
『カチカチ山』【#まどか観劇記録2020 49/60】
冒頭部分は去年の10月に観劇した時に書きかけていたもので、今回掲載にあたって修正するか悩みましたが、当時の劇場再開後の状況等に結びついているのでそのまま載せることにしました。すでに状況が変化している面もあることについてはご了解いただければと思います。
少人数演劇について
新型コロナウイルスのせいで、舞台上演の様々なことが変わってしまいました。
ひとつ飛ばしの客席は隣が埋まるようになってきたものの、ステージに近い席はいまだに販売がないことが多いし、マスクはもちろん必須、フェイスシールドやビニールカーテンも見慣れてきました。検温・消毒の対応が徹底され、チケットもぎりは観客自らが行い、会場での物販やチラシ配布がない公演も多くなっています。
そして、一番大きいのが、初日の幕が開いたとしても千秋楽まで無事に上演し続けられるかわからない、ということではないでしょうか。
誰が感染してもおかしくない状況の中、作品関係者はできる限りの対策をしてくださっていますが、それでも感染してしまうことがあります。もし、一人でも感染者が出てしまったら、2週間は公演の中止を余儀なくされ、感染者とならずとも濃厚接触者という状況でも上演という判断はなかなかできない状況です。
少しでも上演できないというリスクを減らすには、関係者の数を限定するのが最も手っ取り早いのかもしれません。そうすると、今後コロナの状況が改善されるまでは、出演者の人数を絞った少人数の作品が増えていくのか、そんなことを思ったりします。
前置きが長くなりましたが、そんなことを思ったのは、劇団☆新感線の井上ひでのりさん演出の「カチカチ山」「浦島さん」を見たからです。(私が観たのはカチカチ山のみです)
カチカチ山はタヌキとウサギの二人だけ。浦島さんは浦島さんと乙姫と亀の三人だけ。舞台セットもシンプルで、なるべく人が集合しないように考えて作られたのかなと感じました。
しかし、すごい度胸ですよね。
会場はあのブリリアホールです。収容人数約1300人の会場で、当時の上限人数は半数といえ、650人の観客をたった二人か三人で引き受けるというのですから。
前置きが長くなりましたが、そんな2作品のうち「カチカチ山」を観た感想を。
(ここまで2020.10に執筆のまま)
大人のカチカチ山
『カチカチ山』は日本人の多くの人が、幼い頃に昔ばなしとして親しんでいるのではないでしょうか。いじわるするタヌキをウサギが懲らしめるお話。少々、懲らしめすぎではないかという傾向がありつつも、「人に対していじわるをしてはいけないよ」という教訓を得た子供も多いはずです。
今作品は、その『カチカチ山』を太宰治が動物を人間に置き換えて創作した、太宰版カチカチ山を原作としています。昔ばなしよりも毒が強めです。
タヌキはいやらしい(?)中年男に、ウサギは純粋さゆえの残酷さを持つ少女に投影され、それぞれタヌキ役は宮野真守さん、ウサギ役は井上小百合さんが演じられました。
この二人がすごいのなんの。ブリリアホールをたった二人で引き受けるなんてと先述しましたが、ブリリアホールに毎公演の配信客も相手に堂々の立ち回り。半年たった今でもお二人のお芝居は鮮明に覚えています。
宮野真守さん
太宰治の設定では、タヌキは中年男という設定ですが、宮野さんの演じるタヌキは少年のようにも老人のようにも見えます。宮野さんのお人柄なのか役作りなのか、どうにもタヌキが悪者には見えなくて…気の毒で仕方がなかったです。一生懸命なのに不器用で、一生懸命すぎるせいで空気も読めない。空気が読めないから、余計に嫌われる。空回りとはこういうことか~と思ってしまいました。
昔ばなしで読んでいた時は、挿絵もそこまで生々しくなったので深く考えることもなく過ごしてきましたが、カチカチ山で背中をやけどしたり、傷跡に唐辛子を塗られたりということを、人間が目の前で演じるとなると、、、その凄惨さに、そこまでしなくてもいいのにと思ってしまいました。宮野さんのタヌキ、不憫でしたよ。死ななくてもよかったのに。
それでも最後にタヌキとしてではなく、朗々と原稿を読み上げた宮野さんの堂々たる姿。タヌキが救われたわけではないですが、さすがの美声も相まって清々しい気持ちになりました。
井上小百合さん
元アイドルの方がこんな表情をしていいのですか?と聞きたくなってしまうほど思い切ったお芝居でした。顔をゆがめ、タヌキを心底毛嫌いした様子で吐き出す残酷な言葉の数々…。
さきほど宮野さんのタヌキが不憫だと書きましたが、その原因であるウサギが憎いかというとそうは思いませんでした。その理由は井上さんだと思うのですが、彼女のお芝居は、嫌味がないと感じました。全身でタヌキが憎いという想いを発しているにも関わらず、少女ゆえの潔癖さが純粋で説得力がありました。ありきたりな表現になりますが、すごい女優さんだなと。
タヌキはなぜ死んだのか
タヌキも悪くなくて、ウサギも悪くないとすると、誰が悪いのかというと、原作者の太宰治か、演出のいのうえひでのりさんか、脚色された青木豪さんか。
作品全体としては、少しばかりトラウマになるほど、タヌキがかわいそうというか、大変な目にあっていたので、当時はかなりつらくなって記憶があります。たしか、配信を観たのはこの作品で初めてだったと思うのですが、生ではなく配信という形でもこんなにも衝撃を受けるものなのだと驚きました。
そして、最後のひと言が。ずっとタヌキか男か、ウサギか少女か、というのはあいまいに過ぎていったのですが、最後だけ、タヌキでも男でもない、別の男の視点が入りました。そこで語られた最後のひと言が何よりも怖く、ゾッとするひと言でした。思わず太宰治の『カチカチ山』はこんなだったのか、と全文を読みなおしたほど。しかし、そこには書いていなかった言葉、いのうえひでのりさんの込めた何かだったのでしょうか。
今思い出してもゾッとします。最後の最後で崖から突き落とすのはやめてほしいなあ。忘れられなくなってしまうから。。。半年たっても忘れられていないのがいい証拠です。いのうえひでのりさんにまんまとやられたなあと苦笑いで思っております。
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今後について
残念ながら、最後の井上さんのひと言のショックで(人のせいにします)、半年遅れの感想になってしまったので、今から『カチカチ山』と『浦島さん』を観ることができる場はありません。
ただ、昨年末にダイジェスト映像が公開されたのでこちらで少しでもお楽しみいただければと思います。10分越えの大盤振る舞いです!
『カチカチ山』
『浦島さん』
そしてようやく私もこのダイジェスト版で『浦島さん』を観られたわけですが、語られていないけれど、この2作品のテーマのひとつは戦争…...?
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