見出し画像

ルボンvsカイサー【ウーリーと黒い獣たち】

「女王さまを訪ねてターリキィ国の女が来ております」

「ターリキィ国から?」

「はい。これを女王さまにお渡しくださいと」

従者は両手で一冊のnoteを差し出した。
アタクシはそれに見覚えがあった。

「…その女はまだいるのか?」

「はい、門前に待たしてあります」

「通しなさい」

アタクシは従者に告げ、受け取ったnoteの表紙をしばし見入った。

書斎机の引き出しの鍵を開け、そこにしまっていたnoteを取り出して机の上に並べた。
二冊はまったく同じものだ。

同じnoteを持った女がアタクシを訪ねて来た。

ウーリーと離れ離れになったあの日、アタクシに語り掛けて来た妖精がくれたnote。
アタクシがこのnoteを開いたのはあの日一度限りであった。


波DO水の製造工場勤務の合間に、シーホとゼリが『ターリキィ国のヒヤトラーとしてウーリーの警護をすることになった』という、ゴーショーからの続報がちょうど届いた後にnoteを持った女が現われた。

シーホたちが何も知らないとはいえ、ウーリーに関わることになったのは偶然とは思えない。
やはり、何かの力がはたらいているとアタクシには確信めいたものがあった。


アタクシが玉座の間へ入ると女はすでにそこで待っていた。
ずい分汗だくで、疲労困憊の様子だ。

「ターリキィ国に住むウーリーの妻、カイサーと申しております」

従者はそういうと女に向かって合図をする。
女はポニーテールがブン!と音を立てるほど振って頭を下げ、ひざまずいた。

「ここへはそなた一人で来たのか?」

「はい! でも、じきに夫たちもやって来ると思います!」

「男どもより先にここへたどり着けるとは、見上げた脚力をしておるな」

「ごっつぁんです!!」

あまりに威勢良い女の声に私の耳は一瞬キーンとした。
疲労困憊している様子に反した勢いと声量に私は内心面食らっていた。

「あっ!スミマセン!いつものクセで!」

声のトーンを落とせというジェスチャーでアタクシは女に片手を向ける。

「…で? あのnoteは?」

「はい、あれはウーリーと結婚して間もない頃、アタピの元に届きました」

「アタ…ピ?」

「あっ、ついターリーキィ語が!」

女は恐縮して口を押える。

口を開くたびに、女の歯に緑色の何かが貼りついているのがチラチラと見えていた。ターリキィにはそういうアクセサリーがあるのだろうか。

「ウーリーと結婚したときと、娘を授かる前の二度、このnoteは光りました。それ以降、何の変化もありませんでしたが、ウーリーが勇者として出発して行った後、また光ったのです」

話しを聞きながら、前歯にある緑色の何かがチラチラとのぞくのが気になってしょうがない。

「光ったときに開くと、持ち主だけがそこに浮かぶ文字を読めるのであろう?」

「ルボンさまもご存じなのですか⁉」

驚いているカイサーの横へ、二冊のnoteをトレイに並べて従者が運んで来て差し出して見せた。

カイサーはその二つを見比べて目をパチパチさせた。

「おそらく、あと1冊あるはずなのだが… 誰が持っているか知らぬか?」

アタクシが尋ねると、カイサーは少し考えて「あっ」と声を出す。

「たぶんラブコさんです! ウーリーを育てた女性です」

アタクシが従者に合図を送ると、従者は彼の部下に耳打ちをした。

「私たちには娘が一人おります。noteに記されていたメッセージで、私たちの娘として迎え入れた子です」

「ですが、娘のリトルソーは妖精フェアリーケィの化身だったのです」

『リトルソー』と『フェアリーケィ』
この二つの名前にアタクシは動揺した。

様々な謎がまるでパズルのように組み合わさって行く。

「カイサーと申したな。
そなたが一人でここに来たことを、ウーリーは知っているのか?」

「いえ、夫は何も知りません。
noteを読んですぐ、急いでウーリーの後を追って、タコパをしているところで合流しましたが、見送るフリをして先回りして来ました」

「彼らは今、どこにおる?」

アタクシは控えている従者へ視線を向ける。

「リケーン国内には到着しておりますが。街の屋台広場で休んでいるのをオネタに見張らせております」

「えっ⁉ オネタって、ヒヤトラーの⁉」

カイサーが驚いて従者に尋ねた。

「そうだ。オネタにはルボン様の命令でウーリーを見張らせている」

「シーホもゼリもリケーン国からヒヤトラーで来たって、タコパで聞いたんですけど、彼らもなんですか⁉」

「いえ、奴らは想定外でした。そもそも我が国では副業を許してはおりません。我らの目を盗んで他国で稼いでいるのです」

従者は苦々しく答えた。

「飛んで火に入るヒヤトラー」

アタクシは小さく笑った。

「カイサー、改めて礼を申します。これまで、ウーリーが世話になった」

「そ、そんなー!お礼だなんて!」

カイサーはポニーテールを左右にブンブン振って答えた。

「もうわかっていると思うが、ウーリーはアタクシとそなたの国のアクーン王の息子」

カイサーは今度は首をコクンと縦に振る。

「つまり、そなたは我らの嫁、ということじゃ」

「ごぉぉっつあんでぃーーーすっ!!!」


カイサーの声が玉座の間に響き渡り、アタクシと従者は同時に耳を塞いだ。

「ターリキィの者はみんな耳が遠いのか? 頼むから、ここでは声の大きさを少し加減してもらえぬか」

「あぁっ!すいません!」

苦笑いするアタクシに彼女は肩をすぼめて縮こまる。


「さあ、ウーリーがここへ来る前に、そなたにすべてを話そう」

「…すべて、とは?」

カイサーは肩をすぼめたまま私を見上げる。

「アタクシが仕組んだ企みと、このnoteの謎についてじゃ」

「・・・」

noteに書かれていたメッセージを思い出し、カイサーもまた何かに気づいた表情をした。


≪続く…かもしれない≫



これまでのお話 ↓


≪ウーリーの妻・カイサー視点≫

≪ウーリーの動向≫


【今回のストーリーに登場するキャラクターたち】

≪ヒヤトラー・シーホ≫

≪謎の妖精・フェアリーケィ≫

≪ウーリー育ての親・ラブコ≫

≪ルボン女王が仕向けたスパイ・ゴーショー≫


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?