医学部受験で重要なこととは

私が医学部受験をしたのはもう10年以上前だ。
医学部に合格すれば、実質医師への道が確定する。
大学受験がその後の人生すべてを左右することになり、今思えばかなりプレッシャーのかかる試験だった。
一体どんなことに気をつけて受験に臨めばいいのか。
一医師が振り返ってみた。

1.受験校選び

受験校選びが医学部入試の明暗を決定するといっても過言ではない。
ここで問題となるのは、大学名にどれだけこだわるかという点である。当然、高偏差値の大学のほうがよいのは間違いない。レベルの高い大学は概して立地がよいし、進級試験も楽な傾向にある。何より難関大学に合格したという自尊心を形成できる。

しかし、医学部受験で一番避けなければいけない結果は何だろうか。
それは、どこの医学部にも受からず医師への切符を手にできない、ということだ。
医学部入試は就職試験を内包していることを忘れてはいけない。他の大学入試とは重みが違う。
全落ちのリスクマネジメントが十分できるのであれば、理想の志望校を追求してよいだろう。この点、私立大学の受験が許容されている裕福な家庭は強い。私立医大に防波堤を張ってもらいリスクマネジメントしつつ、国公立大にハイリスクな勝負をかけられるわけである。まさに親ガチャである。
国公立大学のみの受験しかできないようであれば、受験校選定には細心の注意を払わなくてはいけない。特攻は厳に慎み、少しでも受かりやすい大学を受験するべきである。医学部入試は情報戦であるから、どこの大学がどんな入試を行っているかは一通り調べておいたほうがよい。推薦入試の有無、共通試験の科目配点や、二次試験の科目(英語がない大学、理科がない大学など)は重要項目であり、自分な得意なパターンに合致した大学が見つかればそれだけで合格可能性は高まる。

2.推薦入試を利用する

日本の受験界では、一般入試合格者が推薦入試合格者よりも格上として扱われる傾向にある。しかし、多くの大学が推薦入試やAO入試に定員を割いているのが現状だ。このチャンスを見送るのは医学部受験ではあまりにも勿体ない。受験は椅子取りゲームであるから、先に席を確保し競争から離脱したものが勝利者となる。
とりわけ、国公立大学の推薦入試は見逃してはいけない。一般入試は前期日程と後期日程の2回しかなく、後期日程は実施している大学がそもそも少ない上に途方もなく難関である。先ほどの繰り返しにはなるが、どこの医学部にも受からなかったという事態は避けねばならない。

3.地域枠は受けてはならない

とはいえ、手を出してはいけない入試が医学部には存在する。
それは地域枠だ。
これは卒業後の進路が制限される「条件つき医学部入学」であり、本来の医師のメリットが大きく失われるので、絶対におすすめしない。地域枠を受験するくらいであれば、大学のランクを下げるか浪人しても一般枠に切り替えたほうがよい。地域枠の義務年数は9年間という大学が多く、そのビハインドは甚大だ。
「医学部推薦入試=地域枠」と思っている人がいるが、大きな間違いだ。私が受験を勧めたいのは、地域枠ではない一般枠の医学部の推薦入試だ。中には一般入試にも地域枠が内包されているパターンもあるので、気をつけたい。

4.塾や予備校を妄信しない

これは私が受験生時代に犯していた過ちだ。有名塾の有名講座を受ければ成績が飛躍的に伸びると思い込むことである。
医学部受験で最重要なのは自習時間の確保だ。そもそも講義というスタイルは学習効率が悪い。特に現役生は日中に高校の授業がある。この上更に、夜間も塾の講義に時間を割いてしまうと、その日に自習できる時間はほとんどなくなってしまう。塾の講義が消化不良となり、時間とお金を空費しただけになってしまわないよう注意を払う必要がある。
大学受験のメソッドは確立されており、どの参考書や問題集をやればいいかは概ね決まっている。それらはすべて市販されているものであり、中学受験のように門外不出ということはない。基本は独学を中心に置き、それで厳しいと思う点のみ外部機関を頼るのがよい。

5.浪人について

どこの医学部にも受からなかった場合、許される限り浪人はすべきだ。2浪までであれば何ら問題ない。
しかし、3浪以上となると一つ考慮すべき点がある。一般企業就職の場合、+3以上は既卒扱いとなり、就職活動で大きな劣勢に立たされるのだ。そのため、+3以上で医学部以外の道を考えるのであれば、歯学部や薬学部など資格取得に直結する学部を勧める。
もう一つ論じておきたいのは、第一志望の医学部は不合格だったが、第二志望以下の医学部には合格した場合、入学を辞退し浪人するかどうかだ。第二志望が後期日程の国公立大であった場合は迷わず進学すべきだ。これには異論はないだろう。私立大学の場合はどうだろうか。この場合も基本的には入学したほうがよい。現役の場合は蹴って国公立リベンジに向け浪人するのもありかもしれないが、そもそも、進学しない可能性があるのであれば、受験料が高額な私立医大は初めから受験しないことを勧める。金銭や労力の無駄である。

まとめ

日本の大学入試界では、東大、京大、国公立医学部が御三家のように並び称されることが多く、医学部は最難関のひとつとして認識されており、「医学部はどこも東大レベルの難関」と誇張する人までいる。
しかし、医学部入試では共通テストの配点が高い大学が多く、二次試験の問題難易度も東大京大と比べ平易な傾向にある。そのため、易しい大学を狙っていけば、世間で言われているほど難関入試ではないと思う。推薦入試も多い。
そのため、最低ラインを比較し序列をつけるならば、東大>京大>国公立医学部となるはずだ。医学部入試は旧帝大や都市部にある一部の医学部の難易度が目立ちすぎているせいで、医学部全体の難易度が過大評価を受けていると感じる。

最後に、私個人の体験を述べたい。
私は現役合格、国立合格を最優先に考え、志望校のレベルを落として安泰に合格を決めた。しかし、やり残した勉強がかなりあり、不完全燃焼の感覚が残り後味はよくなかった。
正直に言って、私の合格した地方国立大学は魅力的とは言いづらいところであった。
1年後、自分より下位の成績であったクラスメートたちが浪人し成績を上げ、次々と自分より上位の医学部に合格を果たしているのを聞き、複雑な気持ちになったのを覚えている。その後も私は在学中、一貫して母校に愛着が持てず、卒業した時は心からホッとした。志望校を妥協せずあのまま初志貫徹し勉強し続けていれば、あるいは浪人していたらどうなったか、と今ですら時々考えることがある。もっと素晴らしい学生時代を過ごすことができたかもしれない。
最終着地点は医師になることなので、結局どこの大学でも同じなのだが、合理性だけでは割り切ることができないのが受験の難しいところだ。
大学ランクをどこまで妥協するか、は医学部入試における最大の問題なのである。

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