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『成井豊と梅棒のマリアージュ』【#まどか観劇記録2020 41/60】

去年のことですが、
クリスマス近辺のサンシャイン劇場ではあたたかな空気が流れていました。
その理由は『成井豊と梅棒のマリアージュ』! 劇団キャラメルボックスと劇場型ダンスエンターテインメント集団梅棒のコラボレーション公演が上演されていたからです!

詳しくはこちら ↓

キャラメルボックスは演劇好きの人ならだれでも知っているというくらいの成井豊さん率いる劇団、なんと創立35周年!
そしてノンバーバル(言葉を使わず)にダンスのみで作品を作り、各地で熱狂を巻き起こした梅棒
経緯はエンタメ記事を検索していただきたいのですが、こんなとんでもないコラボレーションを見逃したら後悔するぞということで行ってまいりました(のが去年の12月)。

この公演の発表は、それぞれの団体の活動を追っていた人々にとって、いくつかの衝撃をともなったビッグニュースでした。

まず、キャラメルボックス側のニュースは、2年ぶりの成井豊さんの新作ということ。現在キャラメルボックスは活動を休止しているので、成井作品に飢えていた人にとってはまたとないチャンスでした。そしてキャラメルボックスメンバーがどうやら梅棒の振付で踊るらしいということ。

そして、梅棒側のニュースは大きく二つ。
今まですべての梅棒作品を演出していた主宰の伊藤さんではなく、遠山さんが演出をすること(一作品だけ伊藤さんが演出されています)。
そして、、、ノンバーバルだった梅棒メンバーがせりふを話すこと…!

期待せずにはいられません。

作品はオムニバス形式で、「plat de 成井豊」と「plat d’ 梅棒」の2バージョンありました。


「plat de 成井豊」

まず最初に上演されたのは「plat de 成井豊」。こちらは全7作品で、全て成井豊さんの作・演出となります。

plat de 成井豊  作・演出:成井 豊
『彼女の空に雪が降るまで』
1.『ラスト・フィフティーン・ミニッツ』
2.『たった今、好きになった』
3.『最後の春休み』
4.『わずか1ステージのラララ』
5.『やっと君に追いついた』
6.『花束』
7.『最後の最後の1秒まで』

1作品目の『ラスト・フィフティーン・ミニッツ』のみ既出の作品だったそうなのですが、これがまた素晴らしくて、初見だった私は開始2分で息をのみ、15分(?)の間に起きる様々な起承転結の中に、成井さんマジックを観た気がしました。たった15分とは思えない満足感。

これだけでチケット代の元が取れたと思うほどの1作品目でしたが、そこから始まった一人の女性の人生を7作品の連作で描いていくという全体構成がまた素晴らしかったです。
5作品目以外はすべて登場人物が二人しかいません。主演は男女の二人で、その二人を軸としたお話なのですが、出演する二人は必ずしも主演の二人ではなかったりもして、それでもどこかに主演の二人が常に感じられて、作品のそこここに成井さんの意図が張り巡らされているのを感じました。

そして、そう、5作品目です。「plat de 成井豊」で唯一大人数になるお芝居の時間です。そして梅棒メンバーがセリフを話す時間です!
普段の個人活動としては、役者としても活躍されているメンバーなのでことさら騒ぐことではないかもしれませんが、梅棒の公演で梅棒同士でセリフを話しているお姿がかなり新鮮でした。こんな表現をされるのだな、いいなと思いました。

私は言葉がなくてもバンバンに伝わってくる梅棒公演を観ていた人間なので、ストレートに伝える表現を多く見ていたように思うのですが、言葉を話すということで、言葉と裏腹の表情をしたり、声音を使って見えているものとは違うことを伝えたり、と言葉を使う芝居では当たり前ではあるのですが、今まで観ていた直球ストレートとは違った梅棒メンバーの魅力が発見できたのがうれしかったです。

「plat de 成井豊」全編を通して、成井さんの描く人間はとても愛おしかった。弱くて、精いっぱいで、それでも相手に優しくあろうとする姿がとても愛おしいのです。胸がきゅっとして最後にほわっとあたたかくなる。7作品がそれぞれそうでしたし、7作品を通して一つの作品としてもそうでした。こんな作品を作られる成井さんの感性がとても好きです。


「plat d’ 梅棒」

そして後半に上演された「plat d’ 梅棒」です。
公演期間中の前半に「plat de 成井豊」、後半に「plat d’ 梅棒」、そして最後の2日間は1日2公演でそれぞれの作品が1回ずつの上演でした。

plat d’ 梅棒
1.『BBW~ビッグ・ビューティフル・ウーマン~』
  作:伊藤 今人・遠山 晶司 演出:遠山 晶司
2.『Y』 作・演出:遠山 晶司
3.『CROSSROADS』 作・演出:成井 豊
4.『End ofF Story』 作・演出:遠山 晶司

こちらは、3作品目が成井豊さん作・演出でセリフあり、1,2,4作品目は作・演出共に梅棒の遠山晶司さんで、1作品目だけは作に梅棒主宰の伊藤今人さんが加わっています。

観る前にどの作品が誰の作で演出でということを知ってしまっていたので、先入観がある観方をしてしまったようにも思いますが、1作品目と2,4作品目の印象の違いが伊藤さんと遠山さんの作品へのアプローチの違いなのかなと考えたりもしました。

個人的な印象ですが、伊藤さんの作り方は、ずっと梅棒作品の作・演出としてノンバーバル作品に向き合ってきたからか、王道ストーリー&感情がまっすぐという視覚的にわかりやすい構成になっているように感じます。

対して、今回の作・演出を遠山さんが手がけた作品は、ノンバーバルという梅棒のアプローチは変えずに、そこで必要とされるわかりやすさ(セリフがない分を伝えるためのわかりやすさ)は確保した上で、登場人物の心理描写を伊藤さんよりも少し複雑に描いているのかなと感じました。

誰かが笑うという演技をしたとして、ストレートに受け取ると喜びの感情であるところを、顔を伏せる瞬間を加えることで別の意味があるのではないかと考えさせる工夫がされていたりと、楽しいだけではないマイナスの感情の表現の作り方が素晴らしいなと思いました。シリアスで複雑な空気感をきちんとダンスと音楽だけで伝えきっていたのは素敵でした。

そしてその遠山さんが描いた心情の繊細な機微が3作品目の成井さん作・演出との空気のリンクしていたように思います。個人的な意見ですが、もしこれが伊藤さん作・演出の作品とだったら静と動のような対比構造になりそうなところが(それはそれで見てみたい)、遠山さんの作品とではリンクする関係になるのがすごくよくて、作品全体を通してじんわりと広がる感情がありました。観ていない方にはなんのことやらさっぱりな感想で申し訳ないのですが、空気のなじみ方が最高だったのです。

そして「plat d’ 梅棒」の成井作品(3作品目)もとびきり優しいです。緊迫した空気感の作品でしたが、最後のなんと優しいこと。成井さんに見えている人間はみんなこんなに優しいのかなとうらやましくなってしまうほと、成井さんの描く人物は素敵です。


エンドレスな相乗効果

「plat de 成井豊」と「plat d’ 梅棒」は、それぞれのお話自体は違うものなので、一見するとキャストが同じだけで全く違うに作品ではないかと思うのですが、2作品とも見終わってカーテンコールの拍手を終えたあたりで実はリンクしていたことに気づいたりするのです。確かめたいからもう一度観たい、となったところで最後の2日間のみ両バージョンが用意されているというところ、成井さんも梅棒さんも策士ですね。笑

一方を見たらもう一方も見たくなって、また別の方が見たくなってというエンドレスな状況必至です。笑


おまけ
男性メンバーの女装レベルが高すぎます。実際に女性メンバーもいらっしゃるのにあえて男性メンバーが女性役をやられるのですが、それがもうどんぴしゃだし面白いしきれいだし、見るだけで楽しくなってしまいます。


次回作について

もしこのnoteを読んで見てみたかったなと思ってくださった方がいらっしゃったら、あたたかな気持ちになりたいとか、笑いたいとか思っている方がいらっしゃったら、残念ながらこちらのマリアージュの再演は今のところ予定がないようですが、なんと!梅棒さん本領発揮の本公演が来週から始まります!

その名も『ラヴ・ミー・ドゥ―‼︎』(公式サイトがこちら ↓ )

元モーニング娘。の新垣さんと仮面ライダー時王の押田岳さんをはじめとする客演さんと梅棒メンバーで作り上げるハートフルストーリー(たぶん)
現時点で聞こえてくる情報を集めるとどうやらこちらの動画の作品の後日譚だとか。
(正確には梅棒第三回公演の後日譚のようですが、作品としてちゃんと見られるのがこちらの動画なのでリンクしています)


気になりますよね。
どんなお話になるのかは一観客の私には何とも言えませんが、何度か梅棒作品を観てきた人間として、笑ってほろりと泣いてハッピーになることだけは保証しますので、気になる方はサイトより詳細をご確認ください。

梅キャラメルみたいなコラボレーションもまた見たいなあとこの感想を書きつつかみしめております。
来週も楽しみ!


おすすめの作品などを教えていただけるととてもうれしいです。