前への歩き方。その4歩
新型コロナウィルスの影響で、先週末から東京都を中心に外出自粛要請があり、皆さんも不安な毎日を強いられていると思います。これから先どうなるのか、いつ収束するのか。敵が見えない中で、感染が一気に広がり、医療崩壊や社会混乱が生じる恐れがある今、一人一人の賢い判断と行動が求められています。
私が愛するラグビーもコロナの影響が深刻です。背番号「1」にちなんで毎月1,11,21日にアップを続けているこのエッセイですが、前回3月21日の2日後には日本ラグビー協会(JRFU)が、今シーズン(2019‐2020)のトップリーグ(TL)の開催リーグ中止を発表しました。学校に行けない子ども達を元気づけるためにもリーグ再開を望んでいましたが、チームからも試合による選手間の感染リスクがある中では、やむを得ない判断です。今は、日本全体でいかに感染を食い止めるかを耐える時期です。
そして、5月9日(日)に秩父宮ラグビー場で開催予定だったトップリーグ最終節「NTTコミュニケーションズvsNEC」「サントリーvsリコー」戦では、2017年から毎年スタジアム通りを封鎖して開催している「秩父宮みなとラグビーまつり2020」とコラボしようと準備していました。昨秋のラグビーワールドカップ日本大会(RWC)で体感した、心が躍るようなスタジアムの盛り上がりを、この試合で少しでも再現して、あの雰囲気を選手・ファンの皆さんと共有することを目指していたのです。そのために、今年もラグビーを応援していただける企業や団体にご協力をいただくべく動いていた中での開催断念は非常に残念で、申し訳ない気持ちでいっぱいです。今回チャレンジしようとした企画や熱意は、必ず次の機会が来た時に生かされるはずです。コロナが収束した後にしっかりと実現させていくことをここにお約束します。
そして、私が2010年に設立した「みなとラグビースクール(MRS)」も、RWCの盛り上がりで昨年10月から年末にかけて200人を超える体験希望者が殺到しましたが、3月の全ての活動が新型コロナウィルスの影響で中止となりました。4月からの再開に向けて、新たに入会した子ども達には真新しいスクールジャージーが届いているのにラグビーができない。本当にコロナウィルスが恨めしいという思いです。そして、さらに残念なお知らせで、港区の学校施設開放が4月12日(日)まで延長休止となったため、現在、MRS再開の目処が立っていません。ラグビーがやりたくてウズウズしていた子ども達や保護者の皆さんには申し訳ありませんが、もう少し我慢をお願いします。
さて、外出自粛というこの機会にMRSがどんな経緯で設立されたか思い返してみました。
幼児・小学生・中学生を対象にしたこのスクールが誕生したのは2010年。初代の理事長・校長に就任してから、現在も運営委員長という立場でここまで運営に携わってきました。設立10年目の今年、MRSの運営を振り返った時、当時、山手線内唯一のラグビースクールとして、港区にラグビースクールが誕生したのには必然がありました。
MRS誕生の第一歩は、2009年に港区とJRFUが連携協定を締結したこと、そして港区立青山小学校の校庭が人工芝化されたことです。同じ年に20歳以下のRWCと位置付けられる国際大会「JWC(ジュニア・ワールド・チャンピオンシップ)」が日本ラグビーの聖地・秩父宮ラグビー場を中心に開催されました。RWCを招致するためにも、秩父宮ラグビー場を擁する地元・港区として一緒に何かできないかという思いが、全国で唯一、過去に例のない自治体との連携協定を実現させたのです。そして、その成果として、オーストラリア代表選手たちがレガシープログラムで青山小学校を訪問した時に、当時の青山小学校の校長先生が選手達のホスピタリティに感銘を受け「青山小学校でラグビーができないか」という声があがり、当時から港区やJRFUともお付き合いがあった私のところに「パス」が回ってきたのです。
その時の私は母校・明治大学ラグビー部のヘッドコーチを退任したばかり。2008年度の全国大学ラグビー選手権大会出場を24年ぶりに逃し、OB・関係者からも厳しいお言葉をいただいていました。そんな状況だったので、心の中では「ラグビーは一区切り」という気持ちでしたが、予想外の強いお誘いから「校長」という大役をお引き受けしました。
スクールの立ち上げは、今までどっぷり浸かっていた「ザ・大学ラグビー」のオールド・ジャパニーズ・ラグビースタイルとは真逆の世界でした。ラグビーを全く知らない勤務先の先輩・後輩やホームグラウンドになる青山小学校の地域の皆さん、明治大学コーチ時代にお世話になった方々、明治大学・明大中野高校の教え子たちに設立準備をお願いして、皆さんが得意な役割や分野を持ち寄って、開校に向けた準備を前へ進めていきました。特にMRSの運営理念である『ラグビーを通じて、国際性豊かな地域社会の活動拠点となり、次代を担える健全な子供たちを育成する。』 というステートメントや、活動方針である(1)ラグビーを楽しむ。(2)どんな時もきまりを守る。(3)みんなの為に頑張る。(4)最後まであきらめない。は、ワーディングや順番まで、何度も話し合ってシンプルに、ただしっかりと想いを詰めて作った力作だと思っています。
そして、スクールの指導方針は「来週も来たい!」「早く日曜になってラグビーしたい!」と出来るだけシンプルにして、子ども達に、そう感じてもらえる様な時間を目指しました。週に1回。たかだか90分のセッションです。大人の考えや価値観を押し付けるのではなく、子ども達に次回も来たいと思ってもらえるような環境を、どう作っていくか。この考えはいまも変わりません。
2010年4月18日に第1回の体験会を行いスクールはスタートしたのですが、1年目の生徒は35人。それが2年目には100人に増え、ワールドカップイヤーの昨年度は370人以上の子ども達(幼児・小学生・中学生)がスクールに参加してくれました。また、2012年4月からはもっとラグビースキル(技術)とアジリティ(俊敏性)を学びたい、トップレベルの選手になりたいという子ども達のために「アカデミー」を開校。そして、2014年4月には15歳以上の人たちを対象とした「青山ラグビークラブ」を設立。
幼児からシニアまで、ラグビーをやってみたい・楽しみたいという方々を受け入れる全世代型のラグビー拠点が港区・青山に整備されました。
一方で、この先を考えていくことも、設立者としての大きな責任です。現在の運営体制は、アカデミーやクラブのプロコーチ、事務局のパートさんを除き、私も含めボランティア体制で運営されています。特にスクールは保護者の方々を中心にコーチやスタッフとして参画いただき、現場指導が成り立っているのが現状です。将来のことを考えると、ボランティアの皆さんのお力添えだけでは永続的な運営は難しいものです。多くの方々の意見をお聞きして、方向性をより明確にしていく必要がありますが、何よりも大事なことはMRSを未来につなげていくことです。
これからも港区でラグビーが根付いていくためには、しっかりと運営を軌道に乗せながら、将来的にはTLなどのチーム・企業に運営を託すのがベストかな。と考えています。いま日本ラグビー界は、2021年にTLに替わる新リーグ設立を目指しています。一時期唱えられていたプロリーグ構想は足踏み状態ですが、新リーグでもよりプロに近い運営が求められる中で、参画チームにラグビースクールのような普及活動が求められています。TLチームも、新リーグ参入に伴いスクールやアカデミーの設立が求められていますが、新たに作るのは容易ではありません。私たちのようなスクールが、チームの傘下にスライドするのは、チーム・スクールともメリットがあるのではないかと考えています。
MRSは2015年に「サントリー・サンゴリアス」と連携協定を締結しています。このようなトップチームにスクールやアカデミーそのものをお任せできるのかの可能性について、メリット・デメリットをしっかりと見極めながら、MRSの未来を考えていきたいと思っています。
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