見出し画像

ミュージカル『NiNE』【#まどか観劇記録2020 27/60】

女はどんな男に惚れるのか

色気あふれる男?
富と名声を手にした男?
少年の心を持ち続けた純粋な男?
手をかさずにはいられないダメ男?

そのどれもに当てはまり
どれもに当てはまらない男グイド。

グイド・コンティーニ。
才能あふれる映画監督だ。
そして今はどうもスランプのようだ。

ミュージカル「NiNE」の話です。

城田優さん演じるグイドと彼を取り巻く女たちの物語。
演出は藤田俊太郎さん。

多才なキャストが作り上げる 重なりあう「愛の物語」

舞台の上では過去と現在と幻想が混じり合う。
混じり合うのは作品世界だけでなく言葉も。日本語英語フランス語イタリア語と多様な言語を操るキャストたち。

この作品には、違うタイプのそれぞれ魅力的な女性が登場します。
グイドとの関係性の中で描かれる彼女たちの人間性。

献身的で凛とした妻のルイザ
情熱的で官能的な愛人のカルラ
自信に満ち溢れたクラウディア
目的のために冷酷にもなれるラ・フルール
最初から否定的で合理的なネクロフォラス
グイドの人生が変わるきっかけとなったサラギーナ
謎めいていてどこかほっとするスパのマリア
そしてグイドが求めてやまない厳格な母

どうしてここまで不誠実でだめなグイドが、魅力的で献身的で才能に溢れる女性たちの心を掴んで離さないのだろう。

もしかしたら女性は救い救われる関係を嗅ぎつけると離れられなくなるのかもしれない。
城田グイドにはどこか抱きしめたくなるような儚さが感じられる。それは城田グイドと重なるように随所に現れるリトルグイドの存在ゆえか。

個性の際立つ女性陣がグイドと関わることでそれぞれの心が揺れ動く。その揺れ動いた振り幅の残像のなんと人間的なことか。

人は人との関わり合いでさまざまに変化し、人生を進んでいく。
グイドに振り回されているように思えた女性たちはグイドという通過点を経て次の自分へと進んだのではないか。

そしてそのきっかけはグイドにとって、とても残酷なものだったかもしれないとも思う。

他者と比べられようと、愛が一方的であろうと、おおよそどんなことがあってもグイドを許してきた彼女たちが唯一許せなかったことは何か。
生き方も性格もグイドとの関係もまったく異なる全員が一致したこれだけは許せないこと。

その瞬間、グイドの人生の崩壊も始まる。。。

何度かこの作品を観る機会に恵まれたのですが、そのたびに凄みを増していて鳥肌が立つほど。
特にエンディングに向かう怒涛の展開には、心がえぐられるような辛さを感じ目をそらしたくなることもありました。それでも惹きつけられる引力に息をするのも忘れて見入るのです。


ダンスカンパニーDAZZLEの存在

話は変わりますが、もうひとつこの作品について言及しておきたいのが
映画スタッフ役として参加しているダンスカンパニーDAZZLEについて。

普通であればキャストやアンサンブルは作品のためにばらばらの個人が集められて、作品カンパニーとして舞台を作り上げていくのが定石だと思いますが、ミュージカル「NiNE」では、DAZZLEというすでにグループとして成り立っている存在をポンとそのまま作品に取り込むというキャスティングが行われていました。この効力が素晴らしかった。

普段からグループとして活動しているから、DAZZLEが踊るとき、そこには空気感も動きもある種のDAZZLEカラーがあり、それがこのNINEという作品に対して異質な要素を加えているように感じられました。

例えば、主演の城田優さんは、舞台の上ではグイド・コンティーニです。頭からつま先までどっぷりと彼の100%が「NINE」の世界に存在している。
しかし、DAZZLEは「NINE」の世界の中の映画スタッフという役としての存在と同時に、DAZZLEとしての存在もそこには感じられ、部分的に現実世界のDAZZLEであるというような立ち位置に見えました。

その「NINE」の世界に染まり切らない存在感が様々な次元や状況が混在して錯綜する作品の状況を時に深め、時に俯瞰し、という印象を観客は受ける。

演出家の藤田さんが“毒”という言葉を使われたそうですが、DAZZLE独自の世界観と美しいダンスは、華やかなシーンでも舞台上の空気に染まり切らず、DAZZLEの黒が(毒が)どこか不穏にグイドの心の中の不安や恐れといった感情を視覚化しているように感じました。

また、スタッフとしてではなくダンスとして舞台に存在する時、DAZZLEは可視化された音楽のように、そこに見えない空気を具現化しているかのよう。

舞台上に鳴り響く音楽はひとつしか作りだせませんが(同時に二つ以上の音楽が鳴り続けてしまうとそれは不快になってしまう)、音としての音楽を重ねるのではなく、メインの音としての音楽に可視化された音楽を重ねることで、普通は不可能である異なる音楽を同時に鳴らすことを可能にします。そしてその不協和音がグイドの…。

作品カンパニーに既存のグループを取り込むという手法、斬新でとても効果的と思いました。


見どころばかりで目が足らない

情報量も多く、見どころも多すぎて目が足らない、といううれしい悲鳴を上げています。

原作映画「8 1/2」のフェリーニ作品へのオマージュを多分に含んでいるという藤田版ミュージカル「NiNE」。

チネチッタ撮影所を模した回転するセットがコロッセオのように見えました。観客に見下ろされ、死ぬまで戦い続けなければいけない砂っぽい闘技場。最後、グイドはその輪の外に出たように見えたのですが、いかに。彼に安寧の地はあるのか。

藤田さんと城田さんの対談でも言及されていましたが、すべてのクリエイターが己を投影してしまう作品。胸の痛みを抱えて今日も己であるグイドを見つめるのです。


公演期間とライブ配信のお知らせ

作品の上演は東京公演が赤坂ACTシアターで11/29(日)まで、大阪梅田芸術劇場での公演が12/5~12/13(日)。
そしてなんと、本日(11/22)と明日はライブ配信があります。

素晴らしい歌声と物語とダンスの圧巻のエンターテインメントをぜひ。


おすすめの作品などを教えていただけるととてもうれしいです。