
現実的な女。でも・・・東京タワー。
エレベーターを降りると、
あきとさんは、
「ちょっと待ってて。」
と、私をエレベーターホールに残してフロントへ向かった。
きっと、部屋をとっているのだろう。
普通なら、
ーーーどうしよう!一緒に夜を共にする!?泊まる!?
と慌てるはずが、
ーー部屋、空いてんのかな。
ーーあきとさん、明日休み?
ーーいや、待て、私、明日仕事だけど、服どうする?
ーーてか、このホテルめっちゃ高いよね?
ーー思わぬ出費だわ・・・
ーーラウンジ奢ってもらったから、ここの支払いは私だな。
ーーいや、それ、見合わなくない!?
ーーいやいや、てか化粧道具も何もないぞ。
ーーあぁ、でもこのホテル、本当夜景綺麗だなぁ。
ーーきっと部屋からだと格別なんだろうなぁ。
なんて、呑気に考えていて、不思議と緊張感などは一切なかった。
そんなことを考えていると、あきとさんがカードキーのようなものを握りしめて戻ってきた。
「大丈夫?部屋空いてた?」
「うん、平気。空いてたよ!」
「そっか!じゃあ、行こうーー!」
なんか私は陽気で。なぜだかは今でもわからない。酔ってた?
エレベーターに乗り込もうとすると、
「れいちゃん、待って。ちがう。」
「え?」
「そのエレベーターじゃない。こっち。」
そう言われ、あきとさんについていく。
ーーん?もしや空いてなくて違うホテルとった?
あきとさんについていくと、別のエレベーターホールにたどり着いた。
「ん?客室とはエレベーター別なんだね!」
「ちょっと特別な階らしいからね。」
「え!?」
「クラブフロアってやつ。あ、スイートルームとかじゃないよ!笑」
「え!?やばいじゃん、絶対。(お金も)そこしか空いてなかったの?」
「んー、いやスタンダードフロアも空いてたけど、なんか。俺の些細な見栄?笑」
「ちょっと!!!宿泊費は私が払うよ!!」
「え、なんで?笑 やめてよ。もう支払いしてあるから。笑」
「そんな・・・私もう社会人だよ!!ちゃんと稼いでるよ!!あの頃と違うよ!」
「そういうんじゃないの。俺の自己満に付き合って。」
「なんだし・・それ。」
そんな会話をしている間に、エレベーターが宿泊階に止まった。
最上階だった。
あきとさんがカードキーを見ながら、部屋を探す。
私もカードキーの覗き込み、部屋番号を確認。
ーーーん?逆行ってる。この人・・。
「あきとさん!」
「ん?」
「部屋!」
「え?あった?」
「ちがうよ!逆方向!!」
「えーー、ダサいーーー。恥ずかしいじゃん。笑」
なんか、あきとさんが可愛くて、
「もーーー!こっち!!!!」
とちょっと呆れながら、あきとさんを誘導しつつ、「ずるいなぁ」と思っていた。
部屋へ到着すると、
そこは本当に素敵な部屋で。東京タワーが見えた。
「わーーーー!すごい!綺麗!!さっきラウンジでは見えない席だったもんね!!こんなに綺麗なんだ!!」
「そうだね、これは綺麗だね。」
「なんか、私たちは東京に住んでいるし、この辺で仕事したり飲んだりしてるから見慣れてるはずなのにね。こんなに綺麗!って思うんだね。すごいわ、東京タワー!」
「(爆笑)そんな興奮する?れいちゃん、意外すぎる。笑 もっとスマートに流されるかと思った。笑 実はスタンダードフロアは、さっきのラウンジと同じようにビル街しか見えないんだって。でも、東京タワー見える部屋にしたら、れいちゃんって感動したりするのかなーって思ったから、この部屋にした。笑」
「え!?そうなの!?試してたの?笑 やだーーー!スマートに流すべきだった?笑」
「いや、ぶっちゃけ、すごい嬉しい。笑」
「なら、よかった!笑 良い意味で期待を裏切ったかな?笑」
「うん、すごく良い意味で。笑」
「あ!何か頼もうよ!まだ日付も変わってないし!ルームサービスは私のおごり!!!」
「でも、れいちゃん、明日仕事でしょ?寝なくて大丈夫?」
「そうなんだけど、結局着替えもないし、家に一度帰らないとだから、午前中有給使って休むよ!こんなのもったいないもん!あ、でもあきとさんは?」
「俺は明日16:00くらいからだから全然大丈夫。じゃあ、言葉に甘えて飲むか!」
「うん!メニューはどこかなーー・・・あった!うーーん、シャンパンにする?」
「れいちゃん、シャンパン好き?」
「うーーん、好きだよ!」
「そうか、なら任せるよ!」
そう言って、シャンパンを頼んだ。
シャンパンがくる間、
私たちはずーーーっと東京タワーを見て、特に何も話さなかった。
間も無くして、シャンパンが届き、グラスに注ぐ。
「「乾杯」」
せっかく窓際に”ここで座って景色を眺めてお酒でも飲んで!”
と言われているような椅子とテーブルを無視して、
窓際に寄り添って、立って乾杯を交わした。
「うん!シャンパン!だね。」
「シュワシュワ!って感じだね!」
「あきとさん、シャンパン好きなの?」
「れいちゃんは?」
「実は苦手。笑 美味しいーーー!ってならないけど、お祝い事とか特別な日によく飲むでしょう。なんか、食前酒みたいな感じ?笑」
「実は俺も。笑 なら頼むなよーーー!笑」
「え!?そうなの!?なら言ってよ!!じゃあ、次は普通にワインにしよう。笑」
「うん、ごめん。笑 れいちゃんがシャンパン好きなら、俺も一緒に飲み続けようと思ってたよ!!笑 でも、今日はある意味特別だから、シャンパンでもいんじゃない?いつもより美味しく感じる。」
「そう?笑 じゃあ、これがなくなったら、ワイン頼も!」
「そうだね。次のワインは俺の奢りで!」
「やめてよーー。ルームサービスは全て私!あ!チーズの盛り合わせとかも頼もー!なんか欲しいのある?」
「えーー。いいよ。俺が元は誘ったんだし。」
「そういうのなし!私は、今自分の意思できてるから!ほら、なんかない!?」
「んーー、ない。俺もチーズかな。」
そう言って、チーズを追加で頼む。
シャンパンを片手に、夜景を見つつも、あきとさんが気になる。
すると、目があって、あきとさんとの距離がいきなり近くなった。
「あきとさん・・。」
「れいちゃん、本当に会いたかった。」
「あきとさんは、今でも私が好きなの?本当に?」
「うん。本当に好き。忘れたことなんてないし、ずっと探してた。」
「私は、探してなかったけど・・あきとさんを忘れようと努力して、記憶を封印してた。でも。こうやってまた、現れた。これは、忘れなくていいこと?」
「忘れないで・・。頼むから、れいちゃんが俺をもう好きじゃないとしても、過去のことが許せなくても、今日俺が伝えたこと、今日のこと、忘れないで。忘れないで欲しい。」
「私は、今日のことが本当なら、忘れようとするのをやめたい」
「本当だよ。」
「もう黙っていなくならない?」
「いなくならない。」
「離れなきゃいけない時は、ちゃんと話してくれる?」
「離れなきゃいけないときがあるなら、話すよ。でももうないよ。」
「本当に?」
「本当に。」
「信じるのが怖いよ。」
「俺は確かに自分の事情でれいちゃんを裏切ったから、また信じてくれって言ったって説得力がないって思ってる。今度はれいちゃんが同じことをしてくれてもいい。俺が傷つく番だから。どんなにひどいこと言われても、されても、俺は償いと思って受け止める。」
「あきとさん・・・」
もう一回、瞬きをしたら、きっと涙が溢れ出す。
だから私は下を向いて、瞬きをした。
「れいちゃん・・・、本当にごめん」
その言葉と同時にあきとさんが、私を抱きしめてくれた。
もう、涙が止まらなくなって、
鼻を啜るたびに、あきとさんが抱きしめる強さが強くなった。
「あきとさん・・」
意を決して、顔を上げて、あきとさんを見つめる。
あきとさんの目にも涙が浮かんでいて、苦しそうに眉間にシワを寄せながら、優しく笑いながら答えた。
「ん?」
「あきとさん、私、好きだよ。大好きだよ。もう悲しい過去にしたくないよ・・・!」
涙ながらにあきとさんへ訴えて、私はあきとさんの胸へ顔を埋めた。
「れいちゃん、ごめんね。ごめん。本当にごめん。もう二度と傷つけない。好きだから。本当に好きだから。大好きだ。」
あきとさんが私を抱きよせる手が、今までで一番強くなった。
「・・苦しいよ。」
「あ、ごめん!大丈夫?」
「・・・そんなか弱くないけど・・・」
そう言って、私はあきとさんの唇にキスをした。
少し驚いた顔をして、あきとさんの舌が私の口内へ入ってきた。
「ん・・・」
苦しいけど、苦しくない。
この苦しさなら一生続いても良い。
そんなキスが続きーーーーーーーーーーー