真実とは?
「全然捕まらないですね。タクシー。」
「だね。さっき店で呼んでもらえばよかったね。まぁ、このあたりのこの時間ってこんなもんだよね。きっと。」
「だね。私、タクシー呼ぼうか?」
「いや、歩こう!」
「え?うん、はい・・。どこか目的地はあるの?」
「いや、ない。笑 なんか、久々に会うから、テキパキできない。ごめん。笑」
「あ、いや。こちらこそ。」
「れいちゃん、大人になったね。って、当たり前だよね。」
「そりゃー、もう学生じゃないから。」
「そっか。社会人やってるんだもんね。」
「そうだよ。社会に揉まれまくってる。笑」
「はは!俺も!笑」
そうこうして歩いているうちに、
某高級外資系ホテルの前まで来た。
「あきとさん、ここのバーかラウンジとかどうですか?」
「いいじゃん!そうしよう!ナイスアイディア!」
「実は、結構足が痛くて。笑 ごめんなさい。笑」
「いや、ごめん。むしろ気づかなくて。大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫!早く座ろう!」
日頃、オフィスではフラットシューズに履き替えて、
外ではヒールを履いている私は、あまりヒールで長時間歩くことに慣れていなく・・、
お酒も入っているせいかむくんでいて、足が限界だった。
お酒を飲むと、タクシー移動がほとんどだったので、きつかった。
あきとさんは、私の足を気遣ってか、歩くスピードを極端に落とした。
「え・・、いや、そんな遅く歩かなくて大丈夫だよ?笑」
「あ、マジ?ごめん、わからなくて。笑 靴擦れの時とかって地味に結構痛いから・・」
「ありがとう。笑」
そう言って、30分ほど前とは見違えるような空気感で、私達はラウンジへ向かった。
ラウンジは、最上階にあり、ラストオーダーまで2時間近くあった。
この距離ならば、タクシーでも気軽に帰れる、と私は心の中で安堵していた。
平日だからか、疎らにいる先客を横目に、高層ビル街を一望できる窓側の席に通された。
先客は、東京タワーが見える窓側の席に固まっていたせいか、こちら側にはほとんどお客さんがいなかった。
「れいちゃん、何飲む?」
「私は、、、あ。赤ワインで。」
「じゃあ、俺も。」
あきとさんが注文を済ませ、店員が立ち去る。
「本当はレモンサワーとかハイボール的なのが飲みたかったけど、こういうところで頼むのなんか恥ずかしいね。笑」
「まじ?実は俺も同じこと思ってた。笑 れいちゃんがおしゃれなカクテルとか頼んだら、俺何頼もうって、焦ってたよ内心。笑」
「やめてよ。一流でしょ、もう。」
笑いあった後に、長い沈黙が流れた。
外の景色を見るフリをして、自分に言い聞かせる。
ーーーー私は、あきとさんの話を聞きに来ただけ。だから私が話を振る必要はない。落ち着け自分。冷静に。
何も会話がないまま、ワインが運ばれてきた。
ボトルから注がれるワイン。
注がれる一点を見つめる、あきとさんと私。
店員さんの去り際に、あきとさんが「そのボトル、置いていってくれますか?ボトルで注文するので。」
「かしこまりました。」
そう言って、店員さんが立ち去り、
あきとさんとグラスを交わした。
「何に乾杯ですかね?」
「そりゃ、れいちゃんとの再会・・というか時間を作ってくれてありがとう、に。」
「「乾杯」」
一口ワインを口にして、あきとさんが話し始めた。
「まず、今日は本当に時間を作ってくれてありがとう。突然だったのに、本当にごめん。」
「あ、いや。うん。」
「そして、過去れいちゃんを傷つけたこと、まず謝らせて。ごめん。ごめんなさい。」
「もういいよ。」
「正直、今日会えて、本当に感動したというか、もうこれを逃したら終わるって思った。れいちゃんの中ではもう終わってるよって感じかもしれないんだけど、俺の中でまだ終わってなかったから。」
「うん。」
「どこから話していいか、もうわからないんだけど、時系列で話すと、れいちゃんと出会って、ちょうど付き合おう!ってなった頃に、メジャーデビューの話がきて。」
「うん。」
「バンドとしては、年齢的にも、これを逃すことはできなかった。でもその頃の俺は考えが甘くて、自分の感情で、れいちゃんと付き合ってしまって。もうその時は、完全に好きだったし、デビュー後も一緒にいたいって思ってた。」
「そうなんだ。」
「でも結局、その当時、れいちゃん高校生で、事務所とかからそれは、まずい。デビューして、その後も生き残りたいなら別れろって言われて。メンバーからも、今ならまだ傷は深くないって、だから別れろ。頼む。バンドのためにって言われて。」
「うん。」
「もう、分かったって言うしかなくて。でも、どうやって自分の中で区切りつければいいかわからなくて。事情を話して別れるのか、嘘ついて別れるのか、今日こそ言おうって思っても、なんか嫌で無理で、話す前に酒飲んで誤魔化して、れいちゃん怒れせたり…覚えてる?」
「覚えてるよ。」
「俺なりに色んなシーンを想定した。
事情を話して別れようとなったら、きっとれいちゃんは応援するだろう。でもそうすると、俺が引き止めてしまうかもしれない。嘘をついて別れようと思っても、れいちゃんが嘘を見抜くかもしれない、嘘に騙されたとしても、ヒステリックになったり、目の前で泣かれてしまったら、俺は嘘だよゴメンって結局真実を話してしまうかもしれない。そしたら、結局俺がまた引き止めちゃうって。」
ちょっと涙目になっているあきとさんの顔を見て、私は夜景に顔をそむけた。そして、必死に返答した。
「で?結局?」
「れいちゃんの顔を見て、別れを告げるのは無理だなって思って、黙って消えた。メールも電話も拒否設定みたいなのして、逃げた。」
「そうなんだ。そうだったんだ。」
「でも、やっぱり忘れられなくて、れいちゃんが行ってたキックボクシングのジムへ行ったり、れいちゃんとよく行った場所に行ったりして。どうしても、直接言いたくて。ごめんって。俺の勝手で傷つけて、振り回してごめんって言いたくて。」
「そんなことしてたの?」
「うん。結局、れいちゃんはもうジムを辞めてて、でもまた始めるかも、顔出すかもって思って、俺もジムに入って。」
「え!?そうなの?」
「うん。会えなかったけど。」
「通ってないもん。」
「俺は今でも通ってる。」
「そうなんだ。全然知らなかった。」
「俺、本当に話したくて。会いたくて。それから、ずっと女性と長く付き合うこととかもできなくて。それで・・」
「周りからゲイだって言われるようになった、ってことね」
「・・うん。」
「その話を聞いた上で、私からもいい?」
あきとさんの話を聞いて、私もこみ上げるものが合った。
言わないわけにはいかなかった。
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