サクラの革命成就後に裏で暗躍し始める者たち

太正102年の年明け。
日本にほど近い某国の首都。
砂漠から風に乗って運ばれる汚染された砂により、晴れの日でも靄がかかった様な街にあるホテルの一室に三人の男たちが居た。

「諸君。残念ながら帝都の、いや日本の混乱は治まった様だ」
頭が禿げ上がり、白く長い髭を生やした上座に座る老人が、秘書に資料を配らせつつ二人に告げる。
「こんな短期間に収束するとは想定外だぞ。今まで注ぎ込んだ金が台無しじゃないか」
情報を独自に掴んでいたのか、受け取った資料を見る事もせずにテーブルを強く叩いたのは老人と同じアジア系の男。
「ここで愚痴をこぼしていても仕方あるまい。とりあえず計画を中止して新しく出来る政府への対応も考慮せねば……」
資料に目を通し、大きく溜息を吐いて項垂れるのは大柄な白人の男。
各々が状況の悪化に苦慮していると、警護役が止めるのも構わず、陽気に鼻歌を歌いながら扉を開けて一人の男が入ってきた。

「おやおや、何やら皆さん頭を抱えているようですね。賭けでの私の一人勝ちがそんなに悔しいのですか?」
遅れてきた非礼を詫びる事もせず、先入りしていた面々を揶揄うのは、老人ともう一人とは似ている様で雰囲気の違うアジア系の糸目の男。
「お道化ている場合か!我々の日本分割統治計画が御破算になったのだぞ」
「帝都、北海道、沖縄への自国民保護を名目にした実戦部隊の派遣も間近だったと言うのに全てが無駄になった。冗談を言っている場合じゃない」
老人以外の二人が糸目男の態度に苛立ちを隠そうともせず、老人も二人を宥める事もしなかった。
だが糸目の男は空気を読まない性格なのか、怒る三人に構わず、指を鳴らして部下を呼び寄せた。
彼の部下はノートPCをプロジェクターと手早く接続して動画を再生し始める。

「しかし全ての仕掛けが無駄になったわけじゃないでしょ? 監視付ですが彼女と人形は保護されてるんだし」
再生している動画を一時停止させ、レーザーポインターで映し出された女を指し示し、彼の部下がPCを操作し、どこかの研究施設で分解されている人型の機械が撮影された画像を表示した。
「監視が付いてたら回収は困難じゃないか。それでは何の役にも立たない」
「そうだな。表向き、我々は部外者なので接触もできまい」
糸目男が監視付きと言った事に落胆して、老人以外の二人はプロジェクターの画像から目を離す。
だが、糸目男にとってはこうなる事も想定したのか、別の資料をスクリーンに表示した。
「ああ、それならご心配なく。既に私の方で手を打っていますので。では、お手元の資料2ページ目をご覧下さい。えー、この蜂須賀頼母議員ですが……」
糸目男が手元に持っていたファイルを全員に配布し、席に戻ってスクリーンに表示されている人物の詳細説明を始め様とした時に老人が手で制して話を止める。
「その男は我々の知らない者の様だが、新政府と何か関わりがあるのか? 仮にその者が新政府と関わりがあるとして、貴様といつ繋がりを持った?」
老人が糸目男を睨み付けて威圧すると、警護役の男たちが室内に入って銃を構える。
「そこはそれ、私は革命が成功すると思い、実は密かに彼と接触していたのですよ。この蜂須賀頼母議員は吉良政権時に党内の閑職に追いやられていましたが正義感がとても強く、吉良の独裁に国を憂い、憂う余りに我々と言う毒に助けを求めたと言うわけです」
しかし糸目男は臆する来なく、演じる様に身振り手振りを加えて説明を続ける。
「だが、その男が新政府の要職に就くとは限らんだろうに……」
大柄の白人男が憮然とした表情で指摘するが、糸目男は笑顔を崩す事は無かった。
「それもご心配なく。先ほど部下から報告があり、彼が臨時政府の法務大臣になる事が内定した様です。なので、彼を動かせば彼女と人形を回収できますよ。言う事を聞かない場合は彼の娘を攫って脅迫しちゃいますし」
指摘を受けてスクリーンに日本のニュースサイトの記事を表示して、説明の補足をし、非合法の対応についても言及した。
「これが確定ならば、計画を中止せずに継続は可能やもしれんな」
「うむ。だが大幅な見直しは必要になるがね」
老人以外の二人は糸目男の補足説明を聞いて利点を見出したのか一応の理解を示す。
「どうやら私の独断専行も見逃して頂けたようですし、計画も継続すると言う事で……」
糸目男は二人の反応を見て老人に視線を向けると、老人は手を挙げて銃を構えた警護役を退室させた。
そして下座に居る三人を見遣り、挙手による採決を行う。
結果は満場一致で可決となった。
「よかろう。計画の狂いも修正可能の範囲であると認めよう。では、諸君の今後の活躍に期待する」
方針が定まりリーダーの老人が席を立つと全員も起立し、部屋を出て行く彼に対して三人が礼をして話し合いは終了した。


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