原晋「反発の男」
箱根駅伝に限らず、お茶の間でもすっかりと話題の一つとなっている青山学院大学の原晋監督。その存在は多くのファンを作り出してきた。近年の箱根駅伝の盛り上がりを支えている最大の功労者といっていいだろう。
一方で、「指導者として」ではあるが一つ大きな分岐点を迎えそうな予兆がある。
それは、3位に入りながらもこれまでの青山学院大学には見られない「惨敗」だったからだ。この1年、青山学院大学はどんな反発を生み出すのか私は今注目をしているからであり、何よりも原監督こそが「反発の人」だったからだ。
選手としての「実績」は乏しい人だったが…
原監督の出身校は広島の名門である世羅高校。主将としても高校3年時には全国2位に貢献するなど、駅伝での実力は確かなものがあった。
進学した中京大学でも5000メートルで日本インカレ3位に入賞するなど活躍こそすれど大学1年、2年時にパチンコや飲み会に明け暮れたこともあり希望する実業団には入社できず。
結果として現在の名門であるが、当時駅伝での実績がなかった中国電力に入社。選手としては1年目にねん挫したこともあり実績を残せなかった。指導者との確執などもあり27歳で現役を引退したものの、主将としてニューイヤー駅伝出場へと導くなどの功績も残している。
決して実業団でも目立った結果を見せたわけではなかったが、原監督はそこから10年間の間に「伝説の営業マン」となっていき、一方で中国電力も佐藤敦之さんをはじめとしたオリンピアンを輩出する実業団の名門に成長していくこととなる。
「選手として」は結果を残すことは叶わずとも、そうした悔しさが根源となり、原監督は新規事業を立ち上げるだけの明確な実績を残すことができた。そして、それが青山学院大学の現在に至るまでの指導メソッドとしても生きていくこととなる。
名門・青山学院大学を作り出してきたものとは
2009年に33年間出場のなかった青山学院大学の駅伝出場が決まった一方で、そこに至るまでも5年と言ってしまえばそれなりのサイクルは要した。当然青学といえばバスケや野球も名門である青学にそこまでのお金をかける価値があるのかと疑問を呈されてきた。
一方で、山梨学院大学のように箱根駅伝だからこそ名前を聞く大学というのもあったのは事実だ。そうしたことも説明・説得を行ってきたのは原監督でもあった。それを明確に説明する能力があったのは、やはり原監督が「伝説の営業マン」たる所以だったのだろう。
結果は33年ぶりの箱根駅伝は22位と最下位に沈んだものの、翌年には出岐雄大さんを擁してシード権に滑り込み、以来13年連続シードを保ち続けている強豪へと上り詰め、2014年からのこの9年で3大駅伝が25試合行われて優勝は11度。高い勝率と強さを誇る。
そこには徹底した実力主義と明確な結果による管理、そしてそこに裏打ちされた厳しい練習と自己管理能力の高さを要求させた。また、試合へのピーキングも徹底させた結果青学はどんどんと強くなっていく。
実際10年近く強豪として席巻することこそ、学生スポーツではなかなか稀有な事象であるともいえる。キャラクターの明るさも相まって、青山学院はますます強くなっていった。
追い上げがますます厳しくなる
だが、青山学院は今回往路4区で太田くんが駒澤大学の鈴木芽吹くんに競り負けて以降1位を奪うことなく下位に沈んでしまった。
そこには主力選手のコンディションが整わなかったことも要因として挙がっていたが、そこは駒澤大学も同様であったし来年主力の残る中央大学や國學院大學といった大学の追い上げもあることは見逃せない。
また、青学に進学した選手より駒澤や東洋に進学した選手のほうが卒業後に伸びるという定評もあるのだろう。これまで以上に「青学だから選手が集まる」という傾向はなくなっていくような気がしている。
つまり、他大学に良い選手が入学するというケースも増える可能性があり、ある意味で原監督にとってここからが本当に踏ん張りどころとなる。ある意味でこれまでの「反発力」が試される1年になりそうなのだ。
だが、この1年決して悪いことばかりではなかった。
「よこたっきゅう」こと横田俊吾くんが大学生のマラソン記録を20年ぶりに更新する快挙を成し遂げたのだから。それに、タイムだけ見れば青学の選手=実業団で活躍できないという定評はほかの選手たちの活躍を見ても、決して当てはまらないことは証明されている。
だからこそ、青学でもこれから世界へと活躍できる選手となれるような育成。ここを原監督がどうやって創り上げていくかにかかっているのではないだろうか。
そして、私はそれが彼ならばできると思っている。
伝説の営業マンに成り上がったこと、33年間箱根駅伝出場のなかった青学を名門にしたこと。それができた彼に、また新しい強い青学を作れないわけがないと信じているからだ。
いや、外野からの勝手な期待とも言えるのかもしれないが。