医学部・医師のデメリット

前回の記事では医学部・医師の長所を語ったが、デメリットも一方で存在するので触れておきたい。

1.頑張ると金銭的に損をする。


簡潔に言うと、「楽な診療科ほど実入りがよい」、「楽な病院ほど給与が高い」ということである。
昨今、外科を筆頭とした労働負荷の高いハイパー科と言われる診療科の希望者は減る一方であり、眼科や皮膚科、精神科などマイナー科に人材が集中するようになっている。その最大の原因は金銭面での見返りがないことだ。どの診療科も給与が同じどころか、ハイパー科ほど給与は安いのではないかという印象がある。
これは経済的に考えると不思議だ。給与が需要と供給で決定するならば、外科など生命に直結しやすい診療科はニーズが高く、人員が少ないのであればブランド品のごとく高給になれそうだ。それにもかかわらず安く買い叩かれる傾向にあるのは医療が保険診療という国家が管理するある種の計画経済だからだろうか。私は経済には疎いのでこの仕組みがわかる人は教えてほしい。
病院の規模と給与が反比例するのは医師なら誰しも実感があるだろう。
大学病院>総合病院>地域の中小規模の病院>クリニック、の順に医療は階層化が成されており、上の階層ほど高度な医療、最先端の医療が受けられる。
しかし医師の給与は上の階層の病院ほど安い。精神科であればスーパー救急を標榜しているような病院は給与が低い。一つの機関あたりの医師の数が多くなるほど、給与は安くなるのだという。大学病院は教育や研究に予算を割かねばならず、人件費は二の次だそうだ。
上の2点から言えることは、仕事を頑張るほど収入面で損をし続けるといった事態が医師では容易に発生しうるということである。これは他の職種ではあまりみられない現象ではないだろうか。労働の目的の一つが金銭である以上、より収入を得たいと思うのは当然だろう。だからこそ人は懸命に働ける。しかし医師の場合、医療に身を捧げ、昼夜休日問わず病院で仕事に邁進していても、楽な診療科に進んで定時で帰宅し休日もしっかりある医師に給与面で負けてしまうパターンが多い。空いた時間の多い医師はその時間にバイトができるが忙しい医師はそれも難しく、差は広がる一方となる。これは本当に不合理だ。「やりがいがある」、「給与が安いのは勉強代だと思っている」と述べる先生がいるが、よほど献身的か、もともと金銭面で恵まれた環境にあるのだろう。
「頑張ったら損だ」と思わせるような環境は医師のモチベーションを大きく削いでおり、現在の医療の大きな問題の一つだと考える。

2.ブラック労働の犠牲になることがある。


最近だと神戸市の甲南医療センターの過労死が記憶に新しい。医師の過重労働は時に想像を絶するレベルにまで達することがある。
それを可能にするのが当直業務だ。夜間も病気は休まず働くので、医師もそれに常に備える必要がある。医師の場合、看護師のような日夜勤体制が取られていることはほとんどなく、当直(厳密には宿直)扱いとなる。仕事はほとんどないし寝ていられるけれど万が一何かあったら対応してください、というのが本来の業務レベルである。しかし、実態は不眠不休の急患対応となることが病院、診療科によっては頻発する。こうなると、日勤→当直(休みはほとんどなし)→そのまま日勤という超絶コンボが完成する。医師で過労になるのはほとんどがこの当直絡みだ。
加えて、学会発表や専門医取得のためのレポート作成といった課題も降り掛かってくる。もちろんこれらの「業務」は労働には当たらないとされ、給与は発生しない。むしろ専門医などは受験料がかかる。
労働基準法を守らない病院は今でも当たり前に存在する。雇用契約を結ばず無給で外来業務をさせる病院があると耳にしたことがある。これらの問題が解決しにくいのは医師にも一定数、労働環境の問題点を肯定している人が少なくないからだ。医師は一般の労働者とは違う、世間一般の常識は当てはまらない、医療のために身を粉にして働くべき、といった主張だ。

3.大学が地方になる、学費がかかるといったおそれがある。


都会の国公立大学医学部に進学できるのは、とびきり優秀な人だけだ。国公立大医学部のほとんどは地方にある。どうしても都会に残りたいというのであれば、高額な学費を必要とする私立大学に進学するしかない。

4.学生生活がつまらない。


主観的になってしまうが、学生生活はあまり面白くない。試験、部活、飲み会の3つで医学部生活のほとんどが完結し、閉鎖的な決まり切った生活である。医学生は排他的であり、他の学部や学生と交わるのを嫌う。話題はいつも同じだし、新鮮な空気は入ってきにくい。それに息苦しさを感じながら学生生活を送ったのは私だけではないだろう。東大や京大、早慶などに進んだ高校の同級生が刺激的な大学生活を送っているのを聞くと、何かを耐え忍んでいるような気持ちになったものだ。学生生活のみで比較するなら、医学部は同ランクの他学部と比べ劣後する印象だ。

5.試験勉強が地獄である。


医学部は試験地獄だ。試験というのは国家試験やCBTは含まず、ローカルな進級試験や卒業試験を意味する。進級の厳しい大学を選んでしまった場合はまさに血みどろだ。暗記が得意、医学が大好きといった学生であれば問題ないが、私はどちらでもなく大変苦労した。医学部は1科目でも落第すると即、留年だ。あとから別科目で埋め合わせるということもできないので、試験前はかなり追い込まれる。受けられる追試は1科目まで、のような独自ルールが存在する大学もある。2科目落とすと即、サヨウナラである。私は試験前の緊張に耐えきれず何度も吐いた。マーク式試験での自己採点では高揚感と絶望感の間で揺れ動くような独特の感覚を毎回経験した。覚えていなかったことが出題されたときの虚無感(医学は暗記なので記述式の試験でヤマが外れた場合、不正行為以外打つ手がない)、試験の合格発表の際、友人は皆受かり自分だけが落ちていたときの疎外感と空虚感、これらは決して忘れられないネガティブな思い出だ。

上記に挙げた問題点のうち、1と2は医師になってからの問題点だ。
この解決法は回避することだ。私は前回の記事で医師の最大のメリットは選べることだと説いた。過労死してしまった医師に同情する声は実は医師の中ではあまり多くない。これは医師は職場や診療科を選べるからだ。ハードな職場で働く医師は「志願兵」のような立ち位置になる。その結果、思わしくない事態になったとしても「自分で選んだ道だ」と自己責任のような形になってしまうのだ。徹底的にリサーチし、ブラック診療科、ブラック病院を回避すること、これが1と2の解決法だ。
3から5の学生時代の問題の解決策は少し難しい。本質的なところは変えられないだろう。ひとまずは勉強を少しでも頑張り、偏差値の高い医学部に入ることだ。国公立は言わずもがな、私立でも偏差値の高い大学は比較的学費が安いことが多い。立地も高偏差値の大学は恵まれる傾向にある。都会の大学ほど外のコミュニティを持ちやすいので、閉塞感は和らぐかもしれない。
進級についても同様だ。下位の医学部ほど進級は厳しい傾向にある。医師国家試験は全大学共通であり、そこに受からない学生を排出するわけにいかないからだ。しかし、偏差値の高い大学でも特定の教授がアカハラのようなことを行っており、留年しやすい傾向を作り出していることもしばしばある。こういったローカル情報はSNSが参考になる。

今回の記事と前回の記事が、進路に迷う高校生、浪人生の参考になれば幸いである。

いいなと思ったら応援しよう!