学歴コンプレックスの恐ろしさと克服法
面白い記事を読んだ。
東大を目指していた次男に触発された主婦が、東大受験を決意。なんと本当に文科Ⅲ類に合格してしまうというサクセスストーリーだ。
この受験物語自体は2012年とかなり前のお話であり、受験シーズンというのもあって焼き直しされた記事である。
この再受験を中年からの学び直しということで肯定的に捉える人もいるが、私には単なる学歴コンプレックス丸出しの行為にしか思えず、手放しで礼賛はできない。
安政真弓さんの経歴を調べると、姫路西高校→現役京大不合格→二度の浪人でも東大不合格、その後早稲田進学、といった具合であった。
いかにも、といったところであろうか。
二浪しても東大に受からなかった安政さんは何故、時を経てリベンジを果たすことができたのか。私は以下の要因があると思う。
・安政さんは学習塾を経営しており、長年の蓄積があった。結晶性知能が伸びたことで、国語や社会などでアドバンテージがあった。
・安政さんはフランス語を習得しており、検定試験で一級を取るレベルだそうだ。センター試験や東大二次試験はフランス語での受験が可能であり、英語と比べ難易度が低い傾向にある。実際にフランス語で受験した、という記述は見つけられなかったが、フランス語を武器に英語受験勢と差をつけ合格した可能性は高い。
学生時代の彼女はおそらく、いわゆる「ガチ文系」であり、数学の点数が伸び悩み、それが敗因になったのだろう。文系で東大京大一橋と早慶を分ける最大の壁は数学なのだ。ところが、長年の積み重ねによって、文系科目だけでも数学をカバーするだけのアドバンテージを得られ、東大合格にこぎつけることができた、と推測している。
建前上は学問への飢えを満たすための東大再受験ということになっているが、真の目的は学歴コンプレックスの払拭であることは間違いない。
単に勉強するだけであれば東大にこだわる理由はないし、本当に学問を修めたいのであれば大学院に進学し、修士や博士を取得するはずだからだ。しかし彼女は学士で終わっている。
学歴コンプレックスの他に人を支配するコンプレックスは容姿や家柄、年収など無数にあるだろうが、学歴コンプレックスはとりわけタチが悪いと思う。
学歴というのは当人の努力の問題であると世間的に認識されており、諦めがつきにくい。
また、学歴、受験というのはほとんどの人が参加する競争であり、どの人も一定の「敗け」を経験することになるのも要因だろう。極論、東大卒以外は自分より上位の存在がいるし、その東大でも科類や学部でヒエラルキーがある。
学歴コンプレックスがさらに悪化すると、大学のみならず、高校の学歴まで気にし始める人もいる。こうなると末期だ。
さて、このような状況で、人は学歴コンプレックスとどう向き合えばいいのだろうか。
1.仕事に邁進する
世間的には一番健全な昇華の方法だ。眼の前の仕事に向き合い、過去を忘れるということだ。しかし、人によってはキャリア構築に成功しても学歴コンプレックスが消えないどころか、キャリアと学歴を比較するような思考に陥ってしまい、よりいっそう自分の学歴が気になってしまうことがある。
また、仕事や出世でうまく行かないと、「結局自分は学歴が悪いから」と失敗の原因を常に学歴に見いだしてしまう癖がついてしまうかもしれない。
加えて、この手法は専業主婦には使えない。専業主婦は仕事の代替を家庭に見出すしかない。これは4につながるパターンだ。
2.資格取得を目指す
これも比較的健全な方法だ。司法予備試験や公認会計士といった最難関資格でなくとも、一定程度の努力を要する試験であれば何でもよいだろう。
英語など語学の試験は社会人でも頑張っている人が多いと思う。
漢検一級など完全趣味の様相を呈するものでもよい。自分は勉強で結果を出せるんだと実感することが大切だ。
問題点は、社会人の勉強は必ずしも世間によい印象を与えないということだ。特に、会社などの組織では業務と直接関係のない試験勉強をしていることは本業をないがしろにしていると思われるリスクがあるため、秘密にしておいたほうがよい。
また、いくら資格試験に合格したとて学歴そのものが変わるわけではないので結局コンプレックスは消えないかもしれない。
3.大学院に入学する
大学院には社会人入学と呼ばれる制度がある。学びなおしにはうってつけだろう。
しかし、仕事から離れることができない家庭を持った男性には厳しい選択肢になる。これは子育ての一段落した主婦が取れる道だろうか。
また、日本の学歴観は学部入試に根ざしており、大学院で上位の学校に入ることは時に「ロンダリング」と揶揄されることがある。
なので、この手法は学歴コンプレックスの解消にはならない可能性がある。
4.子に夢を託す
「教育ママ」や「お受験ママ」にみられるのがこの現象だ。これらは否定的な文脈で使用されることが多いが、適切な方法であれば自分のなし得なかった夢を子どもに託すことは何ら問題がないと思う。
「押し付けない」、「子どもの才能を冷静に見極める」の2点を守りさえすればよい。
5.実際に再受験する
学歴コンプレックスを根本的に解決するにはこれしかない。
安政さんが実際にやってのけた方法だ。しかし、「時間がとれる」、「仕事や経済的に心配がない」など条件が揃わないと難しいだろう。
また、このような行為は学歴コンプレックスを周囲にさらけ出すようなものでもあり、勇気が必要だ。
6.医学部を受け直す
1と2と5を合体させた方法だ。偏差値的なコンプレックスを払拭でき、難関資格を取得して医師というキャリア構築を始められる。一石三鳥である。
欠点は、長期の学生期間ができてしまいその間は無収入になってしまうことだ。
また、当然ではあるが、学歴コンプレックスを抱えている本人がすでに医師の場合はこの方法は使えない。
まとめ
安政さんの再受験物語の背後には結構な闇がある。
皮肉なことに、肝心の次男は東大受験に失敗し、早稲田に進学しているのだ。
次男は文科Ⅲ類を受験したわけではないので、母が息子の席を奪ったことにはならないが、それでも単純に受験に失敗するよりは何倍も後味が悪いだろう。
自分が手に入れられなかった学歴を(同時に)母が手にする。
想像するだけでキツいものがある。周りにも例がないだろうから、共感も得られない。
次男は2021年に滋賀県の山岳で遭難し、安否不明となっている。