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お正月
年末年始は地元・北海道で過ごした。帰省最終日である1月2日、成り行きから4時間ほど新千歳空港で過ごすことになったため、施設内にある温泉でゆっくりしようと思い立つ。こんな機会でもなければきっと生涯入らないだろう。事実、これまでほぼ年2回ペースで帰省と上京を繰り返してきたものの一度も入ったことはなかった。
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時刻は夕暮れ時。比較的、お客さんが少ない湯船にゆっくり浸かって説明板なんかを眺めてみる。
「私達の体は自然治癒能力を有しております。」
日々、無頓着にその恩恵にあずかっているから、改めて文章で教えられるとはっとする。いちど最後まで読み切ってから、またその部分にぼんやり目を留める。
だんだんと熱くなってきたので露天風呂へ移動。広い湯船に先客は二人だけ。寒い寒いと顔をほころばせながら少し離れた奥の方の湯に入る。ピンクやオレンジや水色が混じった、夕方特有の空を見つつ体をゆっくり沈ませる。目線が下がると、小さなものと中くらいのもの、雪だるまが二つ並べて置かれていた。こういうのどこにでもあるよなと微笑ましい。
浸かっている露天風呂の表面をたくさんの湯気がすべって立ち上っていく。不意に、いま確実に治癒されているのだ、と思う。同時に、心だってそうだろうと考える。体と同じように、放っておいても治癒していくくらいの弾力を、本来は私の心も持っているかもしれない。
ここ数年、「自分が傷つきやすいことを認めよう」「メンタルはぶれて当たり前」「無理しない」みたいなスタンスで生活してきたように思う。それが、たまたま胃の不調やら、加齢や、もろもろの要素があって、いつの間にか「自分は弱い」「虚弱体質だから」「あれもこれも無理」などと、若干内容が変質してはいなかったか。
なんとなく、前者と後者は違う。自分の程度をはかり、うまくコントロールするというポジティブな姿勢だったはずのものが、言い訳や逃げ口上になりつつあった。
だからと言ってむやみに傷つきたいわけじゃない。ただ、もっとシンプルに頑張ろうと思えたのだった。そうだ、「頑張ろう」なんて思ったのも久しぶりだ。
こんなの、お正月に温泉に浸かって気分が良くなって、調子よくすらすらと頭に浮かべただけかもしれない。また日常に戻って、あれもこれもと小さなタスクや悩みが積み重なってきたら、今日考えたことなんて鼻で笑うかもしれない——。
***
のぼせそうになったので露天風呂を出た。髪と体を洗って、最後に再度、内湯に入って説明板を読む。
「入浴後は真水で洗い流さず、タオルで軽くふき取るようにしてください。入浴後も温泉成分が体を包み、効能が持続します。」
今日考えたことのうち、自分の心にも弾力があるということだけはせめて忘れないでおこう。どこまで持続するか分からないけれど、じっくり体を温めたあと、書かれている通りにそのまま湯船を出て脱衣所へ直行し、素早く着替えた。