M&Aアドバイザリーのビジネスモデルをゼロベースで考えてみる(その2)
(以下の記事の続きです)
ビジネスモデルの再検討
(その1)で、成功報酬という既存モデルを掘り下げて考えましたが、特に小規模以下の案件に関しては、もっとゼロベースで再検討してもいいんじゃないかと思っています。
最低報酬300万円の当社は、前述のようにそれくらい(売買価格6,000万円前後~数億円)がメインターゲットです。中には100万円というケースもあります。そのような場合、100万円の対価を得る売り手経営者(株主)に対しても、300万円をいただくのか?という不自然さは、誰でも感じると思います。
もちろん、売り手の対価はそれだけではなく、多くの場合借入金があり、さらに多くの場合は経営者保証もしているので、そこから解放されるという大きなメリットはあります。M&A報酬を決めるレーマン表は、例えば10億円以下は5%などという取り決めですが、その金額は単に株価を対象にしたものではなく、借入金などを含めた「移動資産」を対象としたものとするケースがあるのは、そのような理由です。売り手にとってのメリットは、株価だけではないのです。
買い手の場合も同様です。借入金がついてくるというのは、買い手にとってはマイナスですが、その会社の設備、在庫、現預金なども(株式譲渡の場合)すべてついてきます。直近数年間の業績から弾いた株価だけでなく、それらの資産も移動するわけです。中には、数千万かけても手に入らないような設備が、株価1円で手に入ることも現実にあります(それを狙った悪徳な買い手もたまにいるので注意が必要です)。もちろん、そのような会社は業績が低迷していて借入金も多いでしょうが、そのマイナス面と移動資産のプラス面の両方を考える必要があるということです。
ただ、それを含んで考えても、「これで300万もするのか」と思われるケースは、小規模案件だとどうしても出てきます。それでも、着手金+中間金+成功報酬という今の報酬体系だと、そうならざるを得ません。
もちろん、中~大規模な案件の場合は、動く金額も大きいので、アドバイザーへの手数料が高額でも飲み込めるでしょう。しかし、それ以下の案件、特に譲渡価格が数百~数千万くらいの案件の場合、M&A会社はビジネスモデルから再考してもいいのではないかと思います。
M&A報酬を安くすることはできるのか?
前述のように、譲渡金額5億円以下を小規模案件と勝手に定義していますが、今回は特に1億円以下くらいの規模を前提に話を進めていきます。
このような規模の場合、少しでも手数料が少ないM&A業者に依頼したいというケースは一定数出てきます。自分の手残り額に影響してくるので、それは仕方のないことです。
また、M&Aアドバイザーにそれくらい払うなら、売る意味がないので自分でやると思う人がいるのも、不自然ではありません。特に譲渡金額1,000万円以下くらいの案件だと、私はむしろできることは当事者(売り手/買い手)でやってみるべきだと思います。
では、ここでM&Aのフローを大まかに整理してみましょう。
ヒアリング
M&Aの理由、目的、希望時期などを確認する作業。案件化
企業の概要書(会社概要、事業の強み、弱み、財務情報、希望価格とその根拠などを買い手にわかりやすく伝える資料)を作成し、ターゲットを明確にする作業。
前回も書きましたが、着手金を取らない場合、まずこの概要書は決算書の貼り付けや社員名簿等のごく簡単なものになりがちです。案件の規模にもよりますが、ここは買い手に正確に価値が伝わるようにしっかり作りこんだほうが、いい交渉に繋がることは確かです。ソーシング
ソーシングとは、ターゲット企業を選定し、リスト化する作業を言います。実は、M&Aのプロセスにおいて、最も時間と手間のかかる部分がここです。ここだけを請け負う企業もあるくらいです。
今、問題視されている「相手がいるように見せかけるDMや電話」などは、このソーシングの作業です。具体的な相手もいないのにいるように見せかけるのは問題外の愚行で、詐欺行為とも言えますが、何とかして対象企業を見つけて成約しないと商売にならないという成功報酬制の弊害とも言えます。交渉
絞り込んだターゲットと個別交渉。合意・調査・契約手続き
特定のターゲットと基本的な合意を結び、独占交渉期間を設定したうえで企業調査(デューデリジェンス)、最終契約へと進むフェーズ。
案件にもよりますが、このようなプロセスを3~12か月程度かけて行い、さらに下記のようなリスクも抱えているのが、M&Aアドバイザーです。
専門家が抱えるリスク
通常のM&Aにおいては、上記のプロセスを専門家(アドバイザー)主導で行います。もちろん、主体は当事者企業なのですが、案件の進行を主導するのは専門家であるアドバイザーです。
仮に上記のように、特にソーシングにおいて専門家と協業するモデルの場合でも、それでも100万円を切るような報酬で請けるアドバイザーはほとんどいないと思います。
当社の場合は、最低料金は300万円(譲渡価格として6,000万円以下)と設定しています。その料金は業者によってまちまちで、2,000万円のところもあれば200万円のところもあります。前に書いたように、それはメインとしている領域を表していると考えていいでしょう。
場合によっては業者への手数料を払うと手残りがほとんどなくなってしまうようなケースもあるでしょう。しかし、そのようなケースは借入も相当額ある場合が多く、当然のように個人保証もつけているでしょうから、それが買い手に移動することを考えると、譲渡金額以上のメリットはあるはずです。繰り返しますが、株価だけでなく移動資産や負債も含めてトータルに考える必要があります。
さて、M&Aの専門業者は、それら一連のプロセスを主導的に行いますが、あくまでも「アドバイス」する立場であり、すべての決定権は当事者企業である買い手や売り手が持っています。当たり前ですよね。
しかし、専門家は相応のリスクを背負っています。昨今問題になっているような、悪意を持った買い手企業がいた場合、それを見抜けなかったとして仲介会社も実名で槍玉に上がっていることからも、それは理解できると思います。
もちろん、買い手の悪意を知りながら進めたのなら、情状酌量の余地はありません。しかし、そうではない場合、それでも損害賠償などのリスクを負う可能性はあります。最初から悪意を持っている会社を事前に見抜くのは、簡単なことではありません。
私の場合、少し業務内容等に違和感を覚えたときは、帝国データバンクなどの調査会社の担当者に連絡して調べてもらいます。調査データがある場合はそれを送ってもらい(もちろん有料です)、その上で所感を聞きます。結果、「関連会社の業務内容が怪しいので、止めた方がいい」とのアドバイスをもらったこともあります。
しかし、そのような調査手段には限りがあります。どこまでいっても、相手に事業実体があるか、言葉と行動に矛盾はないか、M&Aの方向性と今回の交渉内容は合致しているかなど、基本的な確認を怠らないことでしか、それを防ぐ手立てはありません。
M&Aの成約時に、各社それなりの報酬を設定しているのはその背景もあり、逆にそれが数十万の報酬だと「とてもやってられない」ことも事実です。報酬を安くするには、そのような手間やリスクを軽くして、なお当事者企業へのリスクを高めない、三方よしの方策が必要です。
矛盾の解決
事業の運営は、すべて「矛盾の解決」と言えるかもしれません。
モノを売る商売の場合、売り側はできるだけ高く売りたい。買う側はできるだけ安く買いたい。人を雇う場合、雇う側はできるだけ安く、雇われる側はできるだけ高く。基本的な方向性は相反するもので、そこの絶妙な「落とし所」を見つけるのが経営の妙味でもあります。
M&Aの場合、売り手と買い手の落とし所を探るのがアドバイザーの大きな役割でもありますが、同時にそれぞれの当事者から手数料という形で報酬を頂く以上、その矛盾の解決はM&A企業と当事者企業との間でも必要になります。
そこで、一つの策として「M&A顧問」としてM&A専門家を使うというのは、特に小規模な案件の場合は当事者にとってメリットが大きいと思っています。
M&A顧問とは?
顧問とは、通常のアドバイザーではなく、あくまでサポート役として当事者企業のM&Aを手助けする立場です。案件は当事者が主導して行いますが、その方法等は顧問が手引きをします。
そう書くと、通常のアドバイザーとの違いがわかりにくいかもしれません。以下、具体的に内容を示していきます。
契約内容
アドバイザー契約(業務委託契約)ではなく、顧問契約。対象案件
譲渡価格数百万~5千万円程度のスモール案件。対象事業者
上記の買収予算で小規模企業を買収したい買い手企業顧問料
月額10万円~50万円程度のフィーをいただき、トータルで通常のアドバイザー報酬(当社の場合、着手、中間、成功報酬最低額で合計370万円)を下回るように設定する(弁護士費用、DD費用等は別途)。期間
希望譲渡金額によってあらかじめ決める(6~12か月程度)。設定した期間内に成約した場合、その時点で終了する。期間内で終わらなかった場合、その後はスポットでアドバイスを行う。内容
顧問は、M&Aの一連の流れを伝えて、当事者企業の代表者が行うM&Aを顧問としてサポートする。同時に、専門家は独自のソーシングも行う。
こういう形であれば、売り手であっても買い手であってもメリットがあるんじゃないかと思います。特に買い手は、今後も発生する可能性が結構あるので、一連の流れを専門家の伴走付きで自分で行うのは、とてもメリットが大きいでしょう。
これができるのは、今は小規模案件はネット上のプラットフォームで相手を探せるからです。中規模以上の案件に関しては、このようなプラットフォームで探すよりも、リアルなネットワークの方が質的に確実だと思いますが、逆に小規模案件だとプラットフォームで探した方が効率がいい場合も多くあります。
そんなのは専門業者のスキルがなくても自分でできることです。ただし、見るべきポイントや交渉の流れなどは、横でアドバイスする専門家がいれば安心でしょう。もちろん、ネット上だけではなく、専門業者の独自のネットワークによるソーシングも行いますが、それは上記のように月額費用に含みます。
実際、中規模以上の買い手限定で、ソーシングだけを月額フィーで請け負っている(それ以外は買い手企業でやる)M&A会社もあります。そのサービスはかなり人気で、今は新規で受け付けられない状況のようです。
何かにつけて契約ありきで動くM&Aの場合、プロセスが進むごとに契約書が必要です。それを自社で作るのはハードルが高いですが、今は各種のテンプレートをネットでダウンロード可能です。あるいは、M&A専門家は各種の契約書の雛型を持っています。それを土台に、専門家のアドバイスを受けながら自社の条件に合わせて作成し、弁護士のチェックを入れる。ほとんどの小規模案件の場合は、それで対応できるはずです。
M&A顧問のメリット
これは当事者企業にとっても多くのメリットがあります。
価格
通常のアドバイザリーの最低報酬よりも安い価格(期間によっては半額程度)。柔軟性
M&Aアドバイザーと交わす業務委託契約ではなく、自社が主体で動くプロジェクトに対する「顧問契約」なので、期間などを柔軟に設定できる。再現性
特に継続的に買取をしたい買い手企業において、自社でM&Aの進め方やノウハウを身につけることができるので、次の案件に活かせる。リスク
自社が主体でやるのはリスクがあるのでは?と思われがちですが、そのための顧問です。進むプロセスごとに想定されるリスクと対処法をアドバイスいたします。
リスクに関してもう少し掘り下げると、通常の「アドバイザーとの業務委託契約」も、当然ながら事業主体は事業者の皆さまです。契約書には、アドバイザーはあくまでもアドバイスを行う立場であって、一連のプロセスにおいてすべて決定権は事業者にあると明記されているはずです。
にも関わらず、プロセスはすべて「お任せ」してしまうケースが多いのも事実です。専門性の高い分野ですし、お任せしないと自分ではわからないという気持ちはわかります。また、それだけの信頼関係があるのは、我々業者にとってもありがたい話です。しかし、そのため業者の都合のいいようにされてしまうリスクがあるのも確かです。実際にそのようなトラブル事例が連日聞こえてきます。
「M&A顧問」は、その意味では『取引に関するリスクを「顧問を雇う」ことで低減する。また専門業者に対するリスクを「業務委託契約しない」ことで低減する』ことが可能です。
繰り返しますが、あくまで小規模なケースを想定しています。少し前に売れた「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」という書籍がありましたが、だいたいそのような規模を想定した話です。
規模が小さなM&Aの場合、取引先、あるいは知人などが大雑把な約束事を決めてM&Aを行うことも実際にあります。しかし、そのような場合はやはりトラブルがつきものです。後になって「こんなの聞いてなかった」という事実が出てくるものです。
上述の「サラリーマンは・・・」の書籍を書いた方は、自分でM&Aを行うためのオンラインサロンを作っています。わからないことを「同志」に聞く場を設けているということです。しかし、主催者の方はともかく、「同志」はわずかに自分のM&A経験がある、あるいはこれからやろうとしている人たちであって、専門家ではありません。主催者の方も、たくさんの人を同時にケアすることはかなり無理があるでしょう(どれだけの参加人数がわかりませんが)。
オンラインサロンは非常に有効な学習の場ですし、主催者にとっては非常に効率のいいビジネスモデルでもありますが、現在サラリーマンの方ならともかく、会社の経営者で今後の成長のため、あるいは人材を確保するためのM&Aを模索している人の場合、そのように「同志と学習」をする時間的余裕があるでしょうか?
一対一で案件の成功に向けて並走するM&A顧問は、従来の業務委託制度によるFA(アドバイザー)制度や、オンラインサロンの両方の欠点を補うモデルです。当社では、小規模なM&Aに関しては、今後このモデルを増やしていこうと思っています。ピンときた方は、お気軽にお問い合わせください。