2012年桜花賞の思い出
競走馬にとって一生に一度のクラシックの舞台について世代ごとに語られることは一般的だ。
ウマ娘から入った競馬ファンに馴染み深いのはオグリキャップなどの88世代、アニメ1期のスペシャルウィークなどの98世代、RTTTのテイエムオペラオーなどの99世代、アニメ3期のキタサンブラックなどの15世代などだろうか。
年の数だけ存在するが、その人にとって一際輝く世代というのが必ず存在するだろう。私にとっても印象深いのが12世代だ。
私は2010年のスプリンターズSで初めてレースを見てその後の天皇賞、JC、有馬記念のブエナビスタに初恋をし、2011年のオルフェーヴルの三冠達成で競馬の魅力に取り憑かれた。この1年どっぷりと馬券ファンとして競馬を楽しみつつレース形態を把握してさぁ来年も楽しもうといったところで出会ったのが12世代だ。
今年のクラシックの幕が上がるこのタイミングで好きなように思い出を語ってみたい。今日は2012年桜花賞についてだが...。
2012年の桜花賞を振り返る前に少し時間を遡る必要がある。前置きが長くなってしまうが自分にとってどんなレースだったのかを語る上で欠かせない部分なのでご容赦願いたい。
2011年の阪神JF覇者。ジョワドヴィーヴルという馬がいる。正確にはいた。
父ディープインパクト、母ビワハイジは私の初恋相手ブエナビスタの半妹である。ブエナビスタと同じように抽選を掻い潜り阪神JFへのゲートインを果たし、同じように勝ちきったのである。「ブエナビスタの妹だから」という理由のみで本命にし馬券も的中させ、ジョワドのことが大好きになった。この頃から私は競馬における馬券ゲームの楽しみのみならずブラッドスポーツとしての魅力にも気づきつつあったような気がしている。
前哨戦のチューリップ賞は3着。ハナズゴールがジョワドヴィーヴルとジェンティルドンナを相手に金星を上げた。
ジェンティルドンナはシンザン記念を勝った牝馬として出世が期待されていた。ダイワスカーレット、後のアーモンドアイも同じ道を辿る。
他にもクイーンカップを勝利したヴィルシーナ、フィリーズレビューを勝利したアイムユアーズなどの有力馬が名を連ねた。
それでもブエナビスタと同じ牝馬二冠、いや、ジョワドなら三冠だって夢じゃないと信じていた。姉と同じ、それ以上の道が彼女に待っているんだと。信じきっていた。
結果はジェンティルドンナが優勝。知られるとおり三冠牝馬への道を辿ることとなる。ジョワドヴィーヴルは2.3倍の1番人気6着に終わった。正直レースの後のことはあまり覚えていない。でもぼんやりとした虚無感に包まれたことは確かだ。
この後故障で長期休養を余儀なくされる。あまり明るくない部分なので割愛するが、この年のクラシックは牡馬牝馬ともに本当に故障が多く発生してしまった。
ジョワドは古馬になってからレース復帰を果たすが調教中の事故によりこの世を去ることになる。
10年以上経った今ふと思うのだ。私は「ジョワドヴィーヴル」を愛せていたのだろうか?「ブエナビスタの妹」として過大な夢を押し付けていただけにすぎない気がして仕方ないのである。姉に負けないくらいの、それ以上の夢を自分に見せてほしいと。
自分には兄と妹がいるのだが2人ともそこそこ優秀で自分は劣等感の強い子どもだった。両親はそんなこと思っていないはずなのに勝手に自分を兄妹と比較して卑下していた。比べられるのは嫌いだった。
人間とは勝手な生き物で己に向けられる嫌な感情には敏感なのに自らが他者に向けるそれにはなかなか気づきにくい。
自分も競馬と出会い10年以上経ち、毎週出馬表を眺めるときに思い出せる名前が並ぶようになった。向き合い方もずいぶん変わった。
応援し始めるきっかけはそれでいいのかもしれないが走るのは馬自身だ。それぞれの道を走る、そのことはこれからも忘れずに向き合っていきたい。
桜花賞がくる。桜と散った勝手な夢と君のことをふと思い出した。