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紫陽花のアタマ

今年はコロナ禍のせいで例年より季節を感じることができなかった。桜はいつの間にか新緑に変わり、今はもう紫陽花が咲いている。梅雨の季節に咲く花のせいだろうか、紫陽花は瑞々しいイメージを与えてくれる。赤紫の花は雨だれを弾きドロップ状の球体を形を崩すことなく添えている。だから炎天下に咲いている姿を見ると途端に息苦しくなった。灼熱の太陽に照らされ蒸発してるように思えるそれは、日の光に喜びを感じているように思えない。盛りが終わると、花は茶色くなって丸いフォルムを残し、緑色の葉の上で乳幼児の頭の様な塊を残す。「先月までは美しく咲いていたのよ」と声を震わせて語りかけてくる。それでも花を落すことなく姿を残し、強い自己顕示欲に目を反らす。7月の紫陽花はホラーだ。水がないと生きていけないのはどの花も同じなのに、これだけ水分を欲しているイメージのある花は紫陽花以外になかった。

夫に「これから貴方のお金で生きて行こうと思う。たまにUberEatsで働いて、誰かにご飯を届けてたりするの。貴方と犬と本だけの世界で生きていこうと思う」と言ったら「いいよ」と言われたのでやめた。私の世界はいつだって狭くすることが出来る。それが分かると途端に安堵する。社会を突然自分の方からぶった切りたくなるのは昔からだ。太陽の光なんて程ほどでいいし、ジメジメとしている場所でも生きていけるのに、毎日、同じ扉を開ける。灼熱の太陽がさんさんと頭上を照らし、何かが蒸発している音がする。

葉の上にかたつむり。元気に出社した。

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