新型コロナ対策の国境措置は「CIQ」のうちのどの対応なの?

前回の記事の続き。今回は技術的な話です。

国境措置でよく言われる「CIQ」という言葉。「C」は税関(Customs)、「I」は出入国管理(Immigration)、「Q」は検疫(Quarantine)のことで、それぞれ管轄する省庁が違う。

例えば日本人が日本に入国(帰国)する場合、自国に戻るのだから、基本的に入国が許可されないことはない。これは「I」の部分。ところが現在は「Q」の部分で帰国にも制限をかけている。日本への入国制限を説明する政府のHPも、その多くは「Q」を担当する厚生労働省のHP内にある。

通常時に外国から日本に帰国する場合、まずサーモグラフィーカメラで体温を測る場所がある。通常はは素通りするので、その存在すら気付いていない人も多いだろう。ここが「Q」。その後入国審査をしてパスポートにスタンプが押される。これが「I」。その後預けていた荷物を受け取って荷物チェックを受ける。ここが「C」になる。

現在日本に帰国する場合は、「Q」の検査を厳重に行っている。そこを抜けると「I」「C」になるが、この2つは通常通り。むしろ今は入国者が少ないから、通常より早く通過できる。私はコロナ体制になって2回入国しているが、そんな印象だった。


○アメリカ入国時の審査

では海外では日本人の入国を制限するのに、どの部分で制限しているのだろうか。

まずはアメリカから。

アメリカは現在、日本人の入国は出発日の3日以内にPCR検査を受けて陰性である、という証明書を提示することを条件にしている。入国後の待機は必要でないが、これは国ではなく州による決まりに拠る。

私は5月にアメリカに入国したので、その時の経験をもとにして現況を説明する。

まずアメリカ入国には、ESTAという制度にインターネットで申請し、それが許可されたらビザが不要で、許可されないとビザを申請する必要がある。この部分は「I」による規制だ。

そしてESTAの申請にはコロナ関連の証明書提出は求められていない。私は通常通りESTAが承認されたので、「I」による規制では陰性証明書は関係ない、ということだ。

私はJALの羽田−ダラス便でアメリカに入国した。この便を利用する際に後述する「VeriFLY」というアプリを利用した。このアプリでは事前に取得した陰性証明書を携帯のカメラで撮影したものをアップし、その証明書が有効だと認証されたら、搭乗手続きがスムーズに行く。

アメリカ入国時には、陰性証明書の提示を求められることはなかった。入国審査も通常通り。これは、日本人のアメリカ入国に対する制限は「Q」によって行われていて、「I」による入国審査では関係ない、ということを表している。

またアメリカは州によってコロナ規制が違う。州をまたいだ移動は国内旅行であっても規制対象になる。そのため、国内線であっても空港によっては「Q」による検査が行われている可能性はある。私が入国したダラスのあるテキサス州はコロナ規制が緩い所だったので、「Q」による特別な検査が行われていなかったと考えている。

結局、アメリカ入国に関するコロナ関係の書類チェックは、日本発の航空機搭乗時だけであった。


○EU入国時の審査

ヨーロッパの事例として、EU加盟国とは多少異なる「シェンゲン協定」加盟国での扱いを述べる。シェンゲン加盟国間での国境審査はなく、国内旅行と同じような感覚で旅行できる。またシェンゲン外の国、例えば日本からシェンゲン加盟の複数国を移動する場合は、最初に入国した国で入国審査を済ませ、移動後の国での入国審査はない。日本からフィンランドのヘルシンキ経由でパリに行く場合、ヘルシンキで入国審査を済ませれば、パリでは入国審査を受けなくてもいいのだ。

そのため、シェンゲン内での移動に対しては、到着地の空港で入国審査を受ける場所が用意されていない。ところがコロナ規制で国によって入国条件が変わっているので、何らかの検査を行う必要があるのだが、果たしてどうなっているのか疑問である。現実問題、「I」による審査をするには特設ブースを作ったりする必要があるので、「Q」の規制がメインなのではないかと思う。日本でも、入国審査(「I」)の前に「Q」の検査のための設備が作られている。

私は去年11月にフィンランド、スウェーデン、ポーランドに入国してきた。その時の経験をいえば、ヨーロッパの規制は「ザル」だと思える。

まずフィンランド入国。私はヘルシンキまで羽田からの国際線で行き、そこでフィンランドの国内線に乗り換えた。ヘルシンキで入国審査を受けるのだが、これはシェンゲン加盟国への入国と同じ場所。フィンランド国内線とシェンゲン内での乗り継ぎへの対応は、全く同じだった。

当時、日本からフィンランドへは、何の証明書も必要がなく、ほぼ無条件に入国できた。陰性証明書も不要だし、入国後の待機もなかった。シェンゲンへの入国審査時(「I」の審査)にPCR検査をやっている空港内の場所の案内図を渡されただけで(日本人は検査不要なのだが)、特にフィンランド入国に際しての検査はなく、何もせずに国内線に乗り継げ、到着空港(ロバニエミ)では、それこそ普通の国内線到着と同じで、何の検査もなかった。

フィンランドからスウェーデンへは陸上で歩いて国境を越えた。ここはノーチェック。誰にも会っていない。

スウェーデンからドイツ・フランクフルト経由でポーランドのワルシャワへ向かったが、フランクフルトでは何もなし。ワルシャワ入国時には、せめて「Q」のチェック位はあるのかと思えば、なかった。やはりアメリカ入国時と同じで、航空会社が搭乗前にチェックするだけで済ませているようだ。

ちなみに、ワルシャワからはソウル仁川経由で福岡に向かい、帰国した。ソウルでは乗り継ぎだけで入国しないので検査は不要なのだが、降機後一律に「Q」のチェックを受けてから、乗り継ぎの荷物検査に向かう、という手順だった。韓国は乗り継ぎだけだと何の検査も証明書も要らないので、検査時に「乗り継ぎです」と言い乗り継ぎ便を伝えれば、それだけで通れた。

この経験からすると、シェンゲン加盟国では、「Q」による規制が中心なのではないか、と思う。


○航空会社の証明書はどこまで有効か?

上述した通り、私はJALで日本からアメリカに入国する際は「VeriFLY」というアプリを使った。JALでは目的地によって、3つのアプリを使い分けている。

JAL、デジタル証明書アプリ「コモンパス」「VeriFLY」「IATAトラベルパス」との実証実験などの取り組みを開始

この3種類のシステムは、航空会社連合などの民間企業が主体になって開発していて、現状では飛行機出発地におけるチェックイン時の手間を省く、という意味合いが強い。

現在国際線の路線では、チェックイン時に旅客が目的地国の入国条件を満たしているのかを、窓口で係員が確認している。ウェッブチェックイン機能を使えなくしている航空会社も多い。

私が昨年11月にヨーロッパに行った時は、羽田空港でチェックイン時に、日本人がフィンランドに入国する条件を係員が調べるのに時間がかかった。ヘルシンキ行きの航空便であってもフィンランドに入国せず他国へ乗り継ぐ旅客が中心であるため、係員が日本人なら何も要らないことを知らないのも不思議ではない。

またスウェーデンのストックホルム空港でワルシャワ行きの便にチェックインする時も、係員が条件を調べるのに時間がかかった。私が「日本人なら何も要りませんよ」と言っても、「毎日変わるから調べないといけないのよ」という返事だった。

これがアプリを利用すれば、事前に条件を満たしているのかを確認することができる。5月にアメリカに行った時は、「VeriFLY」で緑色の○が出ている画面を見せるだけで、すぐチェックインできた。

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(https://go.daon.com/ja/veriflyapp より引用)

そして、このアプリの証明が実質的に入国時の審査を兼ねていることになるのは、上記の私の経験から言えることである。

但し、こうした民間機関のアプリを入国時の審査に代用できるのは「Q」条件だけだろう。「I」条件の審査はより厳密で、たとえばビザの発給要件にワクチン接種証明などが入っていれば、入国時に入国審査官が証明書を目視するか、居住国政府発行の「コロナ安全証明(ワクチンパスポート)」が必要だと各国政府は考えるのではないかと思う。これはあくまで私の個人的見解である。

そのため、こういう民間の認証制度は統一された方が便利だとは思うが、それとは別の政府による「安全証明」は必要で、できればEU基準に準拠したものを日本政府に早期に作って頂きたいと思う。


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