悪いお嫁さん。その2。
葬儀の前日。夫からこんなことを言われた。
「今まで不義理をしていたことについて、謝罪のひと言を言ってほしい。」
少し、驚いた。それは、「きっとこんなことを夫から言われるんだろうな。」という予感のようなものがあったから、「ほんとに言ってきた!」と、自分の予感が当たったことへの驚きだった。
夫が高校生の時にお父さんは亡くなっているらしく、お母さんは内縁の人と一緒に暮らしていた。
夫も長女もお母さんとその連れ合いの方に大変お世話になっていた。わたしもその家に何度かお邪魔したことがあった。
わたしは子供で、そういった場合にどう立ち振る舞っていいかわからずただただ居心地の悪さを感じていた。
お母さんもその方も、歓迎しようとしてくれていたのはわかっていた。わかっていたけど、当時のわたしは心を閉ざし、今の状況から逃げたくてつらかった。
不義理が始まったのは多分、わたしのひとことだったと思う。
お母さんの住む家に、夫のお姉さん夫婦もいた時のこと。何かの会話の流れで誰かが、「時々こうやって集まってワイワイやってるから、まりこさんも参加してね。」と言ってくれた。今思えば、居心地悪そうにしている20代の子娘に、温かい手を差し伸べてくださっていたのに。今ならそれがわかるのに。
当時のバカなわたしは、「そういうのは苦手なので、、、」と、突き返した。
本当にバカだったと思う。
夫のメンツ丸潰れだったと思う。
自分の娘が彼氏の家でこんな事を言っていたとしたら、「なんっっって心のない子に育ったんだ、、、」と落胆してしまうかもしれない。
それほどにわたしは恥知らずな子娘だった。
暖かく迎えてくれようとしている人たちの心を受け取ろうとしなかったのだから。
そんなわたしだからきっと、夫もわたしを守るために自分の家族から距離を置いたのかもしれない。わたしを傷つけまいと今まで15年間、何も言わないでいてくれたのかもしれない。
それを聞いても本人は違うというかもしれないし、ほんとに違うのかもしれないけど、そんなふうにぐるぐるぐるぐる考えてしまうほど、今わたしは自分自身をとても恥じている。
お母さんにとって大事な息子をわたしなんぞが独り占めしてしまったのかもしれない。お母さんはそんなふうに思ってしまっていたとしたら。
でももう謝る事はできない。お母さんは棺桶の中で冷たくなっている。化粧をしてもらってとても綺麗な顔だったけど。
今まで不義理をしてきたわたしが参列してしまってすみません。
そんな風に思いながら、自分がみっともなくてつらかった。
つづく。