佐藤圭汰にまだ残っている「伸びしろ」とは
衝撃的な記録だった。
1月26日にボストンで行われた室内競技の5000メートル走の記録会において、駒澤大学に所属する佐藤圭汰くんがこれまでの自身のベスト13分22秒91を大きく更新する13分09秒45をマーク。
室内外と合わせて日本歴代2位の好記録を見せつけた。しかし、室内だからこそまだまだ物足りない部分があるのもまた事実だ。それは、室内競技の特性に秘められている。
屋外に比べて走りやすいようにコースが作られている
屋外の陸上トラックは400メートルでそこを12.5周するのが5000メートル走であるが、室内競技の5000メートルはその半分の200メートルで作られていて、そこを25周するのが室内になる。
この時点ですでに屋外記録と混同させるのはやや危険というものだが、室内ではさらにこれに加えて選手たちが走りやすいように傾斜がつけられているのだ。
これを付けることによって程度によるが選手たちにとってコーナーが直線を走る感覚で走ることができるようになるのだそうだ。ほぼまっすぐ走ってれば勝手に回るとなるため、圭汰くんにとって屋外の日本記録を含めて記録更新を狙うことができるチャンスだったと言えるわけだ。
実際に先の大会の記録を振り返ってみると、上位8名の中には12分台で走った選手もいた。つまり、日本記録更新を含めて12分台での記録も圭汰くんは狙える状況にあったということだ。
せめて日本記録、あるいはオリンピックの参加標準記録突破を目指すことも当然できたのである。手厳しいように見えるが、圭汰くんにはそれだけの記録を狙ってほしかったとも思うわけだ。
だが、それと同時に彼から強く感じたのが「伸びしろが満載」だということである。
圭汰くんの伸びしろとは?
単身で自らアメリカの武者修行を選んだ圭汰くん。その意気込みだけでも向上心の高さがうかがえるが、その他にも伸びしろを大きく感じさせる2つの要素がある。
①5000メートル用の調整をしていなかった
彼はこのタイムを出す3週間前、箱根路で太田蒼生くんとしのぎを削っていた。初めての20kmを越えるレースとなった彼にとって、屈辱を味わるレースとなっただけではなくチームの3冠を逃してしまう「流れ」ができてしまった。
とはいえ、箱根駅伝の3区を走り区間記録は1時間00分13秒。太田くんに敗れたとはいえ両腿に異変が起きていたとは思えないほどの驚異的なパフォーマンスだったことは言うまでもない。
それから3週間。彼は5000メートル用に脚を仕上げたわけでもないにかかわらず日本歴代2位の好タイムをたたき出したのだ。コーチを務める高林祐介さんも思わずこのようにつぶやいていた。
もし圭汰くんが5000用に調整していたら……。そう思うと末恐ろしささえ出てくる。とはいえ、走りやすいコースだったからでは?という意見も出てくるだろう。そこで個人的に感じた彼の「成長」。ここにもフォーカスを当てたい。
②この1年でのフィジカルの成長が著しい
入学してから出雲と全日本。彼は驚異的なスピードを見せてきた一方で184センチの大きな体に見合うだけのフィジカルができていないように見えた。圭汰くんの走り方は芽吹くんや篠原くん、田澤廉選手とは違ってヴィンセント選手のように腕を振りながら上半身の力も活かして走るタイプ。
これが洛南高校時代の圭汰くんだ。
こちらが大学進学後の圭汰くんだ。
まだまだ成長過程にあると言えるが、僧帽筋のあたりがしっかりと筋肉が付いてがっちりとしてきているように思える。彼が持つパワフルな走りが完成するのはおそらくもう少し待たねばならないだろうが(実業団入団くらい)、それまでの過程の中で5000メートル12分台というのはある種ノルマ的になっていくはずだ。
日本新すら通過点。そんな選手になれるはず
駅伝好きであれば、圭汰くんがどれだけの驚異的な才能を持っているのかを説明する必要性がない。むしろこの記事を書いたところで「駒澤信者か?」と騒がれる程度のモノでしかこれはない。
それでもだ。我々の予想を大きく良い方向に裏切ってくれるのが彼だと思っていて、ぐんぐんと大きく伸びていく余地が彼にはある。そう考えた時、圭汰くんはどんな選手になっているのだろうと思うと書かずにはいられなかったのが本音だ。
この冬の武者修行を終え、トラックシーズンへと入っていく中で彼はどのような姿を我々に見せてくれるのか。いや、もしかしたらこの武者修行中に日本記録すら軽々とクリアしてしまう。そう思ってしまうのは私だけだろうか。
なぜなら彼は日本記録を樹立するために競技しているのではなく、世界と戦うために今牙を磨いているのだから。