見出し画像

部下ゲーム(VUCA GAME)〜終わりなき迷宮〜

第一章:迷宮への誘い

主人公、健太は中堅企業の営業部に勤める平凡なサラリーマン。安定を求めて入社したものの、現実は朝令暮改の連続。上司の指示は二転三転し、昨日の正解が今日は不正解となる日々。目標は常に上方修正され、達成感を得る暇もない。
「健太、例の提案書、社長の鶴の一声で方向性変更だ。悪いな、また作り直してくれ。」
上司の言葉に、健太は積み重ねた努力が無に帰す虚しさを噛み締める。これが、VUCA*時代の迷宮への入り口だった。

*VUCAとは、変化が激しく(Volatility)、不確実で(Uncertainty)、複雑で(Complexity)、曖昧な(Ambiguity)現代社会やビジネス環境を表す言葉

第二章:部下ゲームの構造

健太は次第に、この状況が単なる多忙ではないことに気づく。上司の顔色を窺い、曖昧な指示を解釈し、常に変化する状況に臨機応変に対応すること。それが、この会社で生き残るための必須スキル、「部下ゲーム(VUCAゲーム)」のルールだと悟る。

  • 変動性(Volatility): 市場や状況は激しく変化し、過去の成功は瞬く間に過去のものとなる。

  • 不確実性(Uncertainty): 未来の予測は困難を極め、長期的な計画は意味をなさなくなる。

  • 複雑性(Complexity): 関係する要素は複雑に絡み合い、因果関係を見抜くことは至難の業。

  • 曖昧性(Ambiguity): 情報は不足または矛盾し、状況の解釈は人によって異なる。
    これらの要素が複雑に絡み合い、部下は常に上司の意向を「忖度」し、正解のないゲームを強いられる。

第三章:ゲームの落とし穴

健太は懸命にゲームのルールを学び、上司の期待に応えようと努力する。しかし、このゲームには大きな落とし穴があった。

  • 主体性の喪失: 常に上司の指示に従うことで、自分の考えや意見を持つことを諦めてしまう。

  • 責任の所在の曖昧化: 変化の激しい状況の中で、誰が何に責任を持つのかが曖昧になる。

  • 疲弊とバーンアウト: 終わりなき変化への対応に追われ、心身ともに疲弊してしまう。
    健太も例外ではなかった。次第に仕事への情熱を失い、心身ともに疲弊していくのを感じる。

第四章:甘い誘惑と更なる迷宮

ある日、健太は社外セミナーでVUCA時代における働き方を学ぶ。「変化への適応力」「自律性と主体性」といった言葉に希望を見出した健太は、上司に自分の意見を伝え、積極的にプロジェクトに参加し始める。
当初、上司は戸惑いを見せながらも、健太の積極性を評価するそぶりを見せる。「最近、積極的だな。いいぞ、もっと自由にやってくれ。」
しかし、それは巧妙な罠だった。上司は健太の自主性を「利用」し始めたのだ。今まで曖昧に指示していた業務を、「自主的に考えて行動しろ」と丸投げするようになった。
「この件は君に任せる。君ならできるだろう。自由に、思うように進めてくれ。」
具体的な指示は一切ない。健太は以前よりも更に多くの業務を、曖昧な状況の中で、手探りで進めなければならなくなった。

第五章:ブルシットジョブの無限ループ

健太が取り組む業務は、次第に意味不明なものばかりになっていく。無駄な会議のための資料作成、誰も見ないレポートの作成、上司の自己満足のためのイベント企画。それらはすべて、会社の利益には全く貢献しない、まさに「ブルシットジョブ」だった。
彼は、自分が会社の歯車として、無意味な作業を延々と繰り返していることに気づく。以前はまだ、仕事に意味を見出そうとしていたが、今は完全に絶望している。
「一体、何のためにこんなことを…」
自律的に行動しようとしたことが、逆に自分をより深いブルシットジョブの地獄に突き落としたことに気づく。

第六章:会社の奴隷への転落

健太は、もはや抵抗する気力すら失っていた。完全に会社の奴隷と化し、上司の顔色を窺い、無意味な業務をこなし、自分の時間と人生を会社に捧げる毎日。
かつて持っていた夢や希望は全て諦め、ただ会社に居場所を確保し、生活費を稼ぐためだけに生きている。
セミナーで学んだ「変化への適応力」「自律性と主体性」「コミュニケーション能力」「学習意欲」は、彼を救うどころか、より深く絶望の淵に突き落とした。

(つづく)