映画『AKIRA』令和に巨大スクリーンで甦る昭和ニッポンSF超大作!
4月7日夜、人もまばらな池袋 グランドシネマサンシャイン。
緊急事態宣言を受けて翌日から都内の映画館は全て休業する。これがラストチャンスかもしれないと思い、我慢しきれずに12FのIMAXシアターへ急いだ。
『AKIRA』は1988年、原作者大友克洋自らが監督したSFアニメである。制作費10億円・製作期間3年を掛け、原作漫画の完結まで遅らせた空前絶後の超大作であり、国内海外を問わず絶大な支持を受けている。
あらすじ
舞台は2019年のネオ東京。とは言っても現代の東京と違い、1982年に第三次大戦が起きた架空の世界の物語である。大戦の契機となり地下深くに封印された「アキラ」を巡り、不良少年の金田と鉄雄、反体制ゲリラと警察、超能力を持つ老化した少年達と彼らを管理するアーミーが入り乱れる。
昭和日本の総括としての「ネオ東京」
子供の頃に観た時には理解できなかったが、改めて観るとネオ東京で起こる出来事の数々は、全て昭和日本を象徴している事が分かる。
街中で起こる反政府デモやテロは60年代安保闘争であり、第三次大戦後の2020年東京オリンピックという設定は戦後復興の証となった64年東京オリンピックの再現である。他にも超能力ブーム、新興宗教が煽る終末論、非行少年の暴走。
そして言うまでもなく、「アキラ」は原爆を擬人化した存在である。
『ブレードランナー』チックな近未来ビジュアルや派手なアクションシーンに隠れて気付きにくいが、AKIRAは昭和という時代を総括するかの如く、様々な昭和日本的要素で構成されているのだ。
大友克洋をSF漫画家だと思われている方は多いが、それは彼の一側面に過ぎない。彼の初期作品はむしろSFからは縁遠い「昭和という時代のペーソスに溢れた人間模様」を描くことを得意としており、『AKIRA』もまたSFの皮を被った昭和の再構築と言える。
『AKIRA』が今でもSFアニメの金字塔として君臨しているのは、「歴史は繰り返す」「文明が発展しても人間の本質は変わらない」という真理を描いているからかもしれない。
『AKIRA』が2020東京オリンピックを予言していた、なんて話題が盛り上がっていましたが、予言というよりも大友克洋が昭和という時代に真摯に向き合い、総括した結果、歴史は繰り返されたと言うべきだと私は思う。
でもやっぱり漫画版が好き
映画『アキラ』は素晴らしい作品であることは間違いない。IMAXの大スクリーンにも耐える超絶作画と芸能山城組の音楽はより高品質にリマスターされ、アニメーションを観る喜びの最上級を与えてくれる。至福の2時間だった。やはり映画は映画館で観るに限る。
でも・・・でもやっぱりストーリーの面白さは漫画版に軍配が上がるというのが私の結論だ。
漫画は鉄雄が覚醒しアキラが再び目覚めるまでと、大破壊後の大東京帝国編の2部作になっているが、映画は尺の都合で後半を省略している。(そもそも映画製作時は漫画連載が途中で止まっていた)
映画では端役のミヤコ教団やクラウンのリーダー(ジョーカー)は漫画だと大活躍するし、名キャラ「おばさん」や炭団は映画には出てこないのだ。映画を観て楽しめた方はぜひ漫画版を読むことをお薦めしたい。
・・・と書いたけど、コミックスは絶版で電子書籍も無いのか。あの凝った大型本は再版したら高くなりそうだもんなあ。傑作『童夢』も合わせて何らかの形で復刊を望む!
今やプレミア付きのコミックス。知り合いで読みたい人、貸しますよ(超重いけど)