音楽劇『プラネタリウムのふたご』【#まどか観劇記録2020 47/60】
2日間(2021/3/6~7)のオンデマンド配信中の音楽劇「プラネタリウムのふたご」について、ぜひ観てほしくて急いでnoteを書きました。と言いますか、このnoteは読まなくてもよいので今すぐ配信観始めてください。2時間半あるので急がないと間に合わなくなるかも…!もうあと12時間くらいしか観られないので!
配信URL
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2069090
絵本のようなあざやかな世界
いしい じんじさんの小説「プラネタリウムのふたご」を原作とした音楽劇『プラネタリウムのふたご』。私はおそらく昔に原作を読んだことがあったはずなのですがもうすっかり忘れてしまっておりました。それでもなんだか開始5分ですでに好きな感じがひしひしとします。オープニングの演出がすばらしかったのです。
ステージの真ん中でくるくる回る丸い台、時折映し出される幻想的な映像と影が踊り、現実なのかお話なのかがあいまいになっていく。人々の声はこだまするようにずれて重なり、空間をうめつくしたところで物語の始まりを告げる鳴き声。
きれいな色と耳に優しい音楽で彩られたそれらすべてが心地よいのです。幼いころに絵本に感じていたような心地よさと言いましょうか。
絵本のページを開くようなワクワク感とともに始まったお話が進むうち、私はかつて読んだストーリーを思い出していきました。おそらくこんなに素敵な記憶の開け方はいまだかつてなかったと思います。モノクロの小説のページがひとつずつ形を持って、立体の絵本になっていくような感覚を覚えました。この舞台、とても好きだ。
北極星のような佐藤アツヒロ
全体の感想も書かずにいきなり個人名を出してしまいますが、私がこの作品でもっとも心に残ったのは佐藤アツヒロさん演じる泣き男でした。W主演のふたごも他のキャストさんもみなさん素晴らしかったです。こんなに嫌いになる役がない作品はなかなかないです。
なぜ佐藤アツヒロさんなのかというと、彼の泣き男が、心を保ってくれたからだと思います。泣き男は主人公であるふたごの育て親です。そして物語の舞台である村で唯一クマ狩りに参加しないし、他の人とは少し違った空気を生きています。その独特な立場から何が起きても乱れない彼のペースと他人に踏み込まないようでいて寄り添う姿勢が物語をまっすぐ保っているような印象を受けました。彼を追いかければ迷うことはないと思わせる安心感。さながら北極星のようだと思ったのです。
(メインビジュアルから勝手に悪役?と思ってしまったことを心からお詫びします)
泣き男の役柄と演出もさることながら、それには佐藤アツヒロさんの声も一役買っているように感じます。聞いていて不思議と安心する声なのです。こんな声でプラネタリウムの解説が聞けたら素敵だろうな。この作品とは関係ないけれど、実際のプラネタリウムでもナレーションをやってくださらないかしら。
そんな泣き男が唯一感情をあらわにするシーンの衝撃ときたら。。。
これは作品を観てください。
音楽も物語も手品もなんでもござれ
プラネタリウムで拾われたふたごの片割れは、ひとりが手品師、ひとりが星の解説員になります。この手品師になることになった経緯から手品師になってからも様々な手品が披露されます。
これがとても面白いのです。
仕掛けが全然わからない。配信を観ているから無理なのだけど近くに行きたい、近くでみたら種がわかるかも…!なんて気が付けば必死に観ていました。お芝居の中の手品というのではなく、手品そのものとしてあたかも“物語の中の”観客として、純粋に手品を楽しんでしまいました。
最初に色鮮やかな絵本の世界みたいと書きましたが、なんでも出てくるおもちゃ箱でもある作品ですね。きれい、や、楽しい、がたくさん詰まっているから、その後悲しいことが起きても耐えられる…わけはなかった…。いろんなことが詰まりすぎて大変な作品です。でもどの場面で感じた感情も全部大切だと思える作品。
嘘はいけないこと?
ところで、「嘘をつくのはいけないことでしょうか?」
多くの場合は嘘をつくのはいけないことです。では、
「誰かを守るための嘘はいけないことでしょうか?」
この二つの質問は私が小さい頃にとても考えさせられていまだにきちんと答えを出せないでいるセットです。しかし、この作品を観て、長年の悩みにひとつの答えを見つけた気がしました。
悪い人は誰もいなかった。正直に言うとひとりこの人だけは許せないという人がいましたが、ふたごが嘘をついたことで私はその人を悪く思わなくなりました。ふたごのついた嘘で、救われた人がいました。優しい嘘、いや、あれは嘘ではなく魔法だったのかもしれません。あいまいな書き方で申し訳ないのですが、ぜひご自身の目で作品を観て感じていただけると嬉しいです。
だまされる才能とは
物語の終わりに泣き男が「だまされる才能」と言います。
「人にだまされる才能がなくなると世界はかっさかさになってしまう」これはいしいしんじさんの本のあらすじからの抜粋です。
だまされる才能。この言葉について観終わってからずっと考えているのですが、私はどうやらかっさかさだったようです。情報が溢れる世界に生きて、常にこれは信じていいのか、この人は信じていいのか、と疑いの目でまわりをきょろきょろ見回している。そんな自分の姿が見えます。だまされる才能なんてこれっぽっちも持っていない。
一晩考えて、騙される才能は言い換えると信じる才能だと気づきました。この人のことを信じてみよう、という気持ちのこと。騙されることも信じることも相手に自分をまるまる投げ出すことだから、それには勇気がいるし、ひょっとしたら危険かもしれない。それでも、だまされてみようと思えるのは、相手を信じているからであって、そんな関係がたくさんある世界は確かにかっさかさではないとそんな風に思いました。
世界はきれいなものばかりではないと知ってしまっているけれど、少しずつまたこの美しい物語の人たちのように、だまされる才能を取り戻していきたいと、思いました。きっとそれはとてつもなく優しい関係だから。
***配信情報***
何度も言いますが、本日(2021/3/7)の23:59までオンデマンド配信で音楽劇『プラネタリウムのふたご』が観れます。ひとりでも多くの人に観ていただきたい作品です。
おすすめの作品などを教えていただけるととてもうれしいです。