八幡平温泉郷 秘湯を訪ねて
八幡平温泉郷のまとめ
八幡平(はちまんたいと読みます)は、秋田県と岩手県の県境にまたがるアスピーテ型火山*です。
*溶岩がサラサラなため噴出した先から流れ出てしまい、結果としてなだらかな山容になったもの。富士山のように綺麗な円錐形になるのはコニーデ型と呼ばれ、溶岩はドロドロです。
秋田県側に玉川温泉、後生掛温泉、蒸ノ湯温泉、大深温泉、大沼温泉、岩手県側に藤七温泉があります。
どれも個性的で、良心的な価格設定、湯治場風情を残した温泉宿で、甲乙つけ難い温泉です。
日本全国で見てもトップレベルの温泉が集まっており、不便な場所ですが機会があれば是非行ってみて下さい。
行き方は、秋田新幹線の田沢湖駅からバスで向かいます。玉川温泉に行くバスはもう少し本数があるのですが、八幡平山頂行きは1日2往復と少なく、私は玉川温泉に長期で湯治し、休息日に訪問しました。
それぞれの温泉はどんななの?
それでは、各温泉の紹介に入りますよ。順番はあまり気にしないで下さい。
若干個人的な嗜好でかたよっているかもしれません。
玉川温泉
日本一の強酸性温泉として有名でPHはなんと1.1!! 酸性=すっぱいで比較するとレモンのPHは2.3、我々の食べた物を胃で溶かしてくれる胃液がPH1〜2ですから、こんなのに入って本当に大丈夫か?というレベルです。
他にも強い放射線を発する岩盤に寝転んで治療する岩盤浴発祥の地でもあります。ガンが治ると信じられており、全国から治らないと医者から言われた人が湯治に訪れます。
ここの温泉の源泉は大噴(おおぶけ)と呼ばれ、毎分9,000ℓという一ヶ所としては日本最大の噴出量! それが小川となって大量に流れていくのはまさに壮観です。
強すぎる酸と湯量により、江戸時代から玉川の毒水と忌み嫌われ、氾濫すると辺りの田畑が酸で荒れ果て不作になるほどでした。
政府はこの毒水を田沢湖に注ぎ入れ、田沢湖の大量の水で中性化することにしました。結果、毒水は収まりましたが、田沢湖の生物が死に絶えるという大惨事を引き起こしています。
田沢湖にしか生息しないクニマスが絶滅したのはこの時です。
すいません。好き過ぎて温泉の説明に入る前に字数を使いすぎました。玉川温泉の湯治についてはまた別のnoteにまとめます。
後生掛温泉(ごしょうがけ)
ここも古くから湯治場として有名で、また日本版サウナともいえる“箱蒸し風呂”も有名です。
“馬で来て 足駄で帰る 後生掛” の句があるように、自分で歩けず馬に乗って来た人が、ひとたび温泉に入ると歩いて帰って行けるほどに治る温泉と言われてました。治癒力ばつぐんですね。
他にも温泉の熱を利用したオンドル部屋も有名です。公式サイトを見たら改装されすごく綺麗で小洒落ているので驚きました。
私が見た時はもっと生活感溢れる“ザ湯治場” という雰囲気でしたから。
温泉はいくつか種類があり、売りは泥湯です。後で出てくる藤七温泉ほどではないですが、浴槽のそこに溜まっている泥をすくってパックします。
私は薄くなってきた頭頂部に泥を塗りました。効果は分かりません。
後生掛まで来たら、風呂のあとで是非とも後生掛自然研究路も回ってみて下さい。貴重な自然現象が観察できます。おなめ、もとめの悲しい物語もあります。私は不幸話は好きではないのでここには書きません。
蒸ノ湯(ふけのゆ)
八幡平温泉郷では一番古い温泉と言われています(400年前に開発)。
つげ義春の漫画“オンドル小屋”の舞台としても有名。
付近に点在する露天風呂はワイルド感満載。昭和48年の土砂崩れで建物が壊されたあと、温泉だけ掘り返して復活させたのだろうかと想像します。
ここでは露天と言わず野天と呼んでおり、この温泉の野趣溢れる様をよく言い表していると思います。
今の建物は少し離れたところにあり、木造建築で古くからそこにあるような落ち着いた佇まいを見せています。
温泉は濁り具合と香りから典型的な硫黄泉と思いきや単純酸性泉で、濁りは泥の影響と思われます。その辺から湧き出ている温泉をそのまま注ぎ込んでいるため、お湯は新鮮そのもので、湯量も多い非常に贅沢な温泉です。
大深温泉(おおぶか)
この温泉のほったらかしぶりは最高です。
場所は蒸ノ湯に近く、十分歩ける距離なのでセットで行くのがお勧めで、キャンプをする人なら泊まるのも良いかもしれません。
なにしろ1泊2500円ですから。地面が温泉の熱源で温まったところに長屋を立てあり、そこでみなで雑魚寝するスタイルです。布団などはありません。
私が行った時は、まるでそこに住んでいるかのような生活感を漂わせた男女2人組がいました。小川の水でビールを冷やし、小屋の横に紐を張って洗濯物を干しています。
正直羨ましかったです。泊まって仲間に入れてもらいたいと思いました。
温泉も最高ですよ。近くに源泉が湧き出ているところがあり、ちょっと引っ張ってきただけなので、新鮮そのものです。
大沼温泉
すいません。ここは行っていないです。
バスで横を通る時に車窓から建物の様子を眺めるだけですが、見た目はロッジ風で新しいです。
藤七温泉
唯一の岩手県側にある温泉です。
盛岡からバスで行けば温泉の目の前にバス停があるのですが、秋田県側からだと、終点の八幡平山頂から歩かないと行けません。
十分歩ける距離です。行きは下りで帰りが登りになるので、帰りはちょっと辛いかも。
藤七温泉は標高1400mにあり(東北の温泉では最高地点)、周りに何もないため景色は最高です。
温泉は泥状の温泉が湧き出ているところを囲って浴槽にしているだけなので、いわゆる生まれ出たばかりの空気に触れていない温泉を楽しめる、非常に贅沢な足元湧出温泉です。
ここは混浴ですが湯浴みを着たりバスタオルを巻いて入って良いですし、泥に浸かれば何も見えませんので、女性の方も是非ご堪能下さいね。
浴槽も建物も、ご主人が毎日手作業でメンテしている様子で手作り感があり、それがこの温泉の秘湯感、ひなびた感、ワイルド感を増幅させています。
蒸ノ湯の野天よりもワイルド感は増しており、ライダー達がひっきりなしに立ち寄ってくるのもわかります。
浴槽は多数あり、順番に浸かっていくと、場所により温度が異なるようで、だんだんと自分好みの場所が決まってきます。
ただ、相手は自然ですから、突然熱すぎる湯がポッコリとお尻の下から湧き出し、飛び上がるという目にもあいます。洗面器を持参し、それをふせて底に敷き、椅子のようにしている慣れた方もいらっしゃいました。
私は泥湯に浸かりながら、いつしか湧き出る温泉が作り出す無数のあぶくがうごめく様子に見入っていました。
あるあぶくはとても巨大になったかと思うとすぐに破れてしまい、あるあぶくは小さいながらも上手く横に流れながら破れず漂い続けている。
神々が人間を戯れに眺めれば、こんな風に見えているのかもしれない。
あぶくたちが無限に生まれ出ては押し合いへし合いしながらその短い生を終えるように、我々の人生は儚くまたどんな成功や失敗も所詮はあぶくが生まれて消えるサイクルのごく僅かな差に過ぎないのではないか。