ホッチキスの「ホッチキス」感
あるとき、友達が言いました。
「ホッチキスってさ・・・『ホッチキス!』って感じだよね!!」
いわく、書類を綴じる時の音や様子が、まさに「ホッチキス」と言っているかのようだ、とのことでした。
そのときは突然の発言に拍子抜けてしまって
「まあ、確かに・・・?」と生返事をしたのですが、
何年も経った今でも、ホッチキスを使う度に彼女の顔が思い出されます。
確かにこれ、「ホッチキス!」って感じ、する。
「ホ」からの「ッチキス!」という絶妙な子音のぶつかりが、綴じる感じをよく表している気がする・・・。
さて、「ホッチキス」という名前の由来を調べてみると、おおもとは人名であるらしいことが分かりました(*1)。
日本で最初に輸入されたホッチキスの製造会社がアメリカの「E・H・ホッチキス社」で、どうも社名が製品にでかでかと書かれていたらしいのです。
そしてその社名は創業者の名前(エーライ・H・ホッチキス)からきていて、彼の兄は機関銃の発明者で、機関銃の弾送りからホッチキスの針送りの仕組みができたとか。
つまり結論としては、ホッチキスという名前の由来に、その音のもつ「ホッチキス!」感は、全くもって関係ありませんでした。
個人的には、ちょっと残念です。
でも、
「ホッチキス」の由来は綴じるとき「ホッチキス!」って感じだからです!
と胸を張って言われた方が、なんだか説得力があるのではなかろうか、と私は思ってしまいます。
あるいは、「ホッチキス」という音だからこそ、その名称は一般化できたのではないか、と。
この、名前の音と「それっぽさ」との関係は、実はさまざまなモノに見られます。
例えばもしゴジラがコシラだったらちょっと弱そうだし、ポムポムプリンはなんだかそれだけで弾力がありそうです。
学問的には、これは音声学の音象徴(おんしょうちょう)として知られる現象です。その一部は実際の口の中の体積や空気圧などで説明されています。例えば「ゴジラ」や「ガンダム」が大きそうに感じるのは、濁音を発音するときに実際に口の中で大きく広がっているから、だそうです(*2)。
私たちがことばを交わすとき、その意味だけを伝えているのではありません。
ことばの音そのものの質感も重要な要素であり、強力な伝達性をもちます。
その意味と音との関係性が強くあらわれるのが、ものの「名前」です。
多くのヒット商品は名前の音が内容と合致しています。
まさに、名は体をあらわす、なのです。
最近はホッチキスに対して、英語圏の「ステープラー」という名称も知られるようになってきました。
それでも私はやはり「ホッチキス」と呼びたいですし、
実際この道具は「ホッチキス」と呼ばれ続けるのではないか、と思っています。
だって、「ホッチキス!」って感じ、しません?
(*1)「ホッチキス」の由来について、主にマックス(株)さんのサイトを参考にしました。私が見た範囲では、他のサイト等でも大きな説の違いなどはありませんでした。
(*2)音象徴に関しては音声学の分野で研究がされています。日本語で読めるものとしては川原繁人さんの『音とことばのふしぎな世界――メイド声から英語の達人まで』(岩波科学ライブラリー、2015)がコンパクトで読みやすいです。本文中の「ゴジラ」と「コシラ」の印象の違いも、本書を参考にしました。