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ウーリー③「はよ出発せんかい!」【ウーリーと黒い獣たち」

前回のおハナシ↓


ウーリーが雑貨屋のおかみボーチャに手渡された荷物にまごついていると

「んなら、ぼちぼち行きましょか?」

真っ黒でモフモフな衣装に身を包んだヒヤトラーの一人、シーホがウーリーを促した。

「あぁ、ですよね、…えーっと」

ウーリーはモジモジしている。

「ワレワレは…その、どこへ向かえばいいんですかね?」

「…は?」

ウーリーの言葉にヒヤトラー三人は同時に反応した。

「どこへって、んなもん、わしらに聞いたって知りませんやん」

「自分ら、ターリキィ日雇い紹介所でカンタンな作業ってしか聞かされてないんですけど」

「このモフモフの衣装を着させられたのも、何の説明もなかったですし」

「暑っついのー、しかし」

「マジや。こんなもん、着てられへん」

「あせも出る、わし皮膚弱いねん」

ヒヤトラーたちは口々に不満を言い始める。

「ちょ、待ってくださいよ!こっちだっていきなり勇者とかいわれて、無理やり大っ嫌いなメウボーシの実を口に放り込まれただけなんで!」

「オタクの事情なんて知るかいな」

「それな」

「わし、思てたんと違うってイヤな予感したんよねー」

知らんがなと言いたいのはこっちだとウーリーは思わず叫びそうになるのをグッとこらえた。
グッとこらえると、代わりに「ひゃひゃひゃ」と、笑いが込み上げて来る。

「何、笑とんねん」

シーホが黒いモフモフの衣装を揺らしながらウーリーに詰め寄る。

「すんません、いや、すんません!…ひゃひゃひゃ」

小さいときからのクセで、ウーリーは切羽詰まったり、困ったり、そういうときの感情をこらえようとするとなぜだか笑けてくる。

これが原因で「アタピが真剣な話してんのに何笑ってんねん!」と、妻のカイサーをいつも不機嫌にさせてしまう。
それでもつい、脊髄反射的に「何やねん、アタピて!」とツッコんでしまい「こんな人が怒ってんのに、いちいちうっとおしいねん!」と、さらにカイサーをムキにさせてしまう。


「あかん。残念やけど、今日のところは解散やな」

シーホは他の二人に同意を求める。

「えー!じゃ、今日の日当はどうなるんですか⁉」

「自分はヒマなんでどっちでもいいんですけど、せめて弁当くらいは貰って帰りたいです」

「ほんまやで。わしかてまかない付きってあったから、応募したんやもん」

ヒヤトラー三人はウーリーをうらめしそうに睨む。

「ちょっと待ってって、言うてるやないですか! ひゃひゃひゃ」

どうしても笑いが止まらないウーリーは、業を煮やして帰ろうとするヒヤトラーズの行く手を両手で遮りながら答える。

「自分も準備不足でした、そこはほんますんません! 勇者として具体的に何をすべきなのか理解してないまま、みなさんにここへ来て頂いてしまいました」

「自分らが来たら、何とかなると思うてたんですか?」

「ほれほれ、これや。ターリキィの民、そういうとこやで」

「まかないは出るんでしょうね?」

「ホンマすんません、皆さん!」

ようやく笑いが収まったウーリーは呼吸を整えると改めて三人に向かって言った。

「申し訳ないんですが、これから私と一緒にこの国の賢者シュミクトのところへ行ってもらえませんか?」

何のビジョンもプランもないウーリーが言えるのはそれだけだった。

「シュミクトに指南を乞うてみます」

「は? いややし。わし今日はあんまり遅うなりとうないねん」

「あ、シーホさん明日は早番ですもんね。自分は遅番だからいいけど」

シーホとゼリはリケーンの国営工場で働く労働者だ。
三交代勤務の合間にあれこれと単発の副業をやり散らかして小銭を稼いでいる。

「は、早番⁉ ちょっと待ってー! 何やそれー! ひゃひゃひゃ」

ウーリーはまた笑いが込み上げて来る。いけない!我慢しなくては!と強く思うほどに止められなくなる。

「副業で勇者のお供をするって何ですの? ひゃひゃひゃ」

「どうします?」

ため息をつきながらゼリが二人に言う。

「このヒト、笑ってばっかりで話が進みそうにないですね」

オネタも呆れながらうなづくと、おもむろに黒いモフモフの衣装のポケットから携帯用の通信機器を取り出した。

「あ、もしもし?こちらオネタですけど」

そうして誰かと話し始める。

「いえ、それがまだ一歩も集合場所から動けてません。はい」

ウーリーとシーホ、ゼリはオネタの通話を見守る。

「あっ、そうですか。はーい、了解でーす」

オネタは通信機器のスイッチを切ってポケットにしまうと、腕時計を確かめて言った。

「はい。テイクワン、ノットコンプリート!」

・・・

「ノットコン…え? 何?」

ウーリーは目をしばしばさせながら聞いたが、オネタは何も答えずスタスタと歩き出した。

「行きますよ」

ゼリもシーホを促すとオネタに続いて歩き出す。

「わし、夕方には帰れんねんな?」

シーホがオネタに尋ねる。

「大丈夫だと思います」

「何? 何? 自分たちだけ何? どういうこと? ちょっとー!」

ウーリーは叫びながらも三人の後に続くしかなかった。

「何で、二人はオネタに何も聞けへんの⁉ どこ行くつもりなん⁉」

「ここでウダウダしてるよりはましでしょ。自分ら、日当かかってるんで」

ゼリにきっぱり言われてシュンとするウーリー。

黒い衣装は全身モフモフで手足を動かすにも窮屈そうなのに、三人の歩く速度は異常に早い。
躊躇している間に、ウーリーは三人にどんどん引き離されて行く。

「どこへ向かっているのか教えてくださいよー!」

息を切らしながらオネタに追いついたウーリーに

「チャレンジ、テイクツー!」

オネタはニヤリとして言った。

「わ! ワンからツーになった! だから何なんですか、それ⁉」

「ちょ、悪いんやけど、キリのええとこで休憩してな。わし一服したいねん」

「一服て! 今、歩き出したばっかやん!」

「まかないがカツカレーだったら嬉しいなあ」

「カツカレーて! 集合前もカレー喰ってた言うてたやん!」

三人の後ろで、ウーリーは息を切らしながらも必死にツッコミを入れるが、誰も反応しない。

「一番うしろで大きな袋引きずるて、大国様かいな!」
「勇者って普通、先頭を行くもんちゃうんかなー!」

「だったらお先にどうぞ?」

オネタが振り返るとシーホとゼリも振り返る。

「どーぞ!」

「どうぞ、どーぞ?」

三人に道を開けられ、手招きをされるウーリー。

「あ、すんません、言ってみただけです…」

自分がどこへ向かわされているのかも知らず、ウーリーはボーチャからのみやげ袋をズルズル引きずって、ヒヤトラーの後をついて行くしかなかった。


≪続く≫

この続きはうりもさんが④として投稿されます。


たぶん(笑)



chatGPTを駆使!
ここまでのストーリーがわかる記事 ↓ 

登場人物や相関関係がわかるカンペ ↓

愉快なヒヤトラーのこと ↓


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