を 弄 びやがって、この野郎。。。)
おっと。私情は一旦脇に置くとして。
美或センパイに 口封じ をやって貰ったので、自分は身体の方を拘束しまス。使うのはごく一般的な普通の手錠。振り上げたままで行き場を無くして戸惑っている、そして未だにスローな動きの佐藤の右手首をガシッと掴み。そのまま奴の背中側へとグイッと引っ張ると同時に手錠をガシャン!左手も同様。これにてマル捕の捕縛は完全に完了、任務終了ッス。
ちなみに、まだ10秒経過していないので、佐藤も美或センパイもスローな動きのまま。
、、
、、、
、、、、
(10秒って。
ガチでチートじゃないか。。。
この呪いの力。
この呪いで世界が混乱に陥るのを防ぐ為に。
誰も俺のような苦しみを味わうことの無いように。
俺が、この呪いに終止符を打ってやる。。
必ずだ、必ず!!)
ややあって。
佐藤がモゾモゾと動き出したのが、手錠からの感触で分かったッス。訳も判らぬ早業でいつの間にやら拘束され、今は「フガッ、フゴゴッ!」という給餌前の豚を連想させるような声しか発せないマル捕。
なんとも情け無い表情で斜め後ろを見つめてきた佐藤に対して、自分はこう言ってやったッス。
「佐藤 喪舞男。時空間干渉の現行犯でお前を捕縛した。無駄な抵抗はやめろ。尚、取り調べはこのまま、非口頭コミュニケーションツールのDrop Talkを用いて執り行う。黙秘権など貴様には無い、覚悟しておけ。」
自分のこの 台詞 を聞いた美或センパイは、『それはギリシア彫刻の真似なんですか?』とツッコミを入れたくなるような 微かなほほ笑み を見せ。(きっと、自分が佐藤へ宣言する時のイキリっぷりが初々しかったんじゃないでスかね?)
それからセンパイは本部への 任 務 完 了 報告を行ったッス。
恐らくは『初任務お疲れ様、ハヤト君。』的な意味を持つであろう、サムアップのポーズを自分に向けながら。
* * *
第二話、お読み頂きまして、ありがとうございます! 以下、続きのリンクです。引き続きお楽しみ下さい。
第三話 リンク
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