経営者が「M&A実務」を学ぶべき理由
どんな会社にも寿命があります。そして、どんな経営者にも寿命があります。
経営者は、それを見込んで会社もしくは自分の「終わり」をいつ、どのようにするのか、想定しておくべきです。その責任があると思います。
「死ぬまで仕事する」なんて言ってる経営者も多いですが、そんな気合に満ちている社長がいる会社ほど、後継者選びに苦労するものです。死ぬまで頑張る気概はいいことですが、死んだ後のことは準備しておかないと、社員が困ってしまいます。
そこで、経営者に強くお勧めするのが、M&Aの実務を学ぶことです。M&Aの専門家になるという話ではありません。あくまで自社の経営と、自分の後の会社存続のために、M&A実務を学ぶのです。
M&A実務を学ぶメリット
私は、スモールビジネスを経営しながらM&Aアドバイザー(FA)業務を行っていますが、つくづく、M&Aはすべての経営者が学ぶべきことだ感じています。様々なメリットがありますが、それを整理してみましょう。
1.自社のバリューを客観視できる
M&Aは、会社のバリューを客観視して、価格を付けていく作業から始まります。
価格の算定方法は様々ありますが、専門家になるわけではないので、そこは大雑把に理解しておけばOKです。M&Aは、売り手と買い手、需要と供給の接点を探る作業であり、ここでつける価格などはあくまで参考程度です。
自社にどんなバリューがあるのか。他社にない強みは何なのか。その強みは「価格」に転化できるものなのか。あるいは、自社を買いたい先はどんな会社なのか。
そんなことを徹底的に考える必要があります。普段の会社経営では、なかなかそこまでの視点は持てないですよね。M&Aならではの視点です。
2.バリューを高めるための視点を持てる
自社のバリューを客観視して、現時点でこれくらいの価格では売れそうだと大枠をつかんだら、それが自分にとって納得のいくものなのか、そうでないのか、今度は「主観」と照らし合わせていきます。
そうすると、よりバリューを上げるためには何が必要か。そんな視点が持てるようになります。もちろん、経営者である以上、それは普段から考えていることだと思いますが、客観的な評価を元にしていると、より広角に自社を捉えることができます。
3.M&Aで後継者を探す際に、専門家に頼らなくて済む
ここも大きなメリットです。M&Aは複雑な契約事項が多いので、多くの場合は専門家が間に入ります。私はそれをビジネスにしていますので、自分の首を絞めるような発言ではありますが、経営者がM&A実務を学ぶと、そこの活用は最小限で済みます。
M&Aは、ビジネス、会計、法務など、様々な専門性が要求されます。M&A実務の「流れ」をつかんでいると、要所要所でそれらの専門家に書類作成、確認業務を依頼するという省力化が可能になります。あるいは、通常のようにM&A専門家とFA(ファイナンシャルアドバイザー)契約しなくても、セカンドオピニオンの契約にすることもできます。
そのように、各専門家を「補助的に」使うことができるようになるのです。
私は、プロ経営者が一人でも多くなることが、日本経済を活性化させるには不可欠だと思っています。
自社を客観評価し「今ならバリューは〇億円。人員は増やさずに、ここをこうすれば、その1.5倍になる。この業種のこれくらいの規模の会社なら、買いたくなるはずだ」。そんな視点を持つプロ経営者になるためにも、やはりM&A実務を学ぶことはとても有効だと思っています。
上場企業は、もちろん自社のバリューを常に客観視してますよね。株価で表れるのだから、当然です。しかし、非上場の中小企業は、そんな視点はありません。
最低限、自社の評価に活かせるM&A実務は、経営者にとって広範囲に役立つスキルなのです。