サクラ革命二次創作妄想4 サクラ革命4周年…

此処が何処で何時の事なのかは分からないが、私の前で二人の少女が刀を構えて対峙している。
本来の職業が職業だけに剣の心得は多少あるものの、二人の間に割って入るのは無謀だと本能で分かる程に隙がない。
張り詰めた空気で胸が押し潰されそうになった時、少女たちが動き出した。
黒い服を着た少女が閃光の如き斬撃を連続的に繰り出せば、二刀を持つ袴の少女は左手に持つ刀で受け流すが、突如として黒い服の少女による鋭い突きが襲い掛かる。
袴の少女は身を低くして突きを躱し、その直後に得物を交差して構えたまま前へ跳びだした。
「討ち払います! 双天、桜華千輪! 成敗っ!」
黒い服の少女は腹を二刀で斬りつけられて……。

「はい、カットぉ!」
椅子に座った髭面の中年男が声をあげたと同時に「カン」と高く澄んだ音が響き渡り、張り詰めた空気が一瞬で霧散し、周囲に人の気配を感じる様になった。
「お疲れ様でした」
袴の少女は寸止めにした刀を鞘に戻して、笑顔で労いの言葉を口に出したのとは対照的に、黒い服の少女は顔に冷や汗を浮かべて自分の腹を摩り、遅れて袴の少女と同じく労いの言葉を伝えた。
「しのちゃん、プラナちゃん、いいアクションだったよ~。おかげで演技とは思えない戦闘場面が撮れたぞ」
髭面の中年男、首にかけたIDカードにはディレクターと書かれている彼が画面を確認して、片付けが始まっているスタジオ内のセットから離れた二人の少女に声を掛けた。
袴の少女は褒められた事が嬉しかったのか小躍りしているが、隣にいる黒服の少女は表情が硬いままだった。
「ねぇ、しの。さっきの攻撃、あれって本気で撃ち込んで来たの?」
「うん! だってプラナちゃんも本気で斬りに来てたでしょ?」
「そうね、本気の本気だった。オリジナルのあなたを今度こそ超えるつもりで…」
左手で鞘に納めた刀の柄に触れながら悔しそうに小声で呟く黒服の少女、プラナ。
先を行く袴の少女、しのは立ち止まって振り返り、腰に手を当ててプラナへ怒った表情を向ける。
「オリジナルとかクローンとかお互いに言わないって約束したでしょ? お、お姉ちゃんとして妹を叱っちゃうよ?」
二人の会話に周囲の者が関心を寄せる事は無かったが、しのもプラナに合わせて小声となり、最後の方は少し恥ずかしかったのか照れ顔で言葉を〆た。
その様子が可笑しかったのか、硬い表情だったプラナが吹き出して笑みを浮かべる。
「しのがお姉ちゃんって、やっぱりまだ慣れない」
「だよね~。私も言ってて恥ずかしかった」
堰を切ったように笑い始めるプラナに釣られて照れ笑いするしの。
二人の間に合った緊張感が無くなり、スタジオ内で見守っていたマネージャーの、つまりは私の居る場所へ彼女たちが戻って来た。

「司令、見ててくれました? 褒めてください!」
「しのだけズルい。私も褒めてくれるわよね、司令」
最近は彼女たちのマネージャーを務める事が多いのだが、未だに司令と呼ばれ続けているのはさて措いて、二人のリクエストに応じて最大限褒めておいた。
ちなみに、今回撮影で使われた刀は当然の様に竹光であり、達人級の腕前を持つ彼女たちであれば怪我を負う事は無かったのだが、楽屋でプラナ君の着替えを手伝っていたら彼女の腹に僅かながら×の痕が残っているのを発見した。
寸止めでありながらも竹光で痕を残すしの君の剣の腕に驚き、プラナ君には痛くないのかと尋ねてみたが、彼女は応急処置の必要もないと応えた。
二人の着替えが終わり、関係者に挨拶を済ませて乗りつけた車で撮影所を後にした。
「ところで司令、今日はみんな新帝国劇場に帰ってくるんですよね?」
しの君が車内で尋ねてきたのでスマホで予定を見ると、夕方には列島縦断公演を行っていたクルミ君率いるあせび君らの巡業組と、国の研究機関に出向しているふうか君、新政権で要職に就いた梅林とその下で政治を学ぶはつか君、新帝国劇場に籍を置くも地元で活動する乙女達らが全員戻ってくるのを確認して首肯した。
「帝都のメイサ達の舞台も昼の部で今日は終わりみたいだし、お、お母さんも来るみたいだから楽しみね」
「うん!」
プラナ君は、漸くなでしこさんをお母さんと呼ぶ様になったが、まだ恥ずかしいらしく、あまり口に出す事は無いけども、目撃者S.S君の話によるとかなり甘えてるらしい。
母娘、姉妹で仲が良いのは彼女らを知っている身として嬉しい。

渋滞に少し巻き込まれてしまったが車内で三十分も過ごしている内に、私たちのホームグラウンドである新帝国劇場が見えてきた。
裏手にある関係者用の駐車場に廻ると、巡業組が使用している移動用のバスが既に二台到着しており、荷下ろしを手伝っている乙女達がこちらに気付いて手を振る。
私たちの乗った車が停車すると、荷下ろしを中断してあせび君が近づいてきた。
「おかえりなさい、二人とも。 少し前にふうかたちも到着して中で待ってるわよ」
「本当? あ、えっと、あせびちゃんもおかえりなさい。プラナちゃん、みんな帰ってきてるって」
「聞こえてるわ。 お疲れ様、あせび。マジュたちから聞いてるけど、頑張ってるみたいね。もうトップスタァかもしれないわ」
車の扉を開けると、飛び出すような勢いでしの君はあせび君に駆け寄り喜び合い、プラナ君はそんな二人を見て微笑んでいる。
嘗てのトップスタァであるプラナ君から褒められたあせび君は余ほど嬉しかったのか、目の端に涙を浮かべている。
「プラナちゃん、私は?私は?」
「しのは……、まだまだよ。演技に磨きをかけないとお母さんみたいになれない」
目を輝かせながら自分を指差して尋ねるしの君には、プラナ君は一考したものの、姉の目指す母の過去の演技を思い浮かべてダメ出しするとしの君は口を尖らせて拗ねて、あせび君がそれを宥めた。
そんな彼女らの遣り取りを横目にしながら、車内から手荷物を持って劇場へ戻ると、既に全員集まっている。
「あせびもしのもプラナも司令も遅い。みんな揃ってるよ、早く着替えてきな」
隊服姿のふうか君がフロアに居る面々の前に出て、遅れてきた私たちを𠮟りつけた。
今は着る事が無くなった隊服だが、衣装部の人たちがこの日の為にサイズ直しまでして用意してくれてたので、帝国華撃団の各花組、宙組、B.L.A.C.K.、なでしこさん、きりんさん、丸さん、吉良元首相、各総督たちが往時を偲ぶ姿となっていた。
私たち4人は慌てて更衣室へ駆け込み、用意されていた隊服に袖を通した。
あせび君は帝国華撃団とB.L.A.C.K.のどちらにするか悩んだが、プラナ君から「あなたの目指したい星を選ぶべきよ」と言われてB.L.A.C.K.の隊服を選んだ。
10分後、身嗜みを整えて戻って来た私たちは、案内されて所定の位置に向かう。
最前列中央にしの君と私とプラナ君が並び、各列に10人ずつ5段に分かれて全員が配置についた。
「着替えるの? ところでふうかちゃん、今日はなんでみんな集まったんだっけ?」
「しの、まさか知らなくてここに並んでるの? ま、すぐに分かるからあっちから来た幕を持ってて」
しの君が自分の後ろに立つふうか君にボケをかましている。
一応、朝に説明したはずだったのだが、朝食に夢中で聴いていなかったのだろうと思っていたら、私のところにまで幕が辿り着くと、左隣にプラナ君に回す。
最前列に居る全員が幕の一部を持つと、カメラマンの男性がレンズの向きを調整して撮影準備が整った。

「ところで由良司令。あっち(義孝司令)を並ばせないでいいの?」
「いいのいいの♪ 私が食べようと思ったプリンを盗み食いした罰よ、罰」
ふうか君がカメラマンをやらされている義孝を指差して尋ねてきたので、彼を見てニヤニヤしながら聞こえる様に応えた。
「あれ俺のだぞ……って、タイマー動き出したっ!?」
私とふうか君の会話を耳にした義孝が反論しようとするも、間違えて押してしまったタイマーが作動し始め、慌てて皆が並ぶ方へ駆け寄るが、後ろからキミカゲに飛び掛かられて転び、キミカゲは無事に私の膝に乗れたものの、義孝は足だけしかフレーム内に収まらなかった。
それを見た全員が爆笑してしまい、再度の撮影は皆が落ち着くまでお預けとなった。
漸く笑いが収まり、劇場内の手隙のスタッフにカメラマンを担当して貰い、私の左に義孝が入ると、彼と二人でキミカゲの前足を夫々持って両手をあげた招き猫のポーズにする。
そして、シャッターが切られる時に全員で声を合わせて……
『サクラ革命4周年、おめでとうございます!』

誰に何を言われても、私はサクラ革命の再生or新生を、今年も祈り、願い、待ち続けます。



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