医師が診療科を選ぶ際に考慮すべきポイントとは

診療科専攻は医師人生を決める最も重要な選択である。医学生や初期研修医は様々な診療科を経験することになるが、いったいどんなことを考えて診療科を選べばいいのか、まとめてみる。

1.手技が好きかどうか

診療科の性質を決定づける因子が、手技の多寡である。
外科は手術によって成り立つ診療科であるから議論の余地なく手技の多い診療科だ。内科でも、循環器内科はカテーテル、消化器内科は内視鏡が花形であり、専門にするには避けては通れない。呼吸器内科も気管支鏡がある。マイナー科の筆頭である眼科、皮膚科も手術や処置があるので、手技はそれなりにある。ちなみに耳鼻咽喉科は、一般には知られていないが、れっきとした外科系診療科である。
逆に、手技が少ない診療科の代表格は精神科だ。全くないといっていいかもしれない。放射線科も画像診断であれば当然手技はないが、IVRがある。内科では、糖尿病や内分泌は診療科特有の手技はない。血液内科は骨髄検査があるが、大掛かりなものではない。同じ立ち位置で神経内科は腰椎穿刺があるが、これも同様だ。
損得のみで考えるのであれば、手技は少なければ少ないほどよい。私は病院の医療安全委員を務めているが、インシデントやアクシデントを報告するのはこぞって外科系の診療科で、手術でのハプニングだ。手技中に起こった合併症は因果関係が明確であり、訴訟リスクとなりやすい。また、大まかな傾向として、手技の多い診療科は労働負荷が高い。

2.労働負荷

いわゆるハイパー科、ハイポ科のどちらにするかという問題である。医師は診療科ごとの労働量の格差がかなりあると思う。過労死寸前の労働を強いられる診療科もあれば、定時帰宅かつ業務中も暇といった診療科もある。
労働負荷で差がつく項目は当直である。睡眠不足耐性があるかどうかが医師の適性を決定づける因子であると私は考える。学生時代に勉強にしろ遊びにしろ、徹夜できていた人間は不眠不休の当直も耐えられるだろうが、そうでない人間は難しいかもしれない。

3.その科はつぶしが効くか


その診療科を専門にして、どんな働き方ができるかリサーチはしておいたほうがよい。例えば、私の周りでは整形外科を専攻する医師が多い。総合病院に勤め手術をどんどんこなす王道ルートもあれば、開業し内科的診療をメインにすることもできる。リハビリテーションに転身することも容易だ。この進路の多彩さが魅力になっているのではと私は分析している。一方、心臓血管外科など高度に専門化された診療科は小規模に働くことができずに大病院に居所を見出すしかなく、働き方の選択肢は少ない。

4.給料面


この点は私も以前の記事で述べたが、ハイパー科はどうしてもハイポ科に劣後してしまう。「都内ハイパー科専攻医+大学院進学学位取得」のようなコースは給与のヒエラルキーでは医師最下層となってしまうので、その点を甘受できるかが問題になる。都内で家庭を持ち子育てをするとなると、ダブルインカムかつパートナーも高収入でなければ生活は苦しくなるかもしれない。

5.ライフイベント

専攻医期間と、結婚や子育てといったライフイベントが重なる人は少なくないと思う。男性の場合は何とかなるが、女性は難しい問題に直面する。妊娠出産と医師のキャリアのどちらを優先するかだ。
医師に限らず、日本のキャリアスケジュールは男性が参画することを想定しているので、女性が同じように振る舞うと支障が生じる。これには女性の生物学的な事情が背景にある。女性の社会的役割が変わっても、卵子の寿命はシフトしてくれないのだ。35歳が高齢出産のボーダーであることと、女性が30代に突入すると男性からの需要が急速に下がることは無関係ではない。キャリア構築に邁進していると、気がつくと妊娠出産のタイミングを逃しており取り返しがつかない、といったことが起こる。
子供を産み損ねると時間は巻き戻せないので、よほど決心が固い場合を除いて、キャリアよりライフイベントを優先することを勧める。パートナーがいない女性医師は仕事はそこそこにセーブし、まず婚活に注力したほうがよい。20代の女性医師で標準以上のルックスがあればかなりモテるので、30代に突入するうちに結婚までは済ませたいところだ。
男性の場合も、あまりに悠長に構えるのは危険だ。初期研修修了時点で彼女がいない男性医師は一定の危機感を持ったほうがよい。彼女が「いたことがない」だとさらに危険性が高まる。専攻医になれば自動的に女性が寄ってきて、選び放題で理想の女性と結婚できるわけではない。男性が自ら女性にアプローチしなければ何も起きない構造に変わりはない。激務すぎる診療科を選んでしまうと、出会いの場に出向いたり、デートしたりするのがほとんど不可能になってしまう可能性があることは念頭に置いておきたい。

6.専攻医にならない選択肢について

どの診療科も専攻せず、健診や脱毛問診などのアルバイトで食いつなぐいわゆる「ドロッポ医」というものだ。部活でいえば帰宅部に該当する。これは絶対にオススメしない。常に求人探しに追われ、本当に仕事があるのか、収入が途絶えるのではといった不安に苛まれることになる。医師としてのアイデンティティも確立できないので、専門医として活躍している同期との差はつく一方になり、劣等感が増大していくことだろう。この進路をとって問題ない例外があるとすれば、結婚し、家庭に入ることを決めた女性くらいだろうか。仕事にアイデンティティは一切求めず、あくまで金銭を得る手段と割り切る生き方だ。

7.「直美」について

最近話題の直接美容医療に進む進路である。直美医師が増えていると連日のようにYahooニュースなどで記事を目にするが、実際はどうなのだろうか。私の知り合いにはほとんど皆無なので実感がわかない。
もちろん、真面目に進路として美容医療を考えているなら直美で何ら問題ない。下手に皮膚科や形成外科に進むよりも教育体制がしっかり整った美容医療機関に就職するほうがよいかもしれない。しかし、「給与が高いから」、「保険診療は大変だから」など消極的な理由で選択するにはリスキーな進路である。美容医療は純然たる客商売であり、相手は「患者さん」ではなく「お客様」だ。保険診療では存在しない資本主義的な売り込みやセールスにも従事する必要があるかもしれない。医学生や初期研修医として受けてきた教育が通用しない世界であり、マインドチェンジがうまくできなければ辛さを感じると思う。当然、学生実習や初期研修で美容医療を体験することはできないので、生の現場がわからないのも不安要素だ。また、美容医療界は拝金主義そのものであり、お金儲けと散財の両方が好きでないとギャップを感じてしまうだろう。節約生活+インデックス投資ぶん回し、みたいな生活をしている美容医師は皆無なはずだ。
美容進路の一番の問題点は一旦進むと保険診療界に戻りにくくなることだ。これは給与の高さが裏目に出た結果であり、一度自由診療水準の給与と生活レベルに慣れてしまうと、下げることは幸福度の観点から難しいのだ。ある意味、美容医療は一方通行の進路と言えるので、保険診療以上に熟考する必要のある進路だと思う。

最後に

現実的な観点をとうとうと述べたが、結局のところ、進路選択の要は自分自身の興味関心だ。給料や待遇がいくら良くても、興味のないことをやるのは苦痛だ。
初期研修制度は医師からすれば本当に恵まれた制度だ。例えるなら、1ヶ月〜2ヵ月ごとに別々の異性と交際し、2年後に結婚相手を選べるようなものだ。しかしそれが逆に選択を悩ませることにもなっている。とにかくいろんな可能性を検討し、リサーチを欠かさない姿勢が大切である。

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