『サイドウェイ』【#まどか観劇記録2020 54/60】
アカデミー賞をはじめとする世界の映画賞を受賞した映画『Sideways』の舞台化作品。
主人公のマイルスは離婚したての売れない小説家で、自分の作品が初めて出版されるかどうかの状況の中、親友のジャックの婚前最後の旅行に付き合う。マイルスはジャックにいいワインの味をしえようとするが、ジャックの興味は結婚式を1週間後に控えて独身最後の日々をいかに楽しむか。そんな旅行先でマヤとテラという二人の女性と出会い恋に落ちるが…。というストーリー。
人生、時には寄り道もしなきゃです
こちら、この作品のコピーなのですが、私が女性だからか、全部を見終わった後に、大賛成!とは思えませんでした。全員がハッピーエンドなら寄り道も火遊びもよいですけれど、ひとり泣いていますからね。それでも、大人だからね、というにやりとした笑みで言えるそんな作品でした。
映画が原作のお話はよくありますが、舞台と映画は違うものですし表現は違って当たり前なのに、しっかりと2000年代のロードムービーの雰囲気が舞台上に表現されていた点、演出・キャスト・製作の巧みさを感じました。
ワインの話
配信チケットの種類になぜかワイン付きというものがあり、不思議に思っていたのですが、作品を観てわかりました。これはワインが飲みたくなる。劇場の椅子に座りながら初めて配信で観劇する人をうらやましく思いました(笑)。いや、でもひとつの種類だけでは物足りなくなってしまうかな。なにせ舞台上では次から次へのワインが開けられていくのだから。
主人公のマイルスはどうやらピノ・ノワールに強いこだわりがあるそうで(メルローなんて出た日には飲まずに帰ってしまうそう)ことあるごとに「ピノ!」「ピノ!」と。ワインについて大して詳しくない私ですが、彼が事細かにワインの蘊蓄を語る様子はなんだかとてもうれしそうで見ていて楽しくなりました。ただし、これがずっと続くとなるとなかなかの苦行にはなりそうなので、合う人とでなければ続かないなと彼が離婚した経緯について少し合点がいったり。
メインに登場する4人は(ジャックを除いて)みんなワインに一家言ある人々なので、合言葉のように語られるワインのよしあしや当たり年、ペアリングさせる料理の話など、こんなにひとつの話題で語れるものだなと感心しました。テンポがよくひたすらに楽しそうなのでワインに詳しくなくても見ていて退屈しないし、聞こえてきた銘柄で覚えているものがあれば今度買ってみようかななんて思ったり。好きなものについて語っている人たちっていいものですね。
男と女が出会えば
はっきり書いてしまうと「人生に寄り道は必要だ」なんてもっともらしいことを言いながらワインと色恋のお話。けれど、人間って案外そういうものかもね、とも思うのです。
マイルスは離婚の痛手を引きずっているから色恋については控えめだけれどそれでも気にはしているし、ジャックなんてあからさまにセックスのことばかり。人生で最高の〇日間、なんて映画のシチュエーションらしいけれど、さすがに2時間半のほとんどがワインとセックスのことばかりだと胸やけしてきたぞ、と思ったところに清々しいラスト。酸いも甘いも嚙み分けた大人の恋の始まりという感じ。これまた映画的かもしれませんが、いいものでした。
映画と違って、舞台は目の前で繰り広げられるナマモノなので、色恋もあまりに生々しいとどう見ていいものかと戸惑ってしまうのですが、この作品は人間模様は生々しくも登場人物の感情がオープンなので逆にすっきりするというか。特にテラ役の富田麻帆さんとジャック役の神農直隆さんの全力なのにつくりものっぽくない表現が好きでした。
不器用ながら感情をまっすぐにぶつける人々を見ていたら、大人って思うほど大人じゃないし、色々あるけれど進むしかないし進めるものだと、なんだか人というものがとても愛おしくなりました。
とりあえず今週末はピノ・ノワールを買ってこようと思います。できればカルフォルニア産の!
***上演情報***
上演は東京芸術劇場シアターイーストにて2021/3/25までです。
残り数日ですが、ライブ配信もありますので、ライブ配信組の方はぜひワインを用意してお楽しみください。