彼の理性
「・・・知りたいって言ったらどうなるの?」
あきとさんは、私を抱きしめて、言った。
「でも、理性を保つ。どういうことかは教えない。」
「・・・なんで?私がガキだから?」
「ちがう。お互いに色んなものを失う。俺の理性が保って失わないのであれば、俺は保ち続ける。」
「・・・大人だから?」
「そう。大人だから。・・・もう寝よっか。」
「一緒のベットでは寝ていいの?」
「そうしたいなら、いいよ。」
ベットへ移ると、
あきとさんは、決して私を正面で抱きしめるのではなく、
後ろから抱きしめた。力強く。私が振り向むのを拒むように。
私には、彼が必死で我慢している、というのが、
私の背骨あたりに当たる彼の硬いもので分かった。
「あきとさん?」
「なに?」
「私と会うのは辛い?」
「ごめん、俺があんなこと言ったから?」
「ううん。なんとなく。」
「辛いより、こうしている幸せが勝つよ。今の所。笑」
「なにそれー!どういうこと?笑」
「めっちゃ太って、性格も悪くなって、俺を頼ることも、俺に笑顔を見せることもなくなったら、辛いが勝って会うのが怖くなるかも。笑」
「じゃー、やっぱりジムは続けて、次の高校生活は充実させないとね。」
「そういうこと。俺を守ってやる!くらいの気持ちでいて。笑」
「女々しい〜〜!笑」
そのあと、あきとさんは、バンドメンバーの話、最近美味しかったもの、好きなお酒の話、子供の時の話、今日楽しかったことなど、
よく酔っているのに、こんなに話せるなーと思うくらい、いろいろ話して、気づいたら2人とも寝落ちしてしまっていた。
ーーー翌朝8:00。
私が先に目覚め、そっとベッドを出る。
昨日あきとさんが落としたグラスをテーブルへ戻し、洗う。
歯を磨いている時に、あきとさんも起きてきた。
「俺も磨く。」
そう言って、私の後ろに仁王出しをして、鏡越しに笑い合った。
朝食が運び込まれ、
「やっぱ、納豆ってうまいよね。また歯磨かなきゃだけど。笑」
「私も納豆大好き!日本人でよかったーと思う瞬間!笑」
「わかる、わかる!!」
気まずくなることもなく、帰り支度をして、チェックアウトへ向かった。
ーーやば!!私、3万しかないじゃん!!!!
そう気付いた時には遅くて、あきとさんが全て払っていた。
領収書をチラッと覗くと、85,000円。
「あきとさん!!!!今、とりあえず3万でいいですか!コンビニで下ろします!!!!」
「ばかなの?笑 受け取りません!次回ランチご馳走してくれる?」
「いや、でもネックレスも買ってもらったし、さすがにダメです!」
「いーの!それ以上言うと、もう二度と来ないよ!笑」
「・・・すみません。ありがとうございます。本当に楽しかった。」
「俺も!余韻に浸るのは車にしよう。笑」
「そーだね。笑」
それから車に乗って、東京へ向かった。
車内では、楽しい話ばかりで、あきとさんの酔った時の頬の赤らみが可愛かった、とか、いつ寝落ちしたか覚えてないとか、朝ごはん・夕ご飯が美味しかったとか、2人で昨日を振り返った。
お風呂と、キスの話以外は。
気づけば、私の最寄駅付近で、もう終わりか。と肩を落とした。
「着いたよ。」
「うん、ありがとう。」
「これでお別れとかじゃないんだから、そんなテンション下がらないでよ。笑」
「下がってないよ!!余韻!!!笑」
「失礼しました。笑 夜仕事だから、明日連絡してもいい?」
「うん、もちろん!本当にありがとう!楽しかった!」
「こちらこそ。ちゃんと家に着いたら一報入れてね!」
「はーい!」
「じゃあ、また!」
「うん!またね!」
私は去っていく、あきとさんの車を見えなくなるまで見つめ、
家へ帰宅した。
自分に昨日起こったことが現実なのか、頭も足元もふわふわしている感じがした。
翌日。
約束通り、あきとさんから連絡が入り、
「もしもし?今大丈夫?」
「うん、大丈夫。」
「明日、一緒にお昼ご飯食べない?」
「うん!いいよ!」
「じゃ、明日。13:00頃に渋谷の方まで来れる?」
「大丈夫。着いたら電話するね。」
「はーい。楽しみにしてる。」
「うん。じゃあ、明日。」
そんな調子で、3日に1回は彼と会う日が続いた。
本当にお昼ご飯だけ食べる時もあれば、
お買い物に行ったり、映画を見たり、娯楽施設へ行ったり。
色んなことをした。
そして、あっという間に夏休みが終わり、私は新しい学校での生活を迎え、クラスメイトにもあっという間に馴染め、友達もでき、文化祭という大行事に向けて、楽しい日々が続いていた。
学校が始まってからは、なかなかお互いの時間が合わず、
会うのは週に1回程度になっていた。
文化祭まで、あと5日。
夜まで学校に残り、クラスメイトと準備を進めていると、
あきとさんから電話があった。
「ーもしもし?」
「れいちゃん?今大丈夫?」
「うん、平気。」
「明後日、会いたい。」
「え?明後日?今、文化祭の準備で毎日夜まで学校にいてね。文化祭終わってからじゃダメかな?日曜日か、来週とか。」
「そっか。文化祭って今週か。明後日以降、また地方行っちゃうんだよね。そしたら、来週でいいよ。ごめんね。」
「うん、ごめん。来週だったら、振替休日と祝日で結構暇だから、誘って。」
「わかった。頑張れよ、文化祭。ぶちかませー!笑」
「うん!初めての文化祭だもん!頑張る!じゃあ、まだ学校だから切るね。」
「はいよ!また来週」
ーーいつもの電話とは違った。
ーー「会いたい」そう言ってくることは今までなかった。
でも当時の私は、そんなことをプラスに捉えて、
「会いたい」なんて、たまには素直なんだなー!!
なんて、浮かれていた。
きっと、この頃、彼の中での葛藤が始まっていた。
もし、この「明後日」に会っていたら。
変わっていたのかもしれない。
文化祭が終わり、あきとさんと会う日を迎えた。
珍しく、夕方から。
待ち合わせ場所に、彼はタクシーで来た。
「れーいちゃーんだ。」
ーー彼はベロベロに酔っ払っていた。
「あきとさん・・ベロベロじゃん。」
「ね。しょーがないよ。今日は、俺の家へ行くぞ!」
そういうと、またタクシーを停めて、あきとさんの自宅へ向かった。
ーー家に・・?なんで?ご飯食べるんじゃなかったの?
ーーどういうつもりなの?
この日、私とあきとさんは、大波乱を起こす。
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