雨音を聴きながら。
雨の日は床に寝そべって何をするでもなくぼーっと外を眺めるのが好きだった。
雨は自然の音楽だと言ったのは誰だったか。
初めはロマンチシズムめいてと受け流したものだが、今ではそうでもないと思い直している。
話は少しずれるが、ボレロという曲を知っているだろうか。
きっと作曲家は、踊り子が靴を鳴らして踊る姿を雨音から連想したに違いない。
なぜかって?初めてその曲と踊りを観たとき、頭の中で雨が降ったから。
雨音が少しずつ増えて、重なって、すべての音を飲みこんでいく。
岩さえ穿つことが出来るような力強さをあの曲に感じたんだ。
ふと、一般的に雨とはどんなイメージなんだろうかと思案する。
面倒や、煩わしいとかだろうか。
農家の人なら恵みの雨だろうか。
雨の日にしか着れない服を着れる特別な日かもしれない。
今日はいつにも増して頭が融けているらしい。
思考があちらこちらに揺れ動いている。
これはきっと雨のせいだろう。
そういえば私が床で丸まっていると、決まって彼が隣にやってきた。
私よりも高い体温を撫でてやると、目を閉じて喉を鳴らす。
その穏やかな時間がなによりも幸せだった。
なるほど。今日は子犬のワルツか。
楽しそうに駆け回っている。
私の可愛いワルツ。
主のいないクッションに顔を埋めて、私は瞼を落とす。
視界の端で、雨粒が跳ねたような気がした。