なぜ後期日程は縮小され、推薦入試は拡大するのか
東大>医学部ネタで後期日程の事を書いていたら、思いついた記事である。
昨今の大学入試のトレンドは、「総合型選抜(推薦AO)の拡大」である。
一方で、国公立大学では一般入試後期日程がその分だけ縮小され、大学によっては完全廃止となっている。
私立大学は一般入試の枠そのものが減らされている。
なぜこんなことが起こるのか。
後期日程=不本意入学という構図からの脱却
最大の理由はこれだろう。より上位の大学に落ち、仕方なく後期で滑り込んだ学生を避けたいという大学の狙いだ。
この手の学生は往々にしてモチベーションが低く、大学入学後の成績も期待したほど高くないと言われる。
大学の雰囲気を悪化させ、その上成績も大したことのないという学生は取りたくないのは大学としては当然だろう。
ちなみに私の母校にも後期日程入学者はいたが、確かにその印象である。
それでも後期日程の意味はある?
といってもやはり入学の偏差値の上では、後期日程入学者が一番高いことは言うまでもない。枠が少なく、そこに受験者が殺到するから実際の大学ランクよりワンランク上がる難易度となるイメージはあるだろう。
潜在的な学力は後期日程の学生に分があるのかもしれない。
わかりやすいのは中学受験だ。
例えば、関西の甲陽学院と六甲学院A日程では同日開催で偏差値にかなりの開きがあるが、別日の六甲学院B日程となると一気に甲陽学院の偏差値と肉薄するまでになる。「後期日程バフ」である。
中学受験ではこのように後期日程バフを仕掛ける明確なメリットがある。
6年後の大学受験という同じ学力試験でのリベンジマッチがあるからだ。第一志望に落ちた悔しさをバネに雪辱を果たした例はいくらでもあるだろう。進学校の評価は「東大京大一橋東工大国公立医学部」にどれだけ送り込んだかで評価が決まるので、学校のプライドを餌に後期日程を仕掛けるメリットはあるのである。このようにして実績を積み上げた学校は多々ある。東京であれば最近は凋落傾向だが、巣鴨が筆頭だろう。
ところが大学となると話は別だ。日本において学歴の終着点は大学学部入試であるといった風潮がある。いくら入試の結果が悔しくても、もう試合はおしまいなのだ。司法試験など資格試験で逆転という手もあるが、それはもう個人の話であり、皆一律の土俵ではない。
大学生には就活があるだろうと言う人もいるだろう。しかし、就活は学力試験ではないし、大学入試のような偏差値ランキングがあるわけでもない。そして、最も肝心な点は、就活の実績で大学は評価されないということである。
大学の評価というものはもっと多面的で、一口には言えないのだ。
そんなわけで、大学はわざわざ不本意入学生を取るインセンティブがないのである。
そしたらなぜ推薦が増える?
上記の論理であれば、すべて一回の入試、前期日程に集約すればいいのではと思うだろう。しかし、多くの大学は後期日程の人数を前期日程に回すわけではなく、推薦入試にあてている。
この疑問に回答してくれているのが東京大学である。
東京大学は、日本に自身より上位の大学が存在せず、理論上は不本意入学というものがない。
東大は2015年度に最後の後期日程を行い、次年度から推薦入試を開始した。
「東大がついに推薦?」と私も驚いたのを覚えている。
東大が後期を廃止した理由を考える前に、なぜそもそも東大に後期が必要なのかと考えてみたい。これは、1980年代に、「国公立大学は二回のチャンスを与えるべし」といったような不文律があったようである。東大も例外でなく、後期日程をせざるをえない状況になった。東大としては、他の大学と違い、「上位ランク落ちの学生」を取ることができないので、入試問題に創意工夫を凝らし、前期日程では採れない学生を取ろうと粉骨砕身していた。
実際、東大後期の入試問題は一風変わっている。
それでも、一つ大きな問題が残る。
それは日本の大学入試の構造上、「後期で入る学生は必ず前期日程で失敗している」ということである。
分母の段階で、入学生はある種「敗残兵」に限られているわけである。
この点が東大にとってネックになり、後期日程は目の上のたんこぶになった。
それでは、冒頭の疑問である、後期日程分を前期に回すことはしなかったのか。
ここで昨今の少子化が重なる。
林修が、「以前では東大に入れないレベルが合格できるようになった」とTVで述べていた。少子化で東大といえど競争は緩和されているのである。時系列でみれば、東大の前期日程のレベルは下がっているのだ。
これでは前期日程の定員を拡充したとて、下位層をより増やすだけになってしまう。それなら、推薦入試を別枠で設けたほうが旨味があるのではと東大は判断したわけである。つまり東大としては後期日程のデメリット(必ず前期落ちから選抜しないといけない)を解消する形で入試をやるというわけである。
これに習い、他の大学も同じ方式で後期を減らすか廃止して、推薦枠を拡充することとなった。
私立大学は?
これまでは国公立大学を主な焦点にしてきたが、早慶を始めとした私大はどうなのか。これは一般入試そのものが国公立の後期日程に当たると考えてよい。日本の大学入試では、「私大は国公立のすべり止め」といった大枠があるからだ。
当然、私立大はこれに反発して、一般入試は減らし、内部生や推薦AO入試を主軸に愛校心のある学生を採ろうとしている。
私の意見
やはり一般入試は重要だと思う。推薦やAOは出願時点で参入障壁があり、平等性に欠けると思うからだ。どんな大学も、いくら少数枠でも、後期はあったほうがよい。
そして、このまま総合型の拡充が進んで、「一般入試は推薦落ちの学生ばかり」のようになってしまわないか心配である。
それには、やはり総合型はマイノリティにとどめるといった操作が必要だと思う。
日本の大学入試は、ペーパーテストの前に万人が平等といったある種の美学があった。金もコネも経験も通用しない。これは世界に誇れることだ。凡人の一発逆転にこれ以上はないだろう。