400字ショートショート「助けを待ち続ける人々について」
ロングスカートが揺れる。刺繍されているのは原色のブーケ。振り向いた見知らぬ顔に
「こんなところに女の子がいるなんて」
と思わず呟いた。
コミュニティのはずれに「捕まってしまった人達」が住む家がある。何をしたのか、そもそも罪を犯してしまったのかすら不明だ。一日中、劣悪なコーヒーみたいに澱んだ瞳で道端に座る彼ら。まるで存在しない人になってしまうらしい。もう働くのも許されないって。
「いつか連れ出してくれる人を待ってるの」
ニナと名乗る彼女はそう言った。
ある年の夏、僕は外の街に引っ越すことにした。仕事が見つかったのだ。
ニナは「私も連れて行って」と言った。監視が及ばないほど遠くに行けば、自由になれるのだと。
「いいよ、おいで」
ガタガタ揺れる壊れかけのバス。ニナは今朝まで暮らしたあの家並みへ手を振った。くすんだガラス越しにずっと。
捕まってしまった人達の住処。何の罪で捕まってしまったのかを、僕はいまだに知らない。