最長片道切符で行く迂路迂路西遊記 第4日目
前回のお話は以下URLから。
4. 第4日目 (2007年7月13日)
(苫小牧ー)沼ノ端ー苗穂ー小樽ーニセコー長万部
4.1 千歳線へ
前夜の雨も上がって、苫小牧は薄曇りの朝を迎えた。名物の駅弁、ほっきめしを朝食代わりにしようと思っていたが、まだ売られていなかったので、札幌で朝食を取ることとした。窓口で札幌行きの特急すずらん1号の指定を取って、ホームへ急いだ。
苫小牧から札幌方面へ向かう優等列車は、主に函館とを結ぶ特急スーパー北斗号、および特急北斗号が挙げられるが、その隙間を埋めるように室蘭地区と札幌とを結ぶ特急すずらん号も挙げられる。特に、函館からの始発スーパー北斗1号でも苫小牧を出るのが9時35分だから早朝、通勤時間帯の優等列車はない。そこで札幌圏の短距離輸送を目的に設定されているのがこの特急すずらん号と言っていいだろう。すずらん号は、早朝に2本、昼間に1本、夕方に2本の計5往復が運行されている。そのいずれもが781系電車で運行されているが、こちらも2007年10月の改正で引退し、愛称名は残るものの、785系での運行が決まっている。その乗り納めも兼ねて、今朝は7時43分発のすずらん1号に乗ることとした。
特急すずらん号の指定席は、ライラックのそれとは異なって、uシートではない。指定席も自由席も座席の形状は同じであった。しかし、確実に着席して通勤したいというニーズは高く、指定席は苫小牧を出た時点で、既に満席に近い状態であった。
沼ノ端から千歳線に入ると同時に、最長片道切符の経路へと戻った。千歳線は、つい先日にトワイライトエクスプレスで朝食を取りながら通ったところである。そこを再び同じ方向へ走っているという不思議さを感じながら、車窓を眺める。千歳で街らしい眺めを見ると、次は新札幌に近づくまで街らしい様子は印象に残らなかった。まだ通勤・通学のまっただ中である新札幌へ降り立った。
4.2 新札幌
新札幌駅は、寝台特急を除いては、ほぼすべての列車が停車する駅である。優等列車だけを挙げても、特急スーパー北斗、北斗、すずらん、スーパーおおぞら、スーパーとかち、とかち、まりも、急行はまなすなど多様だ。そんな優等列車が停車するような駅だが、その構造は2面の相対式ホームがあるという至ってシンプルなもので、よもや道内を代表する特急列車が停車するなどとは思いもしないだろう。しかし、特急が停車するということは、それなりに利用があるからであって、駅の周りはマンションや商業地なども多い。地下鉄との乗換駅でもあるから、人が集まってくる状況は作られているのである。
僕は、改札を出て、窓口で硬券の入場券などを購入し、再びホームへと向かった。8時36分発の普通札幌行きは721系電車で、デッキは学生の姿が多く、混雑をしている。一方、ドアを開けて客室内へ入ると、意外にも空いていた。721系電車は近郊形で、関東でいえばE217系やE231系、関西で言えば221系や223系に相当する位置づけであるが、北海道という地理的条件のもとで運行されるので、関東や関西のそれとは異なって、乗降口は特急用車両のように客室とは間仕切りがされている。すなわち、冬期間、寒さが客室内へ及ばないように、デッキと客室を仕切っているのである。しかし、これが乗客を客室奥へ進ませず、デッキに集中するような環境を作ってしまっていると言っても良かった。客室内は満席であるから、いずれにしても立席でなければならず、それならばつり革に捕まっているよりも、デッキの壁にもたれ掛かっていた方が楽だというわけである。
僕は大荷物を持っていたので、デッキでは邪魔になるから早々に客室奥へと進んだ。僅かに11分の乗車であった。苗穂で降りるとき、再びデッキを通ったが、客室内に比して密度は高かった。よって、荷物を抱えて降りるのに難儀をしたのであった。
4.3 苗穂近くで撮り鉄
苗穂駅を出て左に進むと、線路沿いに道が延び、しばらく進むと地下道の階段が現れる。そこが今回の撮影地である。
通常、僕の旅のスタイルは、列車に乗ってどこかへ行くことを楽しむので、列車を撮影するということは旅先ではせいぜい駅でのスナップ撮影くらいのものである。しかし、今回は少々高級なカメラを持参しているということもあり、また時間の余裕もあるから、撮影を楽しむことにした。私にとっては珍しいことである。
現場は、函館線が複々線になっているところで、札幌方面はもちろんのこと、旭川方面、千歳方面とも列車がひっきりなしにやってくるので面白い。普通電車こそ、731系、721系、711系と種類は少ないが、数は多いので練習には打って付けだ。また、特急列車もバラエティに富んでいて飽きさせない。こういう場所での撮影は好きである。数時間に1本のような閑散とした路線での撮影は、しないこともないが、あまり気が進まない。僕がここで最も撮影したいのは、寝台特急トワイライトエクスプレス号、寝台特急北斗星号の寝台列車であった。この時間は、トワイライトエクスプレス、北斗星1号と、僅かの時間の間に続けてやってくるのだ。
前述の通り、この辺りの函館本線は複々線で、上りも下りも外側の線路は旭川方面とを結ぶ列車が走り、内側は千歳線方面の列車が走る。従って、寝台列車はいずれも内側の線を走る。まずは、711系の旭川発手稲行きの2144M列車が外側の上り線にやってきた。その後も内側外側、上り下りと頻繁にやってくる。トワイライトエクスプレスが到着する時間になった。終着の札幌に到着するのが9時07分だから、その3分前の9時04分頃に苗穂駅を通過するはずである。しかし、9時10分を過ぎてもその姿は見せなかった。9時15分になって、内側線の向こうに青色のディーゼル機関車2両がヘッドライトを輝かせてやってくるのが見えた。しかし、後ろに連ねている客車は青色である。これは、トワイライトエクスプレスではなく、北斗星1号だと感じた。トワイライトエクスプレスを迎えることなく、後からやってくる北斗星1号が先に来た。どうやらトワイライトエクスプレスは遅れているようである。しかし、この北斗星もまた撮影対象だから、構わずにシャッターを切った。
友人にメールを入れてみた。近況報告とトワイライトエクスプレスの現在状況を確かめるためである。数分で返信があり、「湖西線の雨による運転規制の影響により・・・(中略)・・・札幌駅には40分遅れで到着する見込み」とのこと。現在も遅れが40分程度だとすると、現場を通過するのは9時45分頃となる。このくらいであれば、小樽での街歩きを中止にすればニセコでの温泉にも入れて何とか予定通りに長万部には行けるから、苗穂を10時04分発の手稲行き普通に乗る予定を立てて、しばらく撮影することにした。
果たして9時45分頃、内側線の向こうから青色のディーゼル機関車2両がヘッドライトを輝かせてやってくるのが見えた。小さいながらもピンク色したヘッドマークが映えて、それがトワイライトエクスプレスだと僕に認識させた。続いて、濃緑色の客車が見えた。直線区間を比較的ゆっくりとした速度でやってくる。つい先日に、私はあれに乗ってやってきたのだ。それを今度は迎える立場にいる。期待に胸を膨らませていたときのことを思い出しながら、シャッターを切った。目の前をディーゼルエンジンを轟かせながら終着駅に向かって通過する。
荷物をまとめて、苗穂駅へと急ぐ。改札を抜けて跨線橋を急いで渡り、ホームへ急いだ。時計の針は10時04分を差しているが、列車が入線する様子はない。程なく、アナウンスがあって4分ほど遅れているという。ふと、下り線のホームを見ると、その向こうにはJR北海道の苗穂工場があって、旧色の711系や新型のキハ261系などが留置されていた。工場や車庫は各地の車両が集まって賑やかだ。通常ではあり得ない顔合わせもあるだろう。それらを遠目に見ているうちに到着のアナウンスがあって、731系の手稲行きが到着した。朝のラッシュは既に終了して、車内の空間に余裕ができていた。
4.4 札幌にて
札幌駅は高架駅である。駅前もようやく最近になって再開発が完了し、100万都市である道都の玄関口に相応しい変貌を遂げた。
改札口を出て、土産を購入する。私は土産を購入するとき、この後列車の中で摘むものも一緒に購入する。丁度、お土産屋の入り口のところにバトンフロマージュという名のレアチーズケーキを売っていたので、それを一本購入した。
土産物を購入したら、次は札幌駅にある郵便局へと向かう。今買ったお土産や不要なものをすべて自宅へ送るためである。いつもなら土産は最終日に購入してそのまま持って帰るのだが、今回はそういうわけにもいかない。北海道のお土産は、今回は札幌で済ませておかねば時間が取れないのである。しかし、それらを持ってあちこちと迂路迂路するわけにもいかない。よって、土産を送ることにしたのであった。そのつもりでいたから、土産も日持ちのするものを選んだのである。
土産物を送って、後は駅ナカをぶらりとする。そのとき、ふと、バトンフロマージュがないことに気づいた。思わず「あっ」と声を発した。土産物と一緒に小包の中へ入れてしまったのだった。日持ちもしないし、勿体ないことをしたと後悔したが、先に立たずである。諦めることにした。しかし、札幌まで来て、旨そうなお菓子を目の前にして味わうことなしにしてはいられない。そこでもう一度、先ほどの土産屋でバトンフロマージュを購入した。そのついでに、札幌に来たときには必ず買う洋菓子、札幌タイムズスクエアも単品で購入しておいた。後におやつにしようと思う。
時計を見ると、11時12分である。小樽からの普通長万部行きに余裕を持って乗り継ぎたいので、11時14分発の快速エアポートに乗りたかったが、ホームへ上がった途端に出発していった。しかし、この後の区間快速いしかりライナーでも、小樽からの長万部行きには間に合う。小樽ではバタバタとするが、それもやむを得まい。1番線から11時25分発の小樽行きに乗車する。
車内は混雑をしていた。どういうわけだか、僕が小樽行きに乗車すると決まって座れない。今回も座れなかったので、やむなくデッキにて過ごすが、それが一向に座れないことに拍車を掛けているようである。すなわち、デッキにいるから、席が空いてもそれに気がつかず、乗車してきた他の乗客が座ることになって、結局座れないのである。しかし、小樽行きで座るなら海の見える進行方向窓側が良いと決めている私は、銭函を過ぎるや否やデッキにて過ごすことを決意するのである。毎回、そういうパターンで座る機会を失している。
薄曇りの中を列車は快走する。日本海を見ながら行くこの区間の眺めは最高である。徐々に小樽の街並みも対岸に見えてくる。海岸沿いに走る区間は列車が蛇のようにくねって面白いが、中から見ると、せいぜいカーブの時に先頭の車両がチラリと見えるくらいである。それでも車内から自身の乗っている車両の外観を見るわけであるから、それはそれで面白い。子供の頃は、それが好きで窓ガラスに顔をひっつけていたのを思い出す。
小樽の街並みは、レトロという言葉が似合うと思う。それは、何も旧日銀の建物や運河沿いの倉庫群を指して言うのではない。小樽駅が近づくにつれ、窓外に見られる人家や商店の数々が身を寄せ合うかのようにして、下町の雰囲気を醸し出しているところをいうのである。いわゆる坂の下に広がる観光地を街歩きするのも良いが、坂の中途周辺に広がる生活臭が漂うようなところにこそ、街歩きの味わいというものが感じられるのだろうと思う。それだけに、次回は小樽の街歩きを是非ともしたいと強く思った。
12時07分、いしかりライナーは小樽に到着した。
4.5 小樽から山線を行く
小樽駅に降りて、地下階段を通って裕次郎ホームの愛称が付く4番線ホームへと向かった。既にキハ150形の普通長万部行きは2両編成で停車している。昨日、富良野線で乗ったのと同型車だが、帯の色が異なる。
鞄を席に置いて急いで改札口を出る。売店で目当ての駅弁、「海の輝き」を購入して、駅舎の撮影を済ませ、そして窓口で切符類の購入をする。そして、再び列車まで戻ってきた。慌ただしい。
12時20分、普通長万部行きはほとんど空席を埋めるようにして出発した。札幌でも食いっぱぐれた私は、ここに来てようやくきょう初めての食事となった。先ほど購入した「海の輝き」は、ご飯にウニとイクラが乗せられた駅弁でとても旨い。1,260円と駅弁としては些か高額だが、それもこの味ならばと納得をする。
塩谷を出ると、チラリと日本海が見える。小樽を出て長万部に至る間に海を見られるのはここくらいであり、海の見え方も俯瞰するので山と山の間に青い海が見え、景色も素晴らしい。
次に、札幌で購入したバトンフロマージュをおやつに食べる。チーズの風味が活きていて旨い。それだけに小包に同梱してしまったのを後悔する。
列車は再び山の中を走る。余市に停車した。当初の予定では、余市で下車した後、バスで積丹半島へ向かうことにしていた。積丹半島の先まで行って、バフンウニがてんこ盛りとなったウニ丼を食し、温泉に入って一泊しようという魂胆であった。しかし、この計画は、そもそも根室には行かないという前提であった。ところが、根室へ行くことにしたので諦めたのだった。これもまた、次回への課題となった。
その余市を見送って、列車は先へと進む。小樽では晴れて青空も見えていたが、再び曇ってきた。今はすっかり峠の小駅と化した小沢駅を過ぎると下りに入り、倶知安の市街地が窓外に映る。この天気だと、羊蹄山は見えまいと思っていたが、案の定、羊蹄山の姿は確認できなかった。倶知安では21分停車するので、外へ出てみた。
倶知安には、2年半前に訪れた。駅蕎麦を所望したら、てんぷら蕎麦を頼んだのに掻き揚げ蕎麦が出てきたので、一言申し上げたところ、「うちはこれでやってんだよ」とお叱りを頂戴したのを思い出した。今回は、改めてそれを確認する良い機会だったが、既に海の輝きを食べ、バトンフロマージュを食べ、さらに今夜は長万部でご馳走が待っているというから、腹を空かしておかねばならない。確認はまたの機会にすることとした。
列車は、駅に民宿施設を設ける比羅夫駅に立ち寄り、そしてニセコに到着した。
4.6 ニセコ
ニセコ駅で窓口に立ち寄り、特急券の発券などを頼んだ。こちらは簡易委託駅といって、JR北海道が直接に経営をするのではなく、別の会社、団体、個人などに切符の販売を委ねる形態を取る。社員を配置しなくて済む分、人件費が圧縮できるから、北海道に限らず、地方に行けばまま見られる形態だ。ここではみどりの窓口はないから、指定券などの発券はできないように思われるが、近隣の駅に電話連絡をし、その内容を手書きの切符に記して発券する形態をとっている。
僕は、それらを頼んだ。窓口は、お姉さんが担当で、テキパキと慣れた手つきで発券作業をする。「アメリカ席で・・・」と言うから、思わず「お姉さんでも使うんですね、お年を召した方が使うのかと思ってました」と言うと、「いえいえ、みなさん使ってますよ」と笑顔で返してくれる。
「アメリカ席」というのは、座席番号のA席を意味する。電話口では聞き間違いもあるため、確実に伝言をするためにそういう言い方をするのである。特に、B席とD席は聞き間違いも多く、みどりの窓口で客と係員のやり取りでさえ聞き間違えることも目にする。ちなみに、B席は「ブリテン」あるいは「ボストン」、C席は「チャイナ」、D席は「デンマーク」というように表現している。僕は、それに倣って「アメリカ席」だとか「デンマーク席」だとか言ったりして、窓口の駅員さんをドン引きさせている。
結局、明日の長万部→森間の特急スーパー北斗6号の特急券、函館→八戸間の特急スーパー白鳥32号の特急券、八戸→盛岡間のはやて8号の特急券などを購入した。支払いを済ませて駅を出て、駅前にある日帰り入浴施設の綺羅の湯へ向かった。
駅近くの立ち寄り湯に行っては、そこのタオルを記念に買って帰るのが最近のマイブームとなっている。当然のように綺羅の湯でもタオルを購入した。
1時間半も浸かっていると、いい加減湯あたりを起こしそうになり、僕は風呂を出た。冷たい牛乳を喉を鳴らして飲むのが旨い。牛乳も大手メーカーのものだけでなく、地元の業者のものも置いてあるので、そちらを選んで飲む。一息ついて、ベンチに腰を掛けて涼む。身体が軽く、小腹も減ってきた。いつもなら迷わず買い食いをするのだが、きょうは特別なので我慢をする。
16時00分、綺羅の湯を出て、ニセコ駅へと戻った。ニセコ駅ではお姉さんがきょうの仕事の締めくくりにと、床を掃き掃除している。私はベンチにて腰を掛け、しばらく何も考えずにぼーっとしていた。こういうとき、本の一冊でもあれば良いのだが。
4.7 山線後半
16時56分、キハ40形の普通長万部行きに乗車した。昼間とは違って空席も目立つ。黒松内で行き違いのための停車をした。駅舎を覗くと、中富良野駅と同様に今年の春に窓口業務を終了した旨、張り紙が掲出されていた。駅が無人になると、寂しい感じがする。
車窓が薄暗くなって夕暮れが近づいたことを知らせる。左窓には室蘭本線の線路が近づいて合流する。かつては蒸気機関車も多く働いていただけあって、構内は今も猶、広大である。それでもその広さが似つかわしくなく、また寂しいと感じるのはそこに人の姿が見られないからであろう。人が集まり、活気を出している風景はそれだけで賑やかに感じる。しかし、人がいなくなれば、施設は充実しようともそこに寂しさしか感じない。
長万部駅を出て、北へ延びる路地を進み、函館本線と室蘭本線の線路を越える跨線橋を渡る。海風に晒された跨線橋は、所々に錆が目立ち、今にも倒れそうなくらいに朽ちていた。そこを恐る恐る大きな荷物を抱えて渡るが、そこから長万部駅を見渡すと、その寂しさがより伝わってくる。
今夜は、予約しておいたホテル四国屋に泊まる。跨線橋を降りて、すぐのところに並ぶ温泉街の一角にあった。受付を済ませて部屋に通される。昭和の香り残る古めかしい部屋である。しかし、ここの仲居さんらは気さくに話をしてくれる。ここには人がいるから賑やかだ。
ニセコで我慢した甲斐のある夕食である。毛ガニや刺身、天ぷらなど、近海で獲れたものを使っているという。味も良ければ、量もあって、北海道最後の夜に相応しいご馳走となった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?