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一度きりの青春を①




「引っ越しするぞ」


父からの言葉それはいきなりのことだった。


高校生になり既に1年が経過していた、しかしここまでの高校生活を順調とは全くもって言うことはできない。


高校生になったら彼女ができるとか友達とカラオケ行ってボーリングに行ってとか所謂青春を謳歌できると思っていた。


そんな日常を変えるにもちょうど良いのではないか。


がしかし、急すぎではないか?


「流石にいきなり過ぎじゃない?」


「〇〇は友達もそれほどいないし彼女もいない」


「別にいいじゃないか」


確かにその通りで反論はできないが酷すぎる。


「いいじゃないお父さんの言う通りよ」


母までもが追い打ちをかけるかのように口撃。


「ほら明後日引っ越すから」


「さっさと荷物整理してきなさい」


あまり理解は追いつかないが差し出された段ボールを受け取る。


「分かったよ」


そのまま自室まで向かい荷物の整理を始めた。


一体誰が引っ越しの2日前に言うのか普通の人間であればもっと早くに言うに決まっている。


周りの人間は驚くだろうな「急すぎだろ!」って、どうしよう僕の友達がびっくりしてしまうかもしれない。


あ、友達いないんだった…。


それから何もなく無事に転校することになった。


季節は春、転校するのにちょうど良く新学期。


北海道から東京へ転校してきた僕には見慣れない高さの建物や派手な街は通り過ぎ、そうしてたどり着いた乃木町。


「今回は友達できるといいな〇〇」


「友達が人生のすべてじゃないからね」


「まぁ…頑張れよ」


一生懸命にエールを送ってくれる両親だがあまり期待はしてないようにみえる、その言葉に感謝して新天地の景色を眺めた。


「あぁ!」


そこには情けない声を出しママチャリから転げ落ちている女子校生がいた。







「はい…」


転校初日諸々の説明を教頭や校長からうける。


「君は…えぇ2年何組だっけ」


「奥田くんは2年3組ですね」


「あぁ…3組だ」


「担任の久保先生を呼んでくるからリラックスしてていいからね」


初めての転校で緊張は超ド級でしかない。


前の学校では友達はいないに等しかった、この学校でもまた同じ自分になるのかと思ってしまう。


すると僕の担任かと思われる人がやってきた。


「〇〇くんおはよう担任の久保史緒里ですよろしくね」


びっくりするほど肌が白く大河女優かなにかと錯覚するほどの美人。


「奥田〇〇です、これからよろしくお願いします」


この時点で担任ガチャというやつは当たりを引いた気がして内心テンションは上がっていた。


廊下を歩いて教室へ向かう。


「前の学校ではどんな感じだったの?」


「あんまり友達とかできなくて…」


「そうだったんだ」


「この学校で友達ができるか心配なんですよね」


こんな話をする自分が恥ずかしい。


「この学校の生徒はね、みんな優しいから」


「きっと〇〇くんにも沢山友達ができると思うよ」


久保先生はすごく誇らしげに話している、本当にそうなんだろう。


教室に着く頃には久保先生のおかげで緊張は和らいでいた。


久保先生が先にホームルームをして紹介されてから入る。


「今日から転校してきた〇〇くんです!」


教室の扉を開き一歩、景色を見渡す。


あ…やっぱり無理かも…。


なんかこの教室が輝いて見える…。


和らいだ緊張が再び戻ってきた。


でもそんなこと言ってられない、頑張ろう。


まずは友達をつくるために。


「北海道から引っ越してきました、奥田〇〇といいます」


「よろしくお願いします」


自己紹介が終わると拍手が起こった。


基本的に薄い反応しかされてこなかった人生、大きな拍手に幸せを噛み締める。


「じゃあ席はあの空いているところね」


「分かりました」


新しい席は窓側で後ろ、所謂主人公席といわれる場所だった。


「〇〇くんよろしく!」


僕の席の隣に座っていたロングヘアーできつねみたいな雰囲気のある女の子が話しかけてきた。


「私は菅原咲月っていうの!」


菅原さんの元気の良さにびっくりする、あれ…いったい女子と会話なんてするのはいつぶりだろう。


そんなことを考えていたらしばらく黙ってしまっていたようで。


「引いてるじゃん!」


菅原さんが慌ている。


「いやいや、すごい元気でパワー負けしたんだよ」


後退りしてみる。


「やっぱり引いてる!」


菅原さんとのやり取りでクラスが笑いに包まれる。


久保先生の言う通りかもしれない、クラスの雰囲気は柔らかく僕のことを歓迎してくれているのがよく分かる。


既にこのクラスに入れたことが嬉しくなっていた。


「2人とも面白いけど漫才はそのくらいにしてね」


「色々決めることがあるから〇〇くんと喋るのは後でね」


久保先生が脱線したホームルームを元ある場所へ戻した。


「それでねまずは委員長を決めたいんだけどね」


「誰かやりたい人はいるかな?」


僕はまだこの教室に入ったばかりで誰がどういうタイプの人間なのかも分からない。


ただ菅原さんはどこかで見たことがある本当に最近な気がする、あと委員長に立候補しそう。


「はい!やります!」


やっぱり立候補した。


「おっけ〜じゃあさっちゃんで決定でいいかな」


「次の時間はさっちゃん中心に進めてもらうからね」


「あとは〇〇くんとの交流会で!」


あとの時間は全部交流会ということで丸投げ、僕に話を広げるそんな力はありませんがね。


とりあえず一旦ジッと待機していると、ズンズンとこちらへやってくるクラスメイト達。


「〇〇!これからよろしく!」


肌がちょうど良く焦げいかにもサッカー部!という感じの男の子がさっきの菅原さんよりも元気に話しかけてきた。


このクラスは元気が良いクラスなのか、てかこんな感じで喋るのなんていつぶりだろう。


そんなことを考えているとまた黙っていたようで。


「あれ!?引いてる!?」


「いや…元気が良くてびっくりして」


「咲月と一緒じゃねーか!」


やっぱり元気だ。


「俺は坂田翔平!よろしく!」


「よろしくね」


北海道から転校してきたこともあり興味津々のようで、たくさんの質問攻めに合った。


「北海道って涼しい?」


「雪は降ったら嬉しいの?」


「梅雨がないって本当?」


気候の質問ばっかりだな。


「〇〇くんって彼女とかいたりしたの?」


「気になる!」


菅原さんがこんな質問を飛ばしてきた、気候の質問の後にこれではない気はしたが。


「いないよ。こんな人間に彼女はできないよ」


「えぇ!〇〇くん面白いのに!」


面白いでモテるなんて滅多にないんじゃないかという疑問が湧いたのは内緒だ。


「私は彼氏と河川敷で自転車二人乗りしてみたいの!」


「咲月はいつもそれ言ってるよな〜!」


「〇〇こいつはずっとこんな感じだから気をつけろよ!」


翔平くんはやっぱり元気だ。


そういえば自転車といえばこの前転んでいる女の子がいたな。


なんだろう…。


「あっ!」


「どうした!〇〇!」


「この前自転車から転げ落ちた女の子、菅原さんだ!」


「えぇ!見られてたの!?」


あのときの声すごい情けなかったな。


「すごい情けない声してたよ」


「恥ずかしい…みんな笑わないでぇ!」


またもや教室は笑いで包まれる、この学校での未来は明るい気がする。




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