『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』【#まどか観劇記録2020 60/60】
まさに今、必要としていた作品に出会えた気がします。
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』
ドラマチックなストーリーがなくても
最近、どういう作品に感動するのかということをよく考えていたのですが、ドラマチックなストーリーなのかなと思っていたところにこの作品を観て再考を迫られています。
というのも、『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』は、チャーリー・ブラウンとその仲間たちの日常の一日の一コマを描いている作品で、日常ってそこまですごくドラマチックなものでもないからです。飛び上がるほどの喜びも明日すら見えないほどの絶望も(チャーリー・ブラウンは常に落ち込んでいますが)ないありふれた日常の一日を描いています。
ランチタイムにひとりぼっちだったり、友達から言われたひと言が気になって考え込んでみたり、好きなものについて語り合ったり、野球の試合に負けてしまったり、スヌーピーの夕食にかける情熱だったり。いつもの日常ではあるのですが、ドラマチックな展開はなかったとしても、どれも大切な時間なのだと思うのはきっと観客という立場で見ることができたから。
落ち込むチャーリー・ブラウンに、「そんなに悪くないじゃないか」と観客は声をかけたくなっていますが、ラスト、パジャマを着てもう寝ようとするチャーリー・ブラウンと仲間たちから同じ言葉を返されます。「幸せってね」と、「悪くないよね」と。そこで実は不安と不満と居心地の悪さを抱えていた自分自身の今日が悪くなかったなと愛おしくなりました。みんなが大切なことを教えてくれました。
楽しかった!というのはもちろんなのですが、ありがとうと言いたくなる作品です。
歌がすごい
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』はミュージカルなのですが、歌のふり幅が広くて驚きました。ポップな世界観からそういった音楽が多いのかなと聞いていたら、キャストのみなさまの歌唱力の高さに驚きました。いきなりあんな高音やらビブラートやらって出せるものですか…? ふざけたシーンと思いきやオペラ並みの歌になって驚いたり、とても流暢な英語が聞こえてきて驚いたり、うれしい意味での驚きが多かったです。
キャストを見て納得。歌手としてもプロのお仕事経験のある6人ということでミュージカルとしてのふり幅を作れたのだなと思いました。6人とも音が違うハーモニーなどもあったと思うのですごいの一言です。プロの歌手と言えどすごい歌唱だったと思いますが。
コミックの世界観の再現度の高さ
冒頭からまったく違和感なく『THE PEANUTS』の世界観が再現されていて、これもまた驚きました。いくらお若くて年齢よりもお若く見える外見だったとしても、チャーリー・ブラウンやその仲間たちを成人した方々が演じるってどこか無理が出てくるようにも思うのですが、まっっったくそんなことはありませんでした。キャストさんもすごいし、その世界観を実現させたスタッフ陣もすごすぎます。
キャスト6名なのでひと言ずつですがそれぞれの感想を書きます。
チャーリー・ブラウン役 花村想太さん
チャーリー・ブラウンはかっこいいヒーローではないけれど、彼がいなかったらピーナッツのあの空気はないだろうし、という意味でもやっぱりチャーリー・ブラウンはみんなのヒーローなのです。それを花村想太さんが作り出す空気感と見事にマッチしていて素晴らしかった。今作はそれぞれのキャストの見せ場も多いので、主役といえど出番が特別に多いわけではないのですが、花村さんがチャーリー・ブラウンとして引きの演技もしているからこそ場がまとまるのだろうと思ったり。
そして、3/31のソワレ回を観劇したのですが、カーテンコールで見せたキレキレのダンスはさすがDa-iCEだなとギャップも素敵でした。
ライナス役の岡本来夢さん
とにかくかわいい!(笑)
刀剣乱舞の鶴丸役のかっこよさからは想像がつかないほどかわいいです。ライナスのシンボルである安心毛布をもって親指をしゃぶろうがなにも違和感がありません。このライナスには本当にびっくりです。
ルーシー役の宮澤佐江さん
今回、一番印象に残ったのは宮澤佐江さんのルーシーかもしれません。怒りっぽくて自信屋でみんなを仕切ってはかき回し、あちらでもこちらでも大活躍です。漫画の中だから許されているという傍若無人ぶりを実写でやって嫌味がないのがすごいなと思いました。どれだけ自信があるように見えても間違っていたかなと思ったら落ち込むし弟想いで友達想いだし、宮澤さんのルーシーがとても好きでした。
サリー役の林愛夏さん
大人びたところもあるライナスはおいておいて、原作の中で一番年下のサリーを演じるのはなかなか大変だったと思いますが、登場した瞬間の立ち姿からこれこそが!女の子!といった様子で素晴らしかったです。お転婆を絵にかいたようなサリー、カーテンコールまでずっとサリーだったのも素敵でしたし、そんな子供子どもしたサリーから素晴らしくきれいな高音の歌声が出てきたときはとても感動しました。歌声がきれいすぎる。
シュローダー役の植原卓也さん
身体が大きいのにちゃんと子供!手足のバランスや使い方から全部を気を付けなければ子供に見えないのですが、植原さんのシュローダーは完璧でした。しかもシュローダーはベートーヴェンが大好きで常にピアノを弾いているから子供らしい仕草が少ないので表情だけで子供を表現しなければいけなかったりと大変なことも多いと予想するのですが、繊細な心情の表現も含めて素晴らしかったです。
スヌーピー役の中川晃教さん
妙に大人びて斜に構えたスヌーピー。THE PEANUTSの世界そのままのスヌーピーが最高でした。ハモるところもスヌーピーが一番低音で、作品全体にピリッとスパイスを効かせる役どころが素晴らしいです。そして、歌だけではなく、犬の鳴き声や遠吠えまで様々な声音を表現されていてさすが中川さんでした。夕食を楽しむダンスは最高でしたね。舞台上の存在感がずるいと言いたくなるほど。笑
キャストもすごいのですが、コミックの世界を再現したポップな舞台セットや、大人を子供に見せる絶妙な衣装のサイズ感や形(なんと有村淳さん)にも感激しました。
気負わずに見られる上に癒しをもらえるというか、前向きになるまでの強い力ではなく、今日も生きたことをほめてもらえるような作品でした。ありがとう、チャーリー・ブラウン。ありがとう、今日の私。
**上演情報**
東京公演はシアタークリエにて2021/4/11まで。
その後、大阪、愛知、長野公演があります。
詳細は下記公式サイトにて
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