ラノベ#6
【魔王様は倒されたい#6】
「痛っ!!、、、やっぱり、アクセス出来ない様になってるっぽいな。。」
と、会社のデスクに座っている私は、右のコメカミあたりを押さえながら独り言を言った。
昨日の出勤途中、同僚のほまれに「あのな、実は、、、」と自分が魔王になった事の相談をしようとした瞬間、全身に電流が流れた事で、ある一つの疑念が生まれていたのだ、、。
ゲーム内で、何故、前魔王の【† 死黒聖天†】さんは自分の弱点がナベのフタだと明言せずに、『ある意外なモノを投げれば』と言っていたのか?
その答えは簡単で、勇者に直接言えない仕様にされているのだろう。
だから遠回しに言ったり、門の前にヒントとなるナベのフタ専門店を開いていた。
そこまでは、何となく察していた。
あくまでもゲーム難易度を下げない様にする為の禁止事項なのだろう。
問題はここからだ。
現実世界でも人に「この度、魔王になりまして、、。」と名乗ろうものなら強烈な電流が流れるし、今まで毎日欠かさずアクセスしていたドリキャスの攻略情報サイトや書き込み板にもアクセス出来なくなっているのだ。
普通なら考えるだけでマイクロチップが作動して、そのWebページが脳内に浮かぶ様になっている。
他のドリキャスに関係ないサイトは閲覧出来るのでネット回線の故障では無さそうだ。
昨日も電流が流れたあと、まさかと思い恐る恐るドリキャスの情報サイトにアクセスを試したら、頭が割れる様に痛くなった。
昨日だけたまたまか?と思ったが今日もダメだった。。。
どうやら間違い無さそうだ。
体内のマイクロチップをイジられた私は、現実世界でも情報統制されている。
【† 死黒聖天†】さんがクリア後にネット上から消えたのも、きっとアクセスしたくても出来なかったのだ。
これでネット掲示板に、
【私は魔王です】
001:目薬を99個投げたら私は楽々倒せます!
と攻略法を書き込む案は無くなった訳だ。
ま、この案は弱点を変更した時から既に、あまり期待していなかったけど。
大半のウソと、少量の真実の書き込みが混ざる掲示板。
誰がそんな明らかにデマっぽい【魔王の弱点は目薬】なんて書き込みを信じて、わざわざ魔王討伐に来るだろう?
そんな事よりも、もっといい方法がある!今朝、ゲーム内で発注した魔王城のリフォームが済めば、きっと大丈夫!!
、、なんて考えていると、もう昼だ。
(‥昨日、断ったし今日は誘ってみるか。)
「おーい、ほまれ!メシでも行くか?ほら?昨日行ってた、サラッサラ定食のサラサー亭!」
「あぁ、先輩、嬉しいんですけど、今日は遠慮しときます〜。」
と、いつも元気な彼女が眠そうに目を擦りながら答える。
「なんだ?えらく疲れてるな?」
「はい〜。。いや、昨日、バイトが忙しくてヘロヘロなんです。なので、お昼休みは寝させてもらいます〜。。」
「おっ!おい!一応、公務員だからバイト禁止なんだぞ!?大きな声で言うなよ!」
と小声で釘を指すも、もう寝ている。
ま、疲れてる様だな。
職場の皆には内緒だが、彼女の家は借金がある。
悲劇は彼女が3歳の時。
父親は真面目な商社マンだった。
友人と2人で興した会社が、軌道に乗り出した頃のある日。
彼女の母親が、父親にこう言ったのだ。
「帰り、韓国のり買って来て」
ーーーーーーーと。
これが、悲劇の始まりだった。
「帰り、韓国のり買って来て」と言う言葉がどうやら、父親には「帰り、タンクローリー買って来て」に聞こえたらしく、間に受けた彼は間違えてタンクローリーを購入。
タンクローリー購入の為に闇金で1800万を借りてしまったのだ。
悲劇はそこで終わらなかった。
次の日、なんと彼は何を思ったのか別のタンクローリーをもう一台、買って帰ってしまったのだ。
これに関しては彼も、
「どうしてこんな事をしたのか分からない。」
と答えている。
さらに悲劇はそこで終わらなかった。
何とその翌日、今度は母親の方が新たにタンクローリーを買ってしまったのだ。
しかも、少し高級なタンクローリーを。
しかも、2台も。
これに関しては彼女も、
「どうしてこんな事をしたのか分からない」
と、こう答えている。
しかし、悲劇はそこで終わらなかった。
とても大きめのハチが、部屋に入って来たのだ。
結局、ハチは誰も刺さずにどこかへ行き、闇金から借りた借金1800万とタンクローリー4台だけが残った。
(最初の一台以外は、なんとかして自力で購入)
その1800万返済の為に仕事が終わってからも週4でバイトしていると聞いた事がある。
今時珍しい清貧だが、どうもバイト禁止という事は忘れがちだ。
「ま、ゆっくり寝かせてあげますか。。」
と、彼女を起こさない様に部屋から出た。
昼飯は1人、公園でフランクフルトを5本食べた。
❇︎
「あぁ、もう時間かぁ〜」
部屋で寝転びながら考え事をしていたのに、定刻になった途端、バツンっと電源が落ちた様に勝手に眠らされていて、気づけば魔王の姿になっていた。
しかし、今日からリフォーム着工の日。
少しだけワクワクしていた。
「朝と昼もだったし、晩飯はさすがにフランクフルト以外のモノにしたら良かったなぁ〜、、」
と、独り言を言いながら扉の向こうに目をやると、ボーっと死んだ目で一点を見つめているツェシが立っていた。
「おおーい!ご苦労さん」
と言いながら近寄る。
『、、、、、、、、、、、。』
相変わらず仕事以外はダンマリだ。
「どう?今日からリフォームだけど、進んでる?」
『、、、“もよう替え”は、まもなく始まります。とにかく、黙って待っていてください』
《魔王城は現在、メンテナンス中です。明日以降の挑戦をお待ちしています》
と書かれたウィンドウが遠くから見ても分かるくらい大きく、城の上に出る。
『、、、。メンテナンス中のウィンドウが出た様ですね。では、業者の皆さん、図面通りにお願いします』
と彼女が言うと、城のいたる所がジジジジっとノイズの様に空間が歪み、そこから現れた、作業服を着た親指くらいの小人達が「ウォーッ」と声を荒げながら走り回り、作業を始めた。
魔王の間にもリフォームの注文をしていたので、入って来てせわしなく作業をしている。
木材を小人達が20人がかりで持ち上げ、運ぶ。
それを何往復も、せっせと運ぶ。
大きなテレビモニターなんかは50人がかりでゆっくりゆっくり運ぶ。
高い場所なんかは、小人達が何人も肩車をして作業をしている。
その近くで、現場監督なのか普通のサイズの大人たちが6人位で図面を見ながら小人に指示を出す。
その近くの資材置き場で、普通のサイズの大人たちが、疲れた小人達に小さなグラスに水を注いで手渡す。
その近くで、
「いや、デカいヤツらだけで作業しろや!」
と魔王が叫ぶ。
【次回へ続く】
※訂正とお詫び
この掲載話の3行目に
“会社のデスクに座っている私は、右のコメカミあたりを押さえながら”
とありますが、正しくは
“左のコメカミを押さえながら”
の誤植で御座いました。
これからも応援をよろしくお願いします。
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