マイグラトリー・トラベラー【第一話】
【あらすじ】
世界を危機から救った経験を持つ少年エイティスは旅をしていたある日、突然不可思議な現象によって自分のいた世界とは異なる別世界へと転移してしまう。
そこは多種多様な種族が住まう彼が元いた世界とは常識が異なる世界。
見知らぬ世界で訪れたアルメニア王国のリンベルの街でエイティスはエルフの少女リリアーヌと出会い、事情を知った彼女と行動を共にすることになる。
だがその日の夜、二人は大きな騒動に遭遇してしまう。そしてリンベルの街に住む兵士の少年カナト。彼もまた時を同じくして、穏やかで平和だった自身の日常を狂わす理不尽に巻き込まれるのだった。
青い空と白い雲の広がる空の下、ある神殿の頂上に立つ四人の人間と倒れ伏す一人の人間の姿があった。
倒れている年老いた男は自分に視線を向けている者たち。槍を持った男と剣を両手に持った女と幼い少女、そして剣を握る若い少年を見上げる。
『後、少しだったのに……長年待ち望んだ僕の願い、希望を奪って……許されると思う、な……』
四人の中の一人、若い少年を怨嗟のこもった目で睨み恨みの言葉を呟くとそれを最後に息を引き取った。
「……んっ」
少年、エイティス・ヴォンは夢から目覚めた。体を起こして立ち上がりながら瞼をこすって意識を完全に覚醒させる。
「またあの時の…」
夢に見た出来事を思い出して何かを憂うようにも思える表情をする。
宿泊している宿のカーテンの隙間から漏れる日差しが差し込んでいるのに気付いて、彼はベッドを離れる。
身支度を整え、旅路に戻るためにドアノブに手をかけて開く。
その時彼は気付かなかった。ドアを開けた瞬間激しい光が視界を覆い尽くしたことに。
「あれ?」
気が付くとエイティスの目の前には雄大な自然が広がっていた。
「あれ…?」
おかしいと思った。普通ならば宿の内装が目の前になければいけないはず。
後ろを振り返ってみても自分がいた部屋はおろか開いたドアの影も形もなく、代わりにあるのは緑の大地と綺麗な水が流れる大きな滝。
「へ、なんで?どこ、ここ……?」
あまりにも突拍子もない異常な状況にエイティスはそう呟くことしかできなかった。
アルメニア王国。首都リンベル。
人の活気で賑わう城下町。人間や獣人、ドワーフなど多種多様な姿の人々が街中を歩いている。
そんな中をエルフの少女―リリアーヌ・ラルシュもまた周囲の賑わいを目と耳と心で楽しんでいた。
「約束に間に合うように早めに到着したのはいいけど今日一日どうやって過ごそうかな。ラフィーナと約束してるのは明日だし」
時間の過ごし方に悩みながらリリアーヌは街のあちこちに目を配って歩いた。
すると
「ん?」
噴水広場の近くを通りがった時、視界の端にベンチに座って項垂れているエイティスに気付いた。
「お腹空いた。どうなってるんだ。ここは…文字は読めないしお金は使えないし何がどうなって…ああ、お腹減ったぁ。何か食べたい。でも、何も買えないし…ううっ」
エイティスのお腹から音が鳴る。
離れた距離からでもはっきりと聞こえる空腹を訴える音だ。
(なんだろう。この人、この街で見たことのない人だけど旅人なのかな)
素性はよくわからないが困っているのは確かなようだ。
リリアーヌは距離を縮めてエイティスに声をかけた。
「ねえ」
「はい…?」
エイティスは顔を上げてリリアーヌを見る。
「お腹空いてるの?」
「は、はい。でもお金がなくて、いやあるにはあるんですけどなんでか使えなくて」
(使えない?どういうことだろ)
会話の内容に妙に引っかかるところはあったがとりあえず悪い人間ではなさそうだ。
これまでの長い人生と旅の中でたくさんの人と会って培ったリリアーヌの経験と直感はそう告げている。
「よかったらご飯ご馳走しようか?私もまだ食べてなかったし」
「えっ!?…い、いいんですか?いやでも申し訳ないですよ。会ったばかりの人にそんな…」
立ち上がって手を振ってまでリリアーヌの提案を断ろうとするエイティス。だがそんな彼のお腹がもう一度、盛大に空腹を告げた。
「あっ……」
恥ずかしそうにお腹を抱えるエイティス。その姿が妙に可愛らしくてリリアーヌは口元に手を当ててつい吹き出しそうになった。
やはり悪い人間ではなさそうだ。
「お腹の方は正直みたいだけど、どうする?」
「……ご、ご一緒してもいいですか?」
同時刻。リンベルの街にある一件の家。
カナト・フィアンは食料品と生活用品が入った袋を両手で持ったまま自宅の扉を開けた。
「あれ?戻ってきてたんだ姉さん。おかえりなさい」
カナトは室内にいた自身の姉マーガレット・フィアンにドアを締めながらそう言った。
「ただいまカナト。またすぐに学園に戻っちゃうんだよね。研究に必要な資料を取りに戻ってきただけだから」
「そうなんだ」
「そっちこそどうしたの?訓練とか警備の仕事は?」
「今日は休み。後ランドン隊長も今日は休み。気になってる相手と会うんだって」
「へーあの人がね。そんな相手いたんだ…なんか意外かも。あれ?こっちにしまったと思ったんだけど違ったかな」
マーガレットは机の上のバッグの中の横に本を置いて、また自分の部屋に戻って本棚から目的の本を探し出す。
バタバタと慌ただしいマーガレットの様子にカナトは苦笑し、机の上に購入した荷物を置くとマーガレットに向き直った。
「ごめんね。なかなか家に戻って来れなくて」
「仕方ないって。姉さんには姉さんの仕事があるんだから。家のことは俺に任せてよ」
「ありがとうカナト。貴方ももうすっかり頼りになる男の子ね」
「なんかからかってない?」
「あら、褒めてるのよ。そうだ、今日の夜ご飯ハンバーグにしようか」
「え、ほんと!?」
なんかそういう風には思えない。頬を膨らませたくなる気持ちになったカナトだが、次のマーガレットの言葉にそんな気持ちはあっという間に捨て去り目を輝かせる。
あまりにも見てわかる弟の表情の変わり様にマーガレットは温かな目を送った。
「明日まではここにいれるからせっかくだしね。もうちょっとしたら一緒にハンバーグの食材買ってこようか。久しぶりに街の人たちにも会ってみたいし」
「うん!」
まるで尻尾を振って喜ぶ犬かと錯覚するような弟の愛らしい姿。
背丈が大きくなっても昔から変わらない弟のそんな姿がマーガレットは可愛く、また嬉しく思えた。
「あっ!これおいっし!今までで食べたことない味だ」
「気に入ってくれたみたいでよかった。ここの店この街で私が特に気に入ってるところなの。よかったねー!初めて来たけどとっても美味しいってー!」
「ったりめーだろ!これからもどんどん新しいカモ連れてこいよリリアーヌ!」
「かなりフランクですね」
店主とリリアーヌのやり取りにエイティスは率直な感想を口にした。
「もう何年も前から何回も来てるからね。あ、私まだ名前言ってなかったよね。私はリリアーヌ、リリアーヌ・ラルシュ」
「僕はエイティス・ヴォンって言います」
食事を一時中断して二人は自己紹介をする。
「エイティスね、さっきお金はあるのに使えないって言ってたよね。あれってどういうこと?」
「それが僕にもよくわからなくて…この街にさっき来てすぐにお腹が空いて何か食べようと思ったんですけど先に支払いをしてたお客さんのお金を見たら僕が見たことのないようなお金で、それでお店に入る前にお店の人に自分の持ってるお金を見せて使えるかって聞いてみたら、こんなのは見たことがないって言われて。いつもはそんなこと言われないんですけど」
「その出そうとしてたお金ちょっと見せて貰える?」
「あ、はい」
言われてエイティスは布袋の中から金銭が入った小袋を卓の上に置いてリリアーヌの方に近付ける。
リリアーヌは小袋の口を縛っている紐を解いて卓の上に中の金銭を出す。
「確かに…これは私もどれも見たことがないかも」
「えっ、そうなんですか」
「国や島によって使えるお金の種類って違うことはよくあるけどこんなお金を使ってるような場所は行ったことがないし、誰かが持ってるのも見たことがないな」
硬化の一つを親指と人差し指で挟んだリリアーヌはそれを自分の目の近くまで持って、何度も裏表をひっくり返して見つめる。
そこでふとリリアーヌは自分の顔に向けられているエイティスの視線に気付いて、硬貨から意識を切り替えた。
「どうかした?私の顔が何か気になる?」
「耳、変わったアクセサリーですね」
「…え?」
エルフ特有の先端の細い長い耳のことを言っているのだと理解するのにリリアーヌは数秒の時間を要した。
「エイティスはどこから来たの?」
「どこから来た…えっと、僕旅をしててどこから来たって言われるとどう答えたらいいのか」
「じゃあ生まれたところでいいや。どこの国の人なの?」
「ネザリアのハールトンですけど」
「ネザリア…ハールトン…どこ、そこ?」
「えっ?…知りませんか?一応大きな国のそこそこ大きな城下町なんですけど」
「そんな名前の国も街も聞いたことないなあ。私一応エルフの中でも二百年くらいは生きてる方だけど。一度も聞いたことないわ」
「二百年!?」
大きな声で驚くエイティス。
彼の反応に周りにいた客はもちろんリリアーヌも目を丸くして驚いたような表情になる。
自分以外の反応に気付いたエイティスは『すみません』と一言他の客に頭を下げて謝罪し、リリアーヌに再び向き合った。
「まさかとは思うけど…エイティス、旅人ならたぶん地図持ってるよね?それ見せてくれない?世界地図があればそっちで」
「は、はい。わかりました」
エイティスは布袋の中を探り出す。
リリアーヌも自分の携帯袋の中から地図を出して、丁度エイティスと同じタイミングで地図を卓上に広げた。
「これって!?」
「…嘘、ほんとに?」
向かい合うように置かれた二つの世界地図は大陸の大きさも数も位置も名前も形状も、何一つとして合致している情報はなかった。
「地図が全く違う…なんでこんなことが…」
「…ここは貴方の知る世界とは違う世界なのかも…」
「違う、世界?」
「私もおかしな話だとは思うけどそう考えると辻褄が合うのよ。この二つの異なる地図も私の知らないお金や国があるのも、さっきの貴方の私、エルフに対する反応も。エイティスはエルフなんて知らないでしょう?」
「…はい」
「私も貴方も旅人なら持ってる地図が偽物であるとも考えにくい。それなら今のこの状況はそういうことだとしか考えられないのよ」
店を出て色とりどりの花が植えられている花壇が並ぶ通りのベンチに場所を移したエイティスとリリアーヌ。
覇気のないエイティスにリリアーヌは近くの露店で買ったレモップルジュースのグラスを一つ手渡す。
「大丈夫?はいこれ、レモップルジュース。飲める?」
「あ、はい…すみません、何度もご馳走になっちゃって」
エイティスがグラスを受け取るのを確認して、リリアーヌも隣に腰掛ける。
「大丈夫、ってそんな訳ないよね。急に全く知らない場所に訳も分からず放り込まれたようなものなんだから…私も正直今も信じられないけどこんな話を聞かされたんじゃね」
そう言ってリリアーヌは一枚の紙を取り出す。
先ほどエイティスから聞いた彼の知る世界についての情報を断片的にまとめたものだ。
「『戦えない人たちを守るために組織された戦士たちが集まる組織がある街』」『一年前に突然空を覆い尽くし太陽を隠した赤黒い雲』どれもやっぱり私も知らないことばかり。でも貴方も嘘をついてるようには思えないし」
「僕もこの光景を見たら改めてここが別の世界なんだって受け入れるしかなくなってきましたよ…」
溜め息混じりに呟くエイティスの視線の先には道を行き交う様々な人々。
動物の姿をした者、鳥の姿をし羽根を宿した者、小柄ながらも屈強な肉体を持つ者など普通の人間とはやや異なる種族の者たちと実に多種多様だった。
「本当に色んな人たちがたくさんいるんですね」
「ああ、そっちの世界じゃこういう光景は珍しいんだっけ。人間にエルフに獣人にドワーフ、他にもたくさんの種族がこっちの世界にはいるの。どの種族もそれぞれの国があるんだけどここは大陸のほぼ真ん中にある関係上、交流や貿易の場所として人間以外の種族の出入りが他に比べて多いのよ」
「へぇ」
「でもその分この街の中で守らなきゃいけないことはたくさんあるんだけどね。例えばここでは鳥人の人は空を飛ぶことを禁止されてたりとか」
「何か理由があるんですか?」
「この街にはお城もあるからね。鳥人の人が空からお城の方に近付いて来られたりしたら悪意はなかったとしても兵士は警戒するし、鳥人の人も変に誤解されちゃうでしょ?そういうのを避けるため」
「あー、それは確かに」
「まぁそれは置いといて、それでこれからどうするつもりなの?」
「そう、ですね…どうしましょうか」
見知らぬ世界で知識もなければ、取引できる金もなければ、一晩を過ごす宿すらもない。
自身が置かれた状況にエイティスは落胆しかなかった。
どうにか気を紛らわそうとエイティスはリリアーヌから受け取ったレモップルジュースを口にした。
「すっ、ぱい…」
「決まってないなら私から一つ提案があります。私の用心棒として働かない?」
「え?」
予想していなかった言葉にエイティスはきょとんと目を丸くしてリリアーヌを見る。そんなエイティスに対してリリアーヌは気の良さそうな笑みを浮かべていた。
「元の世界じゃエイティスもあちこち旅をしてたんでしょ?私も世界中の色んな場所を旅してるんだけどこっちの世界も魔物はいて人を襲ったりする狂暴なのもいるから、私の身の安全のためにもいっかなって。あ、もちろんそっちが良ければの話にはなるんだけど…実際自分で言うのもなんだけど悪くないとは思うんだよね。一緒に行動してる間のお金の負担とかは私が受け持つから。どう?」
リリアーヌの言う通り彼女の提案は悪い話ではない。今の自分は頼れる人もおらず、衣食住の負担まで引き受けてくれるというのならば非常に魅力的とさえ言える。
「リリアーヌさんがそれで構わないなら是非そうさせてもらってもいいですか?今の僕にはリリアーヌさんしか頼れる人もいないですし」
「おっけー、じゃ決まりね」
「でもどうしてそこまで僕に色々してくれるんですか?会ったばかりで別の世界の人間なのに」
「うんと、放っておけないってのもあるけどそれ以上に興味があるからかな。別の世界から来た人なんて珍しいし面白いし何よりすっごい刺激的」
「刺激的…」
「そ、まぁそういうわけだから…これからよろしくねエイティス」
「こちらこそよろしくお願いしますリリアーヌさん」
「さんは付けなくていいわよ。リリアーヌでいい」
「でも雇い主になるわけだし」
「いいから」
「…リリアーヌ?」
「ん、それでよし」
その日の夜。買い出しを終えて帰宅したカナトとマーガレットは夕食の時間を過ごしていた。
「どう?」
「おいしいよもちろん!やっぱり姉さんの作るハンバーグは最高だよな!」
「でしょ?おかわりするならまだあるから」
カナトの笑顔にマーガレットの顔にも呼応して笑顔が生まれる。
しばらく会えていない弟のこの距離で見る久しぶりの笑顔。姉としては嬉しくならないはずがなかった。
その時入口のドアを数回ノックする音がした。
「ん?」
「お客さんかしら?」
「いや、今日は誰か来るとかそういう約束はしてないけど…」
カナトとマーガレットは揃って顔を見合わせてからドアに視線を送る。
その直後にまたドアをノックする音が数回立てられた。
「とにかく俺が出るよ」
「ごめん、お願い」
カナトはドアを開ける。ドアの前に立っていたのは外套を着こみフードで顔を隠した人物が二人。
手前にいる方は身長が高く、やや後方に控えている方はカナトと同じくらいの背丈だった。
「どちらですか?うちに何か用ですか?」
見てくれからしてかなり怪しく、そしてどこか異様な雰囲気を感じ取ったカナトは少し警戒したような目を向けながら訊ねる。
しかし二人のどちらとも質問には答えない。
(なんだこの人たち…)
「どうしたのカナトー?」
「マーガレットさんですね」
顔をひょっこりと出してカナトと来客を見るマーガレット。
彼女の顔を見て背の高い方の人物ー豹獣人のヴォルガ・ナルクは初めて口を開いた。
「はい、そうですけど…貴方たちは?どちら様でしょうか?」
「貴方に用があってきました。我々と共に来て頂きますよ」
そう言うとヴォルガは室内に足を進め、その言葉を合図に控えていた別の人物ーダークエルフのヘルア・オラルジェが開いていたドアを閉めた。
「なっ!?おい、何のつも-ぐっ…!」
「カナト!」
突然の傍若無人な振る舞いに文句を言おうとしたカナトの首にヴォルガの手が伸びた。
「悪いようにはしません。大人しく私たちの要望を聞いて頂けるのであれば」
「は、放せ…っ、このっ…ぅ!」
カナトは自分の首を掴んでいるヴォルガの腕を振り払おうとするが、相手の腕力は強くびくともしない。
動かせる足を使ってヴォルガの体を蹴り付けても、結果は変わらなかった。
「貴方たちの言うことを聞けばカナト、弟には手を出さないでくれるんですね」
「もちろん。私たちが求めているのは貴女だけです。他の者には用はありません」
ヘルアの言葉を聞いて、そしてカナトの苦しむ顔を見てマーガレットは決意を固めた。
「…わかりました。貴方たちについていきます」
「話が早くて助かります。我々も貴方の弟さんも」
「駄目だ…姉さん、こんな奴らの言うことなんて聞いたらーぐっ!?」
一瞬手を離したヴォルガから後頭部に手刀を入れられ、カナトは気を失う。
「カナト!」
「ご心配なく。命には何も問題ありませんよ。そんなことよりも、少々失礼しますよマーガレットさん」
床に倒れるカナト。彼の元に駆け寄ろうとするマーガレットの腕を掴んで、彼女の視線を自分の方へ向けさせるとヘルアは睡眠魔法を使って眠らせる。
マーガレットの身体が床に落ちそうになるのを支えたヘルアは続けざまにヴォルガに魔法をかけた。
「新たに幻惑魔法をかけた。これで彼女を抱えても、誰からも怪しまれることはない。だが繰り返し言うがそう長くはもたんぞ」
「心得ている。そちらも気を付けてくれ」
「また後で会おう」
ヘルアは一足先にマーガレットをヴォルガに預けてその場を離れる。
ヴォルガは立ち去る寸前、床に倒れるカナトを一瞥し口を動かした。
その頃エイティスはリリアーヌが予約をしていた宿に新しく取ってもらった個室で身体を休めていた。
「これからどうすればいいんだろうな。ずっとリリアーヌさんの世話になる訳にもいかないだろうし、でもかと言って元いた世界に帰る手段があるのかどうか…なんでこんなことになっちゃったんだろう」
ベッドの上で仰向けになって天井を見上げながらエイティスは考え込む。
そうしていると外からリリアーヌがドアをノックする音がした。
「エイティスー。夜ご飯食べにいかない?」
「あ、はい。今行きます!」
お互いに武器と荷物を宿に置いて二人は夜の街を歩く。
「何か食べたい物ある?」
「いや特にこれといって。リリアーヌさんのおすすめで構いませんよ」
「んーそれじゃあ、この街の人に人気のお店の一つがこの近くにあるからそこにしようか。ただ、昼間も言ったけど名前、さん…」
「あ…そうだった」
「その方が言いやすいんだったらそれでもいいけどねー。私の好みの問題だし」
他愛のない会話をしながら目的の店までの道を歩く二人。
その時大きな轟音が響いた。
「何今の!?」
「あれはっ…!?」
二人の視線の先、街のある一角から煙と激しい火の手が上がっていた。
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