ヒゲ&ロン毛先生のこと
精神科、と聞くとどんなイメージだろうか。私はマッツ・ミケルセンの演じていたハンニバル・レクターのイメージであった(危ない)。
重厚なインテリアにぎっしりの医学書。神経質そうな医師。どこかに寒々しさはあるかもしれない。そんなイメージ。
さて、まふもちが初めて行った精神科は、そんなイメージを覆す?ところであった。
まず建物外観。コンクリートの白い2、3階建ての普通の昔からの診療所(夏になると蔦が壁に絡んでいる)。よくある住居兼診療所って感じ。
建物の中身も、白を基調とした少し古ぼけた昔ながらの診療所って感じ。待合室兼廊下には、寄せ集め感のある揃っていないソファやら椅子やらが置いてある。(ソファはやたらと沈む。スプリングがダメになってしまっているのだ)
冬にはゴウゴウと音を立てて、ガスファンヒーターがフロアを暖める。入り口に近い場所は、ガラス越しの日の光が暖かかった。
ここまで書いておいて、『昔ながらの診療所』と何度も出てきているが、その通りなのだ。なぜなら、精神科になる前は先代の先生が外科をしていたという。分野が180度ちげぇ。
待合室から見える元処置室には、点滴スタンド(あの点滴を吊るやつ)に風車がつけられて、タオル達が干されている。ゆるい。それもオシャレタオルじゃない。〇〇工務店とか書いてるようなやつ。
さあお待ちかね、医師のヒゲ&ロン毛先生の話だ。
その名の通り、ヒゲでロン毛なのだ。男性である。ホームページに出てた経歴から逆算するに、当時50代くらいか。ヒゲでロン毛で、やたら柄柄したネクタイを締めてある。丈の長い白衣を着ている。
ここまで読むと、偏屈者の気がするだろう。性格は明るく、笑い声がデカイ、関西のおじさんである。
濃いブラウンの壁一面の本棚とそこにぎっしり詰まった医学書諸々…同系色のデスクには、PCと紙カルテたち。までは良かった。
ふやけた茶葉がいつも溢れそうになっている急須。診察室の片隅に猫雑貨。なんかゆるい。雑とも言えないゆるさが漂っている。
診察は関西のおじさんと話す感じであるが、もちろん、ちゃんとした診察である。初診の際は、時間をとって聞き取りをし、モノアミン仮説の説明から治療方法の提示までを受けた。私は適応障害の見立てだったため、薬物療法の有無は後々経過を見ましょう、となった。
精神科といえば、なんだか鬱々とした話をしがちだが、まふもちがカロリーメイトチョコレート味ばかり食べている話をすると、「他の味は食べんの?」の返しである。私は、電撃が走ったような気がしたのだ。あ、別の味を選ぶって選択肢もあったな…と。
一応、ちゃんとした先生ではあるのだ。行政関係の会議等にもよく休診の時間をぬって行っていた。
診察は、初診から予約なしで受け付けている。ただ、再診でもタイミングが悪いとすごく待つ。2〜3時間待ちになったこともあった。土曜ともなると、朝早くから並んで待つ人々をよく見かけた。地方都市とはいえ、そこそこの中心街なので他にも心療内科や精神科があったが、ヒゲ&ロン毛先生は人気のある先生なのだろう。
まふもちも、ヒゲ&ロン毛先生に救われた1人である。その後、まふもちの仕事の異動で引っ越す際に紹介してもらった病院へと転院をし、まふもちはいい感じで治療を続けている。(転院先の先生は、ヒゲでもロン毛でもないふつうのおじさんである)
あの街ではまだ、ヒゲ&ロン毛先生はあの古ぼけた病院で誰かを救い続けているのだろうか。
…と締めたいところだったが、これを書くためにネットで確認したところ、なんと新しい建物を建てたそうだ。あの場所がいつか無くなってしまうのではとの寂しさと、外観だけしか分からないけどシックでかっこいいじゃんヤッタネという気持ちがないまぜになった気分で締めたい。