400字ショートショート「十年後のハマナス」
noteさん10周年おめでとうございます!
感謝を込めてショートショートを書きました。
noteは私にとっては「いつか物語を書きたい」という夢が叶った有り難い場所です。青緑の綺麗な色のボタンもいいですね(デレデレ)
それでは一話どうぞ。
十年後のハマナス
ここらの草原は夏でも黄色っぽいのね。普通、夏草は青々してるもんだけど。
いつだったか通りかかった旅団がそう言っていた。
ここは国境近くの高地。厳しい管理も及ばない、銃の代わりに芸術を愛する町だ。
ある年の四月、一人の兵隊さんが警備に配置された。と言っても平時だから特にすることもなく、日がな一日詩集を読んでいる。笑い皺が特徴的な人だった。最初は怖かったけれど、お願いすれば彼はいくらでも物語を聞かせてくれた。中には恋の話もあった。
一年が過ぎた頃のこと。彼は私に一話語り終えると、近くの花を摘んでくれた。
「海辺でもないのにハマナスが咲くんだね」
鮮やかなピンクの花が風に揺れる。
「行かなくちゃいけない。物語を聞いてくれてありがとう。元気で」
あの日のハマナスは押し花になった。地平線にかざすと曖昧な丸い輪郭は陽光を透かす。
ここは様々な国の境目が交わる所。行く人も戻る人もいる。今は私がこうして、物語を紡いでいる。