400字ショートショート「夏の飴玉は」
ソーダの味がするらしい。何かって夏の飴玉のこと。実を言うとうちにもあるんだ。去年、茹であがりそうな猛暑を採ってきて、グラニュー糖と混ぜて煮溶かしたもの。
憂鬱な梅雨を前にガラス瓶に手を伸ばした。半透明の水色と細い白のストライプが目にも爽やか。口に含むと甘酸っぱくて、確かにソーダだと頷く。
採取日は高校最後の夏で、隣にはちょっといいなと思ってたクラスメイトがいて。
「飴にするの? バズってたレシピ動画のでしょ?」
笑いかける彼。自分の頭の中を見られたようで恥ずかしくて、ぼそぼそと私は返した。
「おいしそうだと思って」
嫌だ、自分を知られたくない。その時、「いいね」と声がしてほっとしたんだ。
「あ、できたら俺も食べたいなー。なんて」
「でも固まるの来年の四月だよ」
あなたはその時、もうここにいないじゃん。心の中で呟いた。
過ぎた夏に戻った時、酸っぱさは少しだけ強くなる。もう満腹。一息つきたくなったらまた食べよう。