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マイハザードマップ、大学生が作る

2021年7月3日、熱海の住宅地を襲った土石流は衝撃でした。
あっという間に土砂にのみ込まれてしまう家屋。そして逃げる消防団らしき方たち。自然災害(人災含む)の恐ろしさを目の当たりにして、防災の大切さをあらためて痛感します。

今年は2つの大学でハザードマップを作るハンズオン形式の授業を行いました。
防災に向けた小さな一歩ですが、自分の住んでいるエリアはどのような危険があるのか、万が一の時はどのように避難すればいいのか、地図を作ることで深く考えるきっかけになればと思います。

せっかくですので、今回はハンズオンの一部をご紹介したいと思います。

避難所まで歩いてみよう

災害時、避難する所には大きく分けますと「避難場所」と「避難所」があります。
東京消防庁では「避難場所は、地震などによる火災が発生し、地域全体が危険になったときに避難する場所で、火災がおさまるまで一時的に待つ場所です。ここでは、基本的には食料や水の備えはありません。具体的には、大規模な公園や緑地、大学などが指定されています。避難所は、地震などにより家屋の倒壊や焼失などで被害を受けた方、または現に被害を受ける恐れがある方が、一定の期間避難生活をする場所です。ここでは、飲料水やトイレなどを備えています。具体的には、小中学校や公民館などの公共施設が指定されています。」と説明があります。

時期的にも大雨による水害を想定して、避難所まで歩くことにします。この作業は授業の前日までに完了します。
大学生でなくても、避難所まで歩いたことのある方は少ないと思いますので、とてもいい機会です。
避難所のデータは各自治体のWebサイト等を参考にしてもいいですが、ここでは国土数値情報の「避難施設データ」をダウンロードしてQGISで確認します。

また、ただ歩くだけではなく、GPSロガーで災害に関係しそうなポイントを入力していきます。
例えば、交番や公衆トイレ、電話ボックスなどに加えて、転倒の危険性のある坂道や階段、災害時に無償利用できる自動販売機なども気にして歩きます。
感染症対策も考えて、石鹸の置いてある水飲み場や、マスク・消毒液が購入できるショップなども確認しておくといいでしょう、

GPS(GNSSが主流)を活用したロガーはたくさんありますが、今回はiPhoneアプリ「Simple Logger」、Androidアプリ「GPS Logger」を使います。
これらのアプリは、避難所までのルート(避難ルート)や入力したポイントをKMLやGPXでエクスポートできます。また、メールやAirDropを使って、パソコンに送ることも容易にできます。

図0

ハンズオンの最初は、QGISで避難ルートを読み込み、地図を見ながら学生同士でその結果を共有し合います。
他人の地図を眺めることで、意外な気づきがあるものです。

防災情報の可視化

次に、国土数値情報から「洪水浸水想定区域」「土砂災害警戒区域」 を読み込んでみます。さらに、洪水浸水想定区域の浸水深ランクによって色分けをしていき、土砂災害の現象種別である「急傾斜地の崩壊」「土石流」「地滑り」でも色分けします。
国土数値情報には、災害・防災カテゴリが設けてあり、「地すべり防止区域」や「津波浸水区域」、「高潮浸水想定区域」など、さまざまなデータがありますので、エリアの特性や地形に合わせて使ってみてください。

図1


ここまで、ハンズオンを進めていき、学生同士でディスカッションをします。ポイントはいろいろありますが、
・浸水や土砂災害が起きる場所はどのような地形なのか?
・どのような情報があれば、より安全に避難できるのか?
について話し合い、共有内容を発表します。

地形情報の可視化

余力のある学生は、地理院タイルの「色別標高図」を使い、土地の凸凹を確認します。

図2

古地図を確認するのも有用です。昔はどのような土地だったのか、地名などを含めて確認することができます。迅速測図で見ますと、広く沼地だったことが伺えます。

図3

90分間の授業ですと、大体このあたりで時間一杯となります。

今年はオンラインで行ったこともあり、なかなか細部まで確認することができなかったのですが、学生たちが主体的に防災を考える機会になればと思いますし、全ての方に、このハザードマップ作りをお勧めいたします。

最後に、日本災害情報学会の「避難所に関する提言」をリンクします。
http://www.jasdis.gr.jp/_userdata/other/jasdis_proposal20200515-1.pdf

ハンズオンの一部は、下記の書籍の中でも解説しています。
ぜひ、ご覧になってください。
その問題、デジタル地図が解決しますーはじめてのGIS」(ベレ出版)


参考資料(タイトル画)
高梁川嘉永洪水絵図、早島町教育委員会所蔵、https://www.city.kurashiki.okayama.jp/37310.htm

参考文献
Miniコラム、東京消防庁、https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-kouhouka/kts/kts_03/kts04.html

利用した地図データ
・地理院タイル(全国最新写真)、国土地理院、https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/seamlessphoto/{z}/{x}/{y}.jpg
・地理院タイル(デジタル標高データ)、国土地理院、https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/d1-no455/{z}/{x}/{y}.png
・避難施設データ、国土数値情報、神奈川県、https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-P20.html
・洪水浸水想定区域(ポリゴン)神奈川県、平成24年、国土数値情報、https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-A31-v2_2.html
・土砂災害警戒区域(ポリゴン・ライン)神奈川県、国土数値情報、https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-A33-v1_4.html
・迅速測図、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、http://aginfo.cgk.affrc.go.jp/ws/wms.php?

参考サイト
Simple Logger(操作の参考にしてください)、https://asu-lab.com/gps-app-simplelogger/
GPS Logger(操作の参考にしてください)、http://www.basicairdata.eu/projects/android/android-gps-logger/getting-started-guide-for-gps-logger/



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