背中に虹色
私の世界はいつも雨が降っている。
傘をさしてもいつの間にか穴ぼこが空いてて、その穴から雨が落ちてくる。
どうせいつも濡れてるからどうでもいいけど。
最初は嫌だった。
でもどんどんどうでもよくなっていって。
いつの間にか濡れてることが当たり前になった。
いつものようにすみっこで座っていたら、急に暗くなった。
なんだろうと思って顔を上げると、知らない男の子が目の前にいた。
…眩しい。
それに、なんだかあったかい。
ぼんやりと彼を眺める。
すると彼が声をかけてきた。
「遊ぼ!」
誘うように手が差し出される。
…私に?どうして?
どうしたらいいか分からなくて迷っていると、彼が目線を合わせるみたいにしゃがみ込んだ。
「一緒に遊ぼうよ!」
ほら、ともう一度手は差し伸べられられる。
目の前の顔と手を見比べたあとにおずおずと手を伸ばしてみる。
するとその手が雨に濡れていくことに気づいた。
しとしとと降る、いつもの冷たい雨。
私のせいで濡れちゃう。
慌てて手を引っ込めると彼が不思議そうに首を傾けた。
私よりも少し大きな手は既にぐっしょりと濡れている。
このままじゃ彼が風邪を引いちゃう。
慌てて立ち上がって距離を取る私に、彼は驚いたようにぱちぱちと瞬きをした。
「どうしたの?」
「…濡れちゃうから」
「すぐ乾くから大丈夫だよ!そんなのいいから一緒に遊ぼ!」
その屈託のない笑顔に、雨音がどこか遠くに行ったような気がした。
「…うん!」
手を掴むと、彼は嬉しそうに笑ってぐいっと私を引っ張りあげた。
「追いかけっこしよ。よーい、どん!」
こちらの返事を待たずに彼は走り出した。
急いで地面を蹴る。
あれ、足が軽い。
いつもはぬかるんだ地面に足を取られるのに。
ぐんぐんと前に進んでいく彼が振り向いて、にっと笑った。
「早くー!」
ああ、眩しいなぁ。
私もそこに行きたい。
…いきたい!
「待って!」
雨を振り切るように、まっすぐに走る。
温かい日差しに向かって、まっすぐに。
【 背中に虹色 】