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経営者保証を外すための実践マニュアルpart2

第二章:経営者保証の外し方

「経営者保証のガイドライン」を理解する

第一章:「なぜ経営者保証が問題なのか」の続き)

今現在、経営者保証をしている人は、どのようにそれを外すことができるのか。以下丁寧に解説していきます。

国はこの経営者保証の問題点を理解しています。できれば外すように、金融機関に対して要請もしています。その際のガイドラインとして、中小企業庁が定めているのが【経営者保証に関するガイドライン】です。

既にある経営者保証を外す際には、このガイドラインを軸に自社の財務をチェックする必要があるので、ぜひ覚えておいてください。その骨子は、大きく次の3つです。 

  1. 法人と経営者が明確に区分・分離されている

  2. 財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である

  3. 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている

それぞれを詳しく説明します。

1. 法人と経営者が明確に区分・分離されている

骨子の一番目にくるのがこれです。前述しましたが、もうこの時点で経営者保証の矛盾がわかりますよね。そうです。これまで書いてきたように、健全な会社の指標として『法人と経営者の分離』、つまり公私混同しないことが求められているにも関わらず、一方で「経営者個人が会社の債務を連帯保証する」という公私混同を求めているのです。

では、ガイドラインの中で具体的に何が「公私混同」とされるのかというと、

  • 会社と経営者個人の長期に亘る貸し借り

  • 実態にそぐわない役員報酬

などです。

会社と個人の貸し借りについては、改めて説明するまでもないですよね。少額、あるいは短期の貸し借りであれば、さほど問題ではありません。急な資金ニーズに、経営者個人のお金をあてがうことは珍しいことではありませんし、その逆であっても短期で返していれば問題ありません。

しかし、それが多額、あるいは少額でも長期に亘ってそのまま放置されているような状況だと、公私混同と捉えられます。「自分のお金だと思っているのでは?」ということです。

あるいは、お金だけではなく、例えば社有車なんかもありがちですね。私自身も、以前は個人用の車を買い替える際の一定期間、会社の車を休日にプライベートで使っていた時期がありました。休日のガソリンは自費で入れて、ETCは個人のカードを使うなど、心ばかりの「分離」はしていましたが、あくまで車は会社のものです。プライベートで使うのは、はっきりと公私混同です。

車の場合は話が簡単ですが、問題はお金の貸し借りです。

もちろん、金銭の貸し借りは一切しないのがベストですし、財務的に問題がなければ誰もそんなことしないでしょう。しかし、突発的なニーズに社長個人のお金を入れたりすることは、珍しいことではありません。時には、処理に困るお金が出てきて、税理士に相談すると「とりあえず役員貸付で処理しますか」なんて言われたり。

私は、それも経験があります。承継した事業を個人事業から法人成りさせるときに、どうしても整合性の取れないお金が出てきて、一時的に私が会社に貸したことにしました(一年以内に全額清算しましたが)。
 
会社と個人間でお金の貸し借りをする場合、重要なのは会社と個人間で契約を交わすことです。金銭消費貸借契約書を作成し、毎月いくら、いつまでに完済するかを明文化してください。それに沿って実際に毎月返済をしていれば、「公私混同」とは言い難いと思います。
 
次に、実態にそぐわない役員報酬です。それほど儲かってないのに多額の役員報酬を出していたり、反対にかなり利益を上げているのに、ほとんど役員報酬を取ってなかったり。後者はいろんな理由が考えられるので、問題にはならないかもしれませんが、問題は前者です。
 
役員報酬は、株主総会で決定します。つまり、これまで述べてきた「資本(株主)と経営(経営者)が一体」のオーナー社長の場合、前者のケースが起こり得ます。会社は赤字で、従業員にボーナスも出せないけれど、社長はずっと多額の報酬。赤字のままでも新年度も同じ額。これは、法律違反ではありませんが、会社のお金を私物化していると解釈されてもおかしくはありません
 
これは明確な規定があるわけではありませんが、社会通念上、違和感のないレベルの金額であれば問題ありません。また、ちゃんと利益が出て、内部留保が積みあがっている状態であれば、数千万程度の役員報酬なんて、むしろ取るべきだと私は思います。

2.財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である

次に2番目の項目です。これに関する主な客観的指標は次の2つです。

  • 債務超過ではないこと

  • 返済条件の変更(リスケ)をしていないこと

 まず、債務超過ではないこと。これは非常に重要な要件です。そもそも、債務超過の会社だと、通常は新規の融資を受けることは難しい(コロナ融資のような特例は除く)でしょうから、その状態のまま保証を外すというのは、普通に考えて無理があります。すでに返済能力がないと判断されているからです。
 
債務超過とは、言うまでもなくBS(貸借対照表)上の純資産がマイナスになっている状態です。すべての資産を合わせても、負債が上回るということなので、仮に今すぐ会社を清算しても、マイナスが残る状態です。その状態で個人保証を外すのは金融機関的には受け入れられません。潰されたら、貸したお金が清算できないからです。
 
債務超過の会社は倒産秒読みのように思う人もいますが、必ずしもそうではありません。BS上の負債には、5~10年といった長期借入金も含まれており、必ずしもすぐに出て行くお金ではないということ。次に、現金や売掛金に対する固定費や買掛金のバランス次第では、会社は回っていくということが、その理由です。

つまり、会社が潰れるのはBS上の数字ではなく、キャッシュが回らなくなった時ということです。その意味では、決算書の財務三表と言われるPL(損益計算書)、BS(バランスシート=貸借対照表)、CS(キャッシュフロー計算書)のうち、CSが会社存続に直接関わる指標だと言えます。

しかし、そうは言っても、すべての資産と負債を合わせてマイナスになる状態で、銀行が動いてくれるはずがありません。債務超過の状態にある会社は、まずはここを改善する計画を立てましょう。
 
次の要件は、借入れ返済の条件変更(リスケ)をしていないこと

資金難の会社は、当初予定していた返済計画を変更し、元本の返済を減額、あるいはゼロにして、金利のみを一定期間返済する場合があります。これも、銀行評価的には当然かなりのマイナスです。

期間はケースバイケースで、半年や1年、その後は状況に応じて延長という感じですが、多くの場合、元(リスケ前)に戻らないことを銀行は知っています。元に戻らないとは、つまりリスケの状態が長く続き、状況が改善しないまま破産や民事再生などに至ると言うことです。
 
健全な財務指標として、『債務超過ではないこと(資産超過)』と『条件変更(リスケ)をしていないこと』を取り上げましたが、実はこれらの状態はまったく珍しいことではありません。中小企業庁のデータによると、中小企業の債務超過はコロナ前で31~37%。コロナ後は優に40%は超えている状況です。そして、コロナ後のリスケは50万社とも推定されています(なぜ推定値かと言うと、企業数ではなく借入れ本数での統計であるため、一社あたり平均の借入れ本数で割って推定値を出しています)。
 
もし、あなたの会社がこのような状況になっているのであれば、社長のあなたが真っ先に取り組むべきは、これらの解消です。それについてはテーマが異なるので、別の機会に改めます。とにかく、業績を改善させ、それを継続させるには「上りエスカレーター」に乗ることが必須なのです。

2-1.財務基盤強化の基準

さて、財務基盤の強化に関して、具体的にどの程度なら許容範囲なのか、基準を知りたいですよね。

経営者保証のガイドラインには、その明確な基準は載っていません(企業によって状況は千差万別なので、一概に規定するのは難しいでしょう)が、後述する「事業承継特別保証制度」などで書かれているのは、

EBITDA有利子負債倍率15倍以内

であることです(元々10倍だったのが、2022年に15倍に緩和されました)。

EBITDAというのはご存じの方も多いと思いますが、営業利益に減価償却費を足した数字で、実際の収益力(返済能力)を表しています。EBITDA有利子負債倍率というのは、有利子負債(BS上の短期、長期借入)の額が、EBITDAの15倍、つまり15年以内に返済可能な状態ということです。

一概に「これだと保証は外せる」という決まり手はなく、それぞれの事情を加味して総合的に判断されるものですが、あくまで一つの基準として覚えておいてください。

3.金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている

3番目の項目は、金融機関への対応です。ポイントは

  • 隠さずに自分から情報を開示すること

  • 改善計画を立てて実行すること

  • その結果を定期的に自分から開示すること

です。つまり、現状と改善計画、PDCAのプロセスを、自分から報告することです。
 
隠し事があったり、銀行に言われてから渋々書類を出すような態度だと、信頼は得られません。また、改善計画を立てても、現実がそれと著しく乖離してしまっていては、適当に作っているのかと思われても不思議ではありません。

失った信用を取り返すのは、恐らく何年もかかります。そうならないためにも、計画はあくまで現実ラインで、そして自分から100%を開示するようにしてください。
 
さて、これまで、経営者保証に関するガイドラインに記載されている項目について見てきましたが、明文化はされていないけれど、とても重要なポイントを少しお話します。

それは、銀行は超横並び主義である

ということです。

通常、一行だけで借り入れをしているところは少なくて、大体都銀、地銀、信金、公庫など、複数の金融機関から何本か借り入れを行っていると思います。そのうち、どこか一行が動くと、これまで動かせなかった他行も、驚くほどスムーズに追随してくるケースがあります。つまり、経営者保証を外す際は、片っ端から声をかけて前向きに検討してくれそうなところと集中して交渉します。

最初はどこも必ず渋ると思います。特にメインの銀行が動かない限りは、その他の銀行は動こうとしません。まして、銀行から保証を外すことを提案してくれるなどあり得ません。まずはこの制度を学び、理解して、自分から打診し、粘り強く交渉してください。

そのようにして、できるだけ与し易いところから突破していくことです。一行、経営者保証が外れたらしめたものです。あとは、その「実績」を持って、一度断られた他行とも、再度交渉をしていきます。

国による様々な施策

前述のように、国はこの経営者保証の問題を理解していて、可能な限りこれを外すように金融機関には呼びかけています。同時に、事業継承時の特別保証制度など、様々な制度を通じて経営者保証を外しやすくしています。

事業承継特別保証制度(信用保証協会の制度)

例えば、すでに数年前から始まっている「事業承継特別保証制度」。

事業承継特別保証制度とは、M&Aによる第三者承継だけでなく、親族内承継、社内承継などのハードルを下げるため、条件次第で前社長による経営者保証を引き継がなくてもいい制度です。
 
株式譲渡M&Aで会社を継承する際、これまでの借入れを引き継ぐ必要がありますが、同時に、設定されている経営者保証の書き換えも、前社長からは要求されます。そりゃそうですよね。株式を売却して、会社は他人の手に渡っても、借入れの保証だけは個人に残るとなると、怖くて仕方ありません。当然の要求です。

しかし、買い手にとっても、借り入れは引き継ぐけれど経営者保証はしたくない。そう思うのは、これまた当然です。個人保証の必要があるのなら、会社の継承はしない。そう考える人が多くいても不思議ではありません。
 
そこで国はこの『事業承継特別保証制度』という、事業承継の際は経営者保証を引き継がなくてもいいという制度を作っています。

この制度は、既往のプロパー融資(保証協会を通していない銀行単独の融資)について、例外的に信用保証協会への無保証の借り換えを認めるもので、その責任は保証協会80:銀行20の割合です。

これも、資産超過、リスケなし、法人と経営者の分離、また前述のEBITDA有利子負債倍率15倍以内という条件があることは変わりありません。何よりもまず、会社の財務をこのような状態に持っていくことが先決です。

経営者保証改革プログラム

この「経営者保証改革プログラム」は、2023年4月1日から施行されたもので、これにより経営者保証の必要性について、金融機関は企業に説明が必要とされています。

企業が上記のような財務状況ではなく、経営者保証が必要な場合、金融機関は、

  • どの部分が十分でないのか

  • どうすれば解除の可能性が高まるのか

これらを説明して、その件数を国に報告する義務があるのです。

信用に繋がる要因は共通している

銀行としては、だんだんと企業に経営者保証を求めにくくなっていることは確かですが、とはいえ、実態はまだまだ当たり前のように求められています。

これまで見てきた「経営者保証のガイドライン」も「事業承継特別保証制度」も、求められる内容はほぼ同じです。これまで何度も出てきていますが、骨子は以下の通りです。

  • 資産超過である(債務超過ではない)こと

  • 返済緩和(リスケ)中ではないこと

  • EBITDA有利子負債倍率が15倍以内であること

  • 法人と経営者の分離がなされていること

  • 適時適切な情報開示を行っていること

 つまり、会社の信用に繋がる内容は共通しているのです
  
これらの項目をクリアしている場合は、早速個人保証を外す交渉に入ってください。少し前までは、各都道府県にある事業承継・引継ぎ支援センター(私は大阪府のそれに加盟しています)の中に「経営者保証コーディネーター」がいましたが、現在はその制度が廃止されているため、中小企業活性化協議会に収益力改善の一環として相談するか、付き合いのある税理士や会計士などに相談してもいいかもしれません。もちろん、私も随時相談を受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。

会社がこれらの条件をクリアしていなければ、あなたの最優先課題はこれを改善することです。会社を健全な状態で運営するのは、経営者の義務です。健全であれば、経営者保証は外せます。その意味で、経営者保証の解除は、経営者として最も強く意識するべきことだと、私は考えています。 

たかがビジネス

あなたが100%株主(オーナー)であれば、会社はあなたのものです。しかし、あなたの人生は、あなただけのものではありません。結婚しているとか、子供がいるとか、そんな人はもちろんですが、そうじゃない人も、親、兄弟、親戚、友人はいるはずです。あなたの会社は、あなたが好きで始めたものかも知れませんが、経営者保証は多くの場合そんな周りの人たちも巻き込んでしまいます。
 
何よりも、あなたの自身の人生を大きく狂わせてしまう可能性があります。私はいつもクライアントに「たかがビジネスで人生を狂わせてはダメです」と、誤解を怖れずに伝えています。ビジネスは、所詮人間が作り出したゲームです。それはあくまで、人生を豊かにする手段であり、決して破壊するものではありません。
 
ここに書かれている内容をよく理解して、経営を改善し、ぜひ経営者保証を取り外してください。繰り返しますが、経営者保証を外すことは、あなたの人生に関わるほど、とてつもなく大切なことです。会社経営には、どんな波が襲ってくるかわかりません。そのための最大限の準備はしておくべきです

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