隠れ理系だった愛央ちゃんが、 想いの力の研究をする話 第一話

注意事項

捏造・原作との矛盾・独自設定・独自解釈・呼称や口調におけるミスを多分に含みます。気になる点などありましたら遠慮なくご指摘いただけるとありがたいです。参考にさせていただきます。

本編

伶那さんが色々考え込んでるみたいだったから、気分転換にってとりあえずお散歩に連れ出してみた。昼間に日陰になってて、比較的涼しめな校門前が今回のお散歩コース。
二人でのんびり歩いてると、ふと伶那さんが足を止めた。

「……星崎さん」
「んー? どうしたの?」

伶那さんは最近できた施設を見つめたまま、いつもより低めのトーンで質問を投げかける。

「あの屋台って、金魚すくいの屋台だよね」
「うん、そうだよ。看板わかりにくかったかな?」
「いや、そういうことじゃなくて……。金魚はどこから持ってきたのかなって思って。ほら、ココロトープってモンスター以外の生き物いないからさ」

伶那さんは度々私に視線を向けるけど、大体は真剣に屋台を見つめてる。
コモンリュークと初めて対峙したときの伶那さんもこんな感じだったかも。
少し怖がりながらも、観察と分析に集中する仕草。こんなふうに怖いものにもしっかり向き合える伶那さんはかっこいいと思う。
なんで金魚に怖がってるのかは分からないけど。

「えっとね、きららのココロトープに金魚鉢あったじゃん? それを使って、えい!ってしたら出てきたよ」
「えいってしたら、ねぇ……」

そう呟くと伶那さんは一瞬不安そうな表情になって、すぐに取り繕うように微笑んだ。伶那さん、やっぱり何か抱え込もうとしてるよね……。
心配だし、遊んでる間にそれとなく聞き出そうかな。

「せっかくだし、ちょっと遊んでいかない?」
「え、私金魚すくいしたことないんだけど」
「大丈夫、手取り足取り一から教えてあげる! こう見えて私、金魚すくいの名人ですから」

大袈裟に威張ると、いつも通りの伶那さんのジト目が私に向く。
そうそう、伶那さんはこうじゃなくっちゃ。

「……嘘くさい」
「伶那さん、そう言っていられるのも今だけだよ〜?」

そんなやりとりをしながら屋台の裏手からポイが入っている箱を取り出す。
中身がしっかり入ってることを確認して、伶那さんの隣まで持っていく。

「ポイは無限に出てくるから、どんどん使っちゃって大丈夫だよ!」
「無限に出てくるって、どんな魔法を使ってるのよ……」
「えへへ〜、すごいでしょ〜」
「褒めてないから」
「伶那さん! 今のはさすがに褒めてたよね? だって、これ建てたの私だよ?」

そこから私は伶那さんに手取り足取り金魚すくいのコツを教えていった。
とは言ってもネットで聞きかじった情報がほとんどで、私の実体験に基づいたものは、ほとんどなかったわけなんだけど……。

「こうやってポイを斜めにしてすくうと、ポイが破れにくいよ。ほら、また一匹すくえた!」
「なるほどね。水の抵抗を少なくするわけか」
「そういうことみたい、私も詳しくは知らないけど……」

伶那さんはコツの裏にある原理を素早く見抜いて、すぐ習得できちゃう。
この調子じゃすぐに追い抜かれちゃうだろうな……。
そんなことを思いながら伶那さんの顔を覗いてみる。楽しんでくれてはいるけど、悩み事は頭から離れてないみたい。思い切って直接聞いてみちゃうことにした。

「伶那さん、もしかして何か悩んでる? 私で良ければ相談に乗るよ?」
「……やっぱり、星崎さんには分かっちゃうんだね」

伶那さんは少し気まずそうにしたあと、真面目な表情で口を開く。

「金魚すくいって初心者でもこんなに取れるものなの?」
「え? いや、取れないと思うけど……」
「それなら、この金魚たち弱らせたりした?」
「してない……はず。最初からこんな感じだったと思うよ」

この流れで悩みを相談されるのかと思ってたけど、金魚すくいの質問をされるのは予想外だったかな。
まだ悩みを一人で抱え込もうとして嘘をついてるのか、オタク趣味を隠すのと同じように金魚すくいに興味を持っていることも知られたくなかったのか。私がすぐに思いついたのはこの二つだけど、どっちも違う気がする。

「……金魚すくいって、金魚たくさん取れた方が嬉しい?」
「うん、だって一匹も取れなかったらちょっと損した気分になるじゃん。それはそれで楽しいけど、やっぱりたくさん取れたらもっと楽しいよね!」

私が何気なくそう答えると伶那さんの表情が一気に暗くなった。私は慌てて自分の発言を振り返るけど、問題がありそうなところは見つからない。

「ご、ごめん。たぶん、伶那さんを傷つけること言っちゃったんだよね?」
「ううん大丈夫、そうじゃなくて。星崎さん、この金魚は想いの力で作ったんだよね?」
「そうだけど、それがどうかしたの?」

ずっと伶那さんの悩みを勝手にいろいろ推測してきちゃったけど、たぶん伶那さんは今の私がいくら考えてもわからないところで悩んでるんだと思う。だから今は難しいことを考えずに伶那さんの説明を聞くことにした。

「星崎さんは想いの力で生き物を作れること、怖くないの?」
「うん……できることが多いのは嬉しいよね。伶那さんはなんで怖いと思ったの? 原理がわからないから?」
「それもあるけど、人間も作れてしまう可能性の方が怖いかな」
「……というと、クローン技術に賛成か反対か、みたいな話?」

私はそこまで詳しいわけじゃないけど、応用できる分野も多いから研究をする分にはいいかなって思ってる。でも倫理とか悪用される心配から反対する人たちがいるのも分かる。

「クローンね……確かに似てるけど、それとは違う話。クローンの問題は人権と生命倫理、あとは安全性の問題なんだけど私が言いたいのは同一性の話。まずこの雫世界は想いの力で出来ている、これは大丈夫?」
「ユズさんが言ってたことだね、もちろん覚えてますとも。」

私たちがいるこの雫世界は、ユズさんとライムさんが灰と怪物から私たちを守るために想いの力で作ったシェルター。一見普通の空にしか見えないあの空も、実は外からの侵入を防ぐ壁だったりするわけ。

「想いの力でもし人間が作れてしまうなら、想いの力で出来た雫世界にいる私たちも同様に誰かに作られたものかもしれない。そう考えると私が私じゃない気がしてきて……」
「伶那さんは伶那さんだよ! 例え私たちが誰かに作られてたんだとしてもそれは変わらないよ! それにユズさんライムさんはそんなことしないし」

私がそう言うと伶那さんは切なそうな表情を浮かべ、それでも話し続ける。

「ありがとう、星崎さん。でも事態はもっと深刻なの。金魚すくいはたくさん取れた方が楽しいって言ったよね?」
「え? う、うん」
「それに金魚たちを弱らせたかどうか聞いたら、あなたは最初からこうだったって言った。つまり想いの力によって作られた時から動きが鈍かったってこと。初心者の私でも金魚をたくさん取れるように作られたんだと思う」
「えっと、つまり……」
「つまり想いの力で金魚の個性を操作できたように、人間を作るときもその個性を操作できちゃうかもしれないってこと。もしかしたら私たちの個性まで誰かに決められてるかもしれないの」
「でも、ユズさんライムさんはそんなこと……」
「ユズとライムが雫世界を作ったと言う記憶さえ、誰かに作られたものかもしれない。もしそうなら私は、私を私だと言えなくなると思う……」
「伶那さん……」

反論のしようがなかった。全部ありうる話。私がどうこう言ったところで覆らない可能性。自分の想いまで作られたものかもしれないってなれば、特別な想いを持ってる伶那さんはすごく怖い思いをしてるはず。

伶那さんの恐怖をなくすために、私ができることはなんだろう?
私は伶那さんに何をしてあげられるんだろう?

「……それならさ、証明しよう!」
「え?」
「想いの力で人間は作れないって、証明するの! だって伶那さんが言ったのは全部可能性の話じゃん。可能性をなくせば心配する必要もなくなるよ」
「……ありがとう、星崎さん。私、何かを怖がって行動できなくなることが多いから、星崎さんみたいに勇気づけてくれる人がいると助かる」

伶那さんが笑顔を私に向ける。その表情が見れただけで私まで嬉しくなってくる。
決めた、伶那さんと一緒に絶対に証明してみせる! 想いの力で人間は作れないって、そして私たちは紛れもなく私たち自身だって!

「で、どうやって証明するか。星崎さんは何か案があるの?」
「あー……それはこれから考えます……」

伶那さんが呆れ顔でため息をつく。良かった、いつも通りの伶那さんだ。

「それぞれ色々考えておいて、明日の朝食後に作業室で話し合うのはどう? 何か実験をすることになったら時間もスペースも必要だろうから」
「いいね、それ採用! 今日はもう頭休ませたいのもあるし」

スマホからフリスペの通知音が鳴る。いつの間にか夜ご飯の時間が近づいてたみたい。私は伶那さんと一緒にいつも通りなんてことない話をしながら、皆が待っている、そして明日から私たちの実験室になる作業室に向かった。

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