好きを口にするのが難しい。
「好きなものは口に出したほうがいい」
「やりたいことは口に出したほうがいい」
そんなことはすでに耳タコで、聞こえてくる音楽も言葉にしなきゃわかんねえよと歌っている。それでもなかなかできないから悩んでいるのです。
小さい頃から好きなものを好きだと口にするのが苦手だった。
人のせいにするのはよくないけれど、祖母が「嫌い」をよく言う人でした。
テレビを見ていて誰かが登場すると「私この人嫌いや」。
外食をしようとしても「私こういうの嫌いや」。
私が好きだったものを嫌いと言われたこともありました。
子ども心にひどくショックだったのを覚えています。
私は好きなのに！と主張することもなく当時の私は黙っていたのだけど、好きなものにケチをつけられるってこんなに悲しいんだなと思いました。
祖母に悪気があったわけではないし、そのほかのことでは素敵な祖母だったけれど、たぶんそのことが私が好きを言えない原因のひとつではあるのかな。ごめんよ、ばあちゃん。
私は自分の好きを少しでも傷つけられるのを極端に恐れています。
「すごいんだよ！最高なんだよ！」に否定されずとも「ふうん。」で終わらされるともう二度と言えなくなるくらい。我ながら面倒だ。
好きなものを好きというのは、私にとって感覚としては心臓を丸裸に外にさらしている状態なのです。少しでも傷つけられそうになったら全力で逃げる。
そんなことだからいつまでたっても口に出せない。
そして、言葉を扱うようになったり、社会で自分自身が評価を受けるようになって、そこにさらに別の恐れが加わりました。
好きだという私の言葉は好きを正しく伝えられているだろうか。
私の言い方ひとつでイメージを損ねてしまったり、本来意図されていたものと違うように伝わってしまったり、そんなことをしてしまっていないだろうか。嫌がる表現になっていないだろうか。常にそんな不安があります。
そして、前田敦子さんの有名すぎるスピーチ「私のことは嫌いでもAKB48のことは嫌いにならないでください」というような気持ちもあります。
社会に出て、私自身も評価を受ける立場になりました。私を嫌う人もたくさんいるでしょう。嫌いなあいつが好きなものなんてろくなものじゃない。何も知らない状態の人に私のせいでそう思わせてしまったら。そんなことも恐れています。
結局は自意識過剰なのだとも思います。
私なんかがそんなに影響を及ぼすなんて考えるほうがおこがましい。わかっちゃいるけど傷つけられることを恐れていた大切なものを自分が原因で傷つけるようになったらと思うと恐ろしくて仕方がないのだよ。
でも、最近は言葉にするようになりました。
言葉にしないとそれは存在しないことと同じだから。存在しないことにして自分一人で抱えるにはそろそろいろんな想いが重すぎる。
もちろん言葉にするからには誰かに届いてほしい気持ちはあるのだけれど、そんなに自分自分と恐れなくても私の言葉は誰にも届かずに落ちているかもしれないし、そこで傷つく人もいないかもしれない。それなら誰かの耳に入って名前だけでも記憶に残る可能性にかけてもいいのではないか。結局、好きなひと、もの、こと、を広めたいのです。もっと知られてほしいのです。
そして、よりによって言葉にすることを仕事にしてしまったから大変です。
仕事でも私的なものでも書いたものを自分以外の人が読むときはいつも緊張します。
仕事の原稿だったら公開前に相手に確認していただくわけだけれど
正しく伝えられているか、望まない表現をしていないか、私の言葉で傷つけることにならないかと、確認の返事が来るまでずっと緊張している。
それでも、「書いてもらえてよかった」「この記事のおかげで自分の考えがまとまった。自分でも意識していなかった発見があった」そんな言葉をもらえることがあると天にも昇る気持ちで、毎回ひとりになれる場所を探して泣いています。
仕事じゃなく書いている言葉は、相手の確認を得ることができないからもっと怖い。それでも、「読んだことをきっかけに気になり始めた」とか、「観てみたくなった」「読んでみたくなった」「買ってみたくなった」とか、そういう言葉をもらうとこれもまた涙が出るほどうれしい。いいね一つがこんなにうれしいものだとは知らなかった。
ありがたいことに、言葉にしてよかったと思う体験が増えていて、そのおかげで好きを口にすることに対する抵抗が少しずつ少なくなってきています。これからも誰かを傷つけることのないように気をつけながら少しずつ“好き”について書いていこうと思います。少しでもプラスに伝わるように文章を磨いていこうと思います。
なので、これからもたまに読んでいただけたらうれしいです。
こちらの観劇記録のマガジンにはめいっぱいの好きを詰め込んでいます。
最近書いた大切な作品についての記事がこちらです。
公開前後3日は心臓の鼓動が普段の1.2倍でした。クリックする手が震えた。キナリ杯のおかげかもしれないけれどいいねをくれた方が多くてうれしいです。ありがとう。
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